女性の健康における社会的決定要因とライフスタイルに関する研究

文献情報

文献番号
201609003A
報告書区分
総括
研究課題名
女性の健康における社会的決定要因とライフスタイルに関する研究
課題番号
H28-女性-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
林 芙美(女子栄養大学 栄養学部 食生態学研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 瀧本秀美(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所 栄養疫学研究部)
  • 吉池信男(青森県立保健大学 健康科学部栄養学科)
  • 石川みどり(国立保健医療科学院 生涯健康研究部)
  • 本庄かおり(大阪大学大学院 薬学研究科)
  • 大淵裕美(奈良学園大学 人間教育学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 女性の健康の包括的支援政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 本庄かおり 所属機関名 大阪大学大学院 医学系研究科 公衆衛生学教室 特任准教授 →大阪大学大学院 薬学研究科 招へい准教授(平成28年10月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
女性における望ましい健康の実現に向けて、1)ライフステージごとに変化する医学的・社会学的課題の特定と、2)健康格差に影響する健康の社会的決定要因についての検討,3)困難な状況下でも主体的な健康づくりを実践できている少数派(ポジデビ)を特定し、その問題解決法を明らかにすること、以上の3つを目的に研究を実施した。
研究方法
研究1では、日本人女性における健康とその社会的決定要因についてエビデンスを整理することを目的とし、PubMedを用いて国内外の先行研究をレビューした。なお、健康の社会的決定要因は、WHOの概念的枠組み1)に基づき「構造的決定要因」と「中間決定要因」にわけ、その組み合わせによる健康との関連について検討を行った(林)。
研究2では、全国規模の既存の調査データ等を用いた検討に加え、疾病リスクの高い地域(青森県)や居住形態(独居)に重きを置いた一部のハイリスク集団のデータを用い、以下の計4つの検討を行った。
1)平成22、23、26年国民健康・栄養調査の生活習慣調査データを用い、女性の健康状態と世帯年収との関連について検討を行った(瀧本、他)。
2)就労女性の健康に関する社会的決定要因を把握することを目的とし、既存の研究やその他資料をもとに、雇用形態、仕事と家庭の葛藤、教育歴と就業の不一致、社会的役割の健康影響について、性別役割分業規範の影響に関する考察を加えた文献レビューを行った(本庄)。
3)疾病リスクの高い地域(青森県)のデータを用いた検討では、勤労若年女性の健康課題(肥満)について、ライフスタイルとの関連について検討した(吉池)。
4)居住形態(独居)に着目した検討では、独居高齢女性における食行動と健康の社会的決定要因との関連を検討した(石川)。
研究3では、研究1・2を踏まえ、成人女性を対象にインターネット調査を実施し、ライフステージにより変化する諸課題の把握や、社会経済的状況や心理社会的要因、行動的要因などが女性の健康・ウェルビーイングにどのように影響するか検討した(林、他)。
研究4では、シングルマザーを対象に、困難な状況下でも主体的な健康づくりを実践する者(ポジデビ)の行動特性について質的な検討を実施した(大淵)。
結果と考察
研究1から研究3より、成人女性の健康の社会的決定要因は様々であり、学歴、就労状況、収入といった構造的決定要因だけでなく、心理社会的要因や行動的要因などの中間決定要因の影響も多数確認された。また、就労女性においては、性別役割分業規範の影響なども踏まえて男性とは異なる支援が必要である可能性が示唆された。
研究4では、シングルマザーという困難な状況下にあっても、良好な心身の健康状態を維持するポジデビには、問題解決法として、生活基盤安定のためにサポートネットワークの保持や経済的資源確保の工夫などといった、社会資源を生活資源に活用する行動特性があることを見出した。今後は、他のサンプルによる質的研究や量的研究に発展させることにより、この知見の有効性を検証する必要がある。
以上の結果を踏まえ、今後は、構造的決定要因と健康・ウェルビーイングとの間を中間決定要因がどのように媒介しているのか、その関連構造・プロセスを明らかにすることが課題である。また、女性の健康の維持・向上には、ジェンダーの視点の重要性などの知見をもとに、個人の意識改革だけでなく、社会制度・慣行の見直しも重要であると示唆された。
結論
