文献情報
文献番号
201610034A
報告書区分
総括
研究課題名
エビデンスに基づいた神経免疫疾患の早期診断基準・重症度分類・治療アルゴリズムの確立
研究課題名(英字)
-
課題番号
H26-難治等(難)-一般-074
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
松井 真(金沢医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 神田 隆(山口大学大学院 医学系研究科)
- 吉良潤一(九州大学大学院 医学研究院)
- 楠 進(近畿大学 医学部)
- 桑原 聡(千葉大学 医学研究院)
- 祖父江 元(名古屋大学大学院 医学系研究科)
- 吉川弘明(金沢大学 保健管理センター)
- 新野正明(独立行政法人国立病院機構北海道医療センター 臨床研究部)
- 池田修一(信州大学 医学部)
- 荻野美恵子(北里大学 医学部)
- 梶 龍兒(徳島大学大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部)
- 久保田龍二(鹿児島大学 医歯学総合研究科)
- 清水 潤(東京大学 医学部)
- 清水優子(東京女子医科大学)
- 鈴木則宏(慶應義塾大学 医学部)
- 園生雅弘(帝京大学 医学部)
- 竹内英之(横浜市立大学 医学部)
- 田中正美(京都民医連中央病院)
- 中辻裕司(富山大学附属病院)
- 河内 泉(新潟大学 脳研究所)
- 野村恭一(埼玉医科大学 総合医療センター)
- 酒井康成(九州大学大学院 医学研究院)
- 藤原一男(福島県立医科大学 医学部)
- 松尾秀徳(独立行政法人国立病院機構長崎川棚医療センター 臨床研究部)
- 横田隆徳(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科)
- 本村政勝(長崎総合科学大学)
- 山村 隆(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)
- 渡邊 修(鹿児島大学大学院 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
14,777,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 中辻裕司
大阪大学医学系研究科(平成28年4月1日~平成28年11月30日)→富山大学附属病院(平成28年12月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
指定難病に認定された神経免疫疾患である多発性硬化症(MS)・視神経脊髄炎(NMO)、重症筋無力症(MG)、慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)・多巣性運動ニューロパチー(MMN)、クロウ・フカセ症候群、HTLV-I関連脊髄症(HAM)、ビッカースタッフ脳幹脳炎、Isaacs症候群、アトピー性脊髄炎について、診断基準や重症度分類が、従来から知られるエビデンスあるいは新たに確立されたエビデンスと照らし合わせて妥当なものであるかどうかを検証することを第一の目的とした。二つ目には、難病指定されるべき疾患ではあるが、その概要を十分に記載できない自己免疫性脳炎、肥厚性硬膜炎、スティッフパーソン症候群、ランバート・イートン筋無力症候群などについて、診断基準や重症度分類を策定し得るような疫学的情報を調査する基盤を構築することを設定した。
研究方法
研究対象疾患は免疫異常が関与するため、早期診断、重症度、治療選択基準のいずれにおいても、免疫動態などの疾患活動性マーカーの研究が必要である。一方、画像情報処理や診断方法の開発や検証、病理組織所見と臨床像との関連をみる研究は、日々の実臨床に直結する。いずれも重要な研究対象であるが、各疾患で主体となる免疫異常や臨床症状が異なるため、画一的な研究方法をとることは不可能である。このため、神経免疫疾患を6つに群別し、領域別担当幹事を6名指名して、グループ内で意見を調整しながら調査研究を進める手法を引き続き採用した。本年度行った多施設共同研究のうち、MS・NMOの重症者認定基準の見直しは中央事務局で倫理申請を行い、これのみで調査可能と判断された施設で実施した。一方、MS・NMO高次脳機能評価検査(BICAMS)のvalidationと、日本人眼筋型MG患者の臨床像の疫学研究は、各施設で倫理申請を行って実施した。施設単位での研究は、班員・研究協力者の所属する各施設の倫理規定に従って行なわれた。
結果と考察
MS・NMOについては、従来の重症者認定基準であるEDSS≥4.5の基準が最適であるかを検証するため多施設共同研究を行い、日常生活動作を評価するmodified Rankin scale(mRS)を併用して、「EDSS≥4.5もしくはmRS≥3のどちらかを満たすこと」と基準を改める方が現状に即していることが判明した。また、MS・NMO診療ガイドラインを完成させた。さらに、高次脳機能障害の評価を行うことを目的としてBICAMSの日本語版の有用性を確認し、小児の脱髄性疾患診断基準を策定した。MGについては、新規診断基準から漏れたアイスパック試験は客観的な感度・特異度の評価が困難であることが判明した。胸腺摘除術の再評価を受けて、MGの治療アルゴリズムを作成した。さらに、多施設共同により、眼筋型MGの本邦における特徴を明らかにした。MS・NMOやMGでは、診断基準・重症度分類、診療ガイドライン等が整備されたことから、各々の前回調査から10年余りを経た平成29-30年度をめどに、小児を含めた全国調査を実施し、治療選択肢の変化・増加に対して、患者の背景や予後の変化、さらにQOL改善の有無などの視点を加味して調査を行うべき時期が来ている。高次脳機能障害度評価法(BICAMS)の項目をMS・NMO調査に採用するとともに、MGでは、抗AChR抗体および抗MuSK抗体両者を含めた調査を行い、同時に希少疾患であるランバート・イートン筋無力症候群の全国調査を併行して実施すると有意義であると考えられた。一方、CIDPやHAMについてはAMEDや他の政策研究班による研究が動いており、本班会議は後方連携の役割を担うべき存在と判断した。自己免疫性脳炎は全国二次調査を行える状況にあり、平成29年度中に調査を施行することが望ましい。肥厚性硬膜炎とスティッフパーソン症候群は診断基準案と重症度分類案が作成されたことから、平成29年度に全国一次調査を行うべき基盤が構築されたと考えられる。
結論
本班では、免疫異常の関与する神経疾患全体をカバーして、政策研究の内容や方向性を調整すべき役割が増しており、班独自の研究目的とその達成度が曖昧になりがちである。しかし、これこそが最重要の存在意義であるという認識を堅持することが、関連疾患全体の研究促進に繋がるものと考えられる。なぜならば、実用化研究班(AMED)における基礎分野の学際的研究の成果が、本政策研究班での多岐にわたる対象疾患への応用(早期診断基準や重症度分類の策定、治療アルゴリズムの作成)に繋がっており、本年度のAMED班との合同班会議では、活発な討議が行われ新たな課題などが提示されたからである。
公開日・更新日
公開日
2017-05-31
更新日
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