文献情報
文献番号
201610008A
報告書区分
総括
研究課題名
脊柱靭帯骨化症に関する調査研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-038
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
大川 淳(国立大学法人東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科整形外科学)
研究分担者(所属機関)
- 岩崎 幹季(大阪労災病院 整形外科)
- 中嶋 秀明(福井大学医学部器官制御医学講座 整形外科学)
- 川口 善治(富山大学大学院医学薬学研究部 整形外科学)
- 山崎 正志(筑波大学医療系学部 整形外科学)
- 中村 雅也(慶應義塾大学医学部 整形外科学)
- 松本 守雄(慶應義塾大学医学部 整形外科学)
- 竹下 克志(自治医科大学医学部 整形外科学)
- 今釜 史郎(名古屋大学大学院医学系研究科整形外科学)
- 松山 幸弘(浜松医科大学 整形外科学)
- 芳賀 信彦(東京大学医学部 リハビリテーション医学)
- 森 幹士(滋賀医科大学 整形外科学)
- 吉田 宗人(和歌山県立医科大学 整形外科学)
- 遠藤 直人(新潟大学教育研究院医歯学系 整形外科学)
- 小宮 節郎(鹿児島大学大学院運動機能修復学講座 整形外科学)
- 高畑 雅彦(北海道大学病院 整形外科学)
- 小澤 浩司(東北医科薬科大学医学部 整形外科学)
- 土屋 弘行(金沢大学医薬保健研究域医学系・整形外科学)
- 種市 洋(獨協医科大学 整形外科学)
- 山本 謙吾(東京医科大学 整形外科学)
- 渡辺 雅彦(東海大学医学部外科学系 整形外科学)
- 藤林 俊介(京都大学大学院医学研究科 運動器機能再建学講座)
- 田中 雅人(岡山大学医歯薬学総合研究科 整形外科学)
- 田口 敏彦(山口大学大学院医学系研究科 整形外科学)
- 中島 康晴(九州大学大学院医学研究院 整形外科学)
- 鬼頭 浩史(名古屋大学大学院医学系研究科総合医学専攻運動形態外科学)
- 吉井 俊貴(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科整形外科学)
- 波呂 浩孝(山梨大学大学院医学工学総合研究科 整形外科学)
- 国府田 正雄(千葉大学大学院医学研究院 整形外科学)
- 石橋 恭之(弘前大学大学院医学研究科整形外科学)
- 佐藤 公昭(久留米大学医学部 整形外科)
- 筑田 博隆(群馬大学大学院医学系研究科整形外科学)
- 海渡 貴司(大阪大学大学院器官制御外科学 整形外科脊椎脊髄外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等政策研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
16,387,000円
研究者交替、所属機関変更
【所属機関異動】
研究分担者 筑田 博隆
所属機関名 東京大学医学部附属病院(平成28年4月1日~平成29年1月31日)
→群馬大学 (平成29年2月1日~平成29年3月31日)
研究報告書(概要版)
研究目的
脊柱に靭帯骨化をおこす、後縦靱帯骨化症(OPLL)、黄色靭帯骨化症(OYL)、びまん性特発性骨増殖症(DISH)、進行性骨化性線維異形成症(FOP)の診断基準、重症度分類の作成、診療ガイドライン(GL)の作成、改訂に資するエビデンス集積のため、各疾患に対する多施設研究を中心とした臨床研究を行う。
研究方法
1)ハイリスク脊椎手術における術中脊髄モニタリングのアラームポイント設定、2)CTを用いた頸椎OPLLにおける全脊柱評価、3)DISHにおける脊椎損傷、4)頚椎OPLL患者における転倒による症状悪化に対する手術の影響、5)胸椎OPLLの手術成績、6)FOP患者のQOL調査など、多数の多施設研究projectを立ち上げ、統一したフォーマットでデータベースを作成し、医学的根拠を蓄積していく。
結果と考察
1)16施設で行われたハイリスク脊椎手術症例(2432例)である脊柱後縦靭帯骨化症、脊髄腫瘍 、側弯症手術に対して行った術中モニタリングに関してMEPのアラームポイントを70%振幅低下として調査を行った。モニタリングの精度は感度94.2%,特異度90.6%、陽性的中率32.8%、陰性的中率99.7%、偽陽性率9.4%、偽陰性率5.8%であった。頚椎OPLLは術中波形回復する割合が比較的高く(86.2%)、術中モニタリングの有用性が示された。
2)頚椎OPLL患者の全脊柱をCT撮影し、OPLL、黄色靭帯骨化(OLF)、前縦靭帯骨化(OALL)、棘上靭帯骨化(バルソニー結節)、棘上棘間靱帯骨化(OSIL)について相互関連の調査を行った。頚椎OPLL骨化指数によって重症度を3段階に分類すると、頚椎OPLLの骨化指数が重度の患者群では、他部位(胸腰椎)の各靭帯において、重度の骨化を有するリスクが高いことが明らかとなった。
3)全国18施設にてDISH脊椎損傷に対して治療を行った285例を対象に調査を行った。受傷形態は立位もしくは座位からの転倒が51.2%と最も多く、受傷時の神経症状はFrankel分類A 13.0%、B 6.0%、C 15.4%、D 12.2%、E 53.3%であったが、遅発性麻痺による神経症状の悪化を40.9%に生じた。診断の遅れは40.4%に認め、doctor’s delayが59.1%と、patient’s delayの40.9%よりも多く認め、診断の遅れがあったものでは有意に遅発性麻痺を認めた。