本研究課題は単年度のものであったが、医学・社会学・疫学・栄養学等の多分野の共同研究により当初の計画通りに進捗し、女性を取り巻く健康課題とその社会的決定要因について今後の政策提言に向けてエビデンスを整理することができた。また、得られた成果の一部は学術論文及び学会にて発表した。今後は、研究分担者がそれぞれの立場でさらに研究を続け、女性の健康づくりの推進に貢献する所存である。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201609003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の結果,成人女性の健康の社会的決定要因は様々であり,学歴,就労状況,収入といった構造的決定要因だけでなく,心理社会的要因や行動的要因などの中間決定要因の影響も多数確認された。また,就労女性においては,性別役割分業規範の影響なども踏まえて男性とは異なる支援が必要である可能性が示唆された。更に,良好な心身の健康状態を維持するための問題解決法として,社会資源を生活資源に活用する行動特性があることを見出した。
臨床的観点からの成果
該当なし。ただし,男女共に平均寿命が最も低い青森県において,勤労若年女性を対象とした検討の結果,横断的な検討ではあるが,過去1年間あるいは現在の職場に就職してからの体重増加量に関連する食行動・生活パターン等の因子を見出すことができた。今後は,若年就労女性の肥満(過体重)予防対策として,労働を含む生活リズムをより重視する必要があると考えた。
ガイドライン等の開発
該当なし。ただし,2018年度に実施した本研究の成果については,今後,学術誌に発表するとともに,研究活動の内容や成果を社会・国民に対して積極的に情報提供を行う予定としている。本研究により,女性の健康を考える際には,就業の有無,就業形態(正規,非正規)などの職業に関する要因に加え,家庭に関する要因も考慮する必要性を示した。今後,個人の意識改革だけではなく,ジェンダーの視点を持った社会制度への介入も重要だと考えている。
その他行政的観点からの成果
・非正規雇用者の間でも家計の補助としての就労か,生活を支えなければならない就労かにより健康影響に違いがみられた。
・高学歴であっても結婚等により仕事を離れ,その後非正規雇用で就労する教育歴と職業階層の不一致が健康に影響する可能性が示唆された。
・就労女性でも家庭内における役割が複数の女性(親,子ども,配偶者)に比べて,役割が1つの女性ではリスクの上昇がみられた。
これらの結果より,女性の健康の維持・向上には,個人の意識改革だけでなく,社会制度・慣行の見直しも重要であると示唆された。
その他のインパクト
2018年度に実施した本研究の成果については,今後,学術誌に発表するとともに,研究活動の内容や成果を社会・国民に対して積極的に情報提供を行う予定としている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ishikawa M, Yokoyama T, Hayashi F, et al.
Subjective well-being is associated with food behavior and demographic factors in chronically ill older Japanese people living alone
Journal of Nutrition, Health and Aging , 22 (3) , 341-353  (2018)
10.1007/s12603-017-0930-3
原著論文2
Ishikawa M, Takemi Y, Yokoyama T, et al.
“Eating together” is associated with food behaviors and demographic factors of older Japanese people who live alone
Journal of Nutrition, Health and Aging , 21 (6) , 662-672  (2017)
10.1007/ s12603-016-0805-z.
原著論文3
千葉綾乃, 小山達也, 岩部万衣子, 他.
青森県の勤労若年女性における体型と食行動との関連~「女子会」での消費行動に着目して~
青森保健医療福祉研究 , 1 , 34-43  (2019)
http://doi.org/10.24552/00002150
原著論文4
千葉綾乃, 岩部万衣子, 吉池信男.
肥満にかかわる背景因子-若年勤労成人の男女差
肥満研究 , 25 (1) , 38-51  (2019)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
2023-12-18

収支報告書

文献番号
201609003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,000,000円
(2)補助金確定額
6,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,436,854円
人件費・謝金 673,162円
旅費 1,094,318円
その他 1,840,809円
間接経費 1,000,000円
合計 6,045,143円

備考

備考
自己資金45,143円

公開日・更新日

公開日
2018-06-04
更新日
-