4)全国11施設から350例の症例集積を行った。その結果、1年間に1回以上の転倒・転落を経験した患者の割合は、術前171名(49%)から術後98名(28%)と有意に減少した(P < 0.001)。転倒の際に症状の悪化(感覚障害のみ悪化を含む)を自覚した患者は、術前102名(29%)であったが、術後28名(8%)と有意に減少した(P < 0.001)。特に運動障害の悪化を自覚した患者は、術前の64名(18%)から術後6名(2%)と大きく減少した。このことから手術治療は外傷を契機とした症状の悪化を予防することが確認された。
5)2011年12月以降に胸椎OPLL手術115例が前向きに登録され、その手術成績を調査した。術式は前方除圧固定8例 (7%)、後方手術は後方固定術4例 (3.5%)、椎弓切除術6例 (5.2%)、後方進入前方除圧固定術12例 (10%)、後方除圧固定術 (矯正固定術含む) 85例 (74%)であった。JOAスコア改善率は術後1年では平均55%であった。術式別JOA改善率 (1年)は有意差がなかった。一過性を含む術後麻痺発生は40例 (35%)で、術後半年のJOAスコア改善率は術中エコーでの脊髄浮上した症例で有意に高かった。
6)FOP患者に対してアンケートを通して患者の症状経過と身体機能を評価した。Barthel Index(BI)の合計点は初回評価時平均50点、4年後41.3点、6年後37.5点であり、全体としてはADLの変化に有意差はなかった。初回評価時の年齢により3群に分け各々の変化をみたところ、合計点の平均は初回→6年後評価では19歳以下65→60点、20~39歳50→45点、40歳以上20→0点であった。10歳代の患者でも整容、入浴、更衣で点数が低いのに対し、初回評価では年齢が高くても排便、排尿は点数が保たれていたが4、6年後年後の評価では低下していた。
2)頚椎OPLL患者の全脊柱をCT撮影し、OPLL、黄色靭帯骨化(OLF)、前縦靭帯骨化(OALL)、棘上靭帯骨化(バルソニー結節)、棘上棘間靱帯骨化(OSIL)について相互関連の調査を行った。頚椎OPLL骨化指数によって重症度を3段階に分類すると、頚椎OPLLの骨化指数が重度の患者群では、他部位(胸腰椎)の各靭帯において、重度の骨化を有するリスクが高いことが明らかとなった。
3)全国18施設にてDISH脊椎損傷に対して治療を行った285例を対象に調査を行った。受傷形態は立位もしくは座位からの転倒が51.2%と最も多く、受傷時の神経症状はFrankel分類A 13.0%、B 6.0%、C 15.4%、D 12.2%、E 53.3%であったが、遅発性麻痺による神経症状の悪化を40.9%に生じた。診断の遅れは40.4%に認め、doctor’s delayが59.1%と、patient’s delayの40.9%よりも多く認め、診断の遅れがあったものでは有意に遅発性麻痺を認めた。
4)全国11施設から350例の症例集積を行った。その結果、1年間に1回以上の転倒・転落を経験した患者の割合は、術前171名(49%)から術後98名(28%)と有意に減少した(P < 0.001)。転倒の際に症状の悪化(感覚障害のみ悪化を含む)を自覚した患者は、術前102名(29%)であったが、術後28名(8%)と有意に減少した(P < 0.001)。特に運動障害の悪化を自覚した患者は、術前の64名(18%)から術後6名(2%)と大きく減少した。このことから手術治療は外傷を契機とした症状の悪化を予防することが確認された。
5)2011年12月以降に胸椎OPLL手術115例が前向きに登録され、その手術成績を調査した。術式は前方除圧固定8例 (7%)、後方手術は後方固定術4例 (3.5%)、椎弓切除術6例 (5.2%)、後方進入前方除圧固定術12例 (10%)、後方除圧固定術 (矯正固定術含む) 85例 (74%)であった。JOAスコア改善率は術後1年では平均55%であった。術式別JOA改善率 (1年)は有意差がなかった。一過性を含む術後麻痺発生は40例 (35%)で、術後半年のJOAスコア改善率は術中エコーでの脊髄浮上した症例で有意に高かった。
6)FOP患者に対してアンケートを通して患者の症状経過と身体機能を評価した。Barthel Index(BI)の合計点は初回評価時平均50点、4年後41.3点、6年後37.5点であり、全体としてはADLの変化に有意差はなかった。初回評価時の年齢により3群に分け各々の変化をみたところ、合計点の平均は初回→6年後評価では19歳以下65→60点、20~39歳50→45点、40歳以上20→0点であった。10歳代の患者でも整容、入浴、更衣で点数が低いのに対し、初回評価では年齢が高くても排便、排尿は点数が保たれていたが4、6年後年後の評価では低下していた。
結論
研究班3年目の最終年度となり、数多くのデータを多施設より集積する研究方法がほぼ確立した。既に従来の研究とは異なる桁数のデータ収集が進んでおり、これまで権威ある国際雑誌に研究班から複数の多施設臨床研究が掲載されている。これらの成果を新たな診療ガイドラインに反映させていく。
公開日・更新日
公開日
2017-05-26
更新日
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