女性の健康における社会的決定要因に関する研究:日本人女性の特異性と健康問題の将来予測

文献情報

文献番号
201609002A
報告書区分
総括
研究課題名
女性の健康における社会的決定要因に関する研究:日本人女性の特異性と健康問題の将来予測
課題番号
H28-女性-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
野田 愛(池田 愛)(順天堂大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 本庄 かおり(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 磯 博康(大阪大学大学院医学系研究科)
  • 竹田 省(順天堂大学院医学研究科)
  • 松浦 広明(松蔭大学学術総合センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 女性の健康の包括的支援政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 女性の健康に影響を与える社会決定要因についてシステマティックレビューを行うとともに、市町村等で実施されている女性に対する健康支援対策の中で好事例の調査を行い、さらに大規模疫学調査や既存統計データを用いて、女性の就労状況、婚姻状況等について将来推計を行い、今後予想される人口構成、上記女性の社会状況の変化を同時に考慮することで、2030年までの人口寄与危険度割合を予測し、今後の女性の健康増進に必要な対策を明らかにすることを目的とした。
研究方法
 女性の健康における社会決定要因と考えられる婚姻形態、同居家族構成、ソーシャルサポートや、社会経済状況と女性の健康との関連に関するシステマティックレビューを実施するため、MEDLINEから対象国を日本と調査対象(動物実験除く)、言語(英語)、論文形式(総説やレターなど除外)に固定した上で、文献を抽出した。
 上記システマティックレビューの成果を補完する目的で、2011年から開始した、わが国の大規模疫学調査(JPHC-Next研究)に参加した40-74歳の女性約4.5万人を対象に、社会経済状況と生活習慣との関連について世代別に横断的な解析を行った。
 市町村等自治体を対象に、女性のライフステージ毎の社会的・経済的要因に応じた疾病予防対策に関する質問票調査および聞き取り調査を実施した。質問票作成に当たっては、少子高齢化に伴う人口構造の変化および地域特性を考慮するため、都市部から農村部までを対象に事前聞き取り調査を行い、自治体や自治体の取組を支援している民間団体による女性の健康増進施策(周産期・更年期精神保健ケアを含む)の実態を把握し、質問票を作成した。市町村を女性の社会経済状況と死亡率によって層別化し、241の市町村に対して、郵送による質問票調査を行った。
 就業構造基本調査、人口動態調査(死亡)、国民生活基礎調査の調査票情報利用申請を進め、女性の就業状況および婚姻状況の2030年までの変化を、上記統計データから、Age-Period-Cohort(APC)モデルおよびマイクロシュミレーションモデル(INAHSIM:Integrated Analytical Model for Household Simulation)の両手法を用いて将来推計を行った。
 また、シミュレーションの確定結果なども踏まえて、就業状況・婚姻状況ごとの総死亡に関する相対危険度(Honjo et al., 2015)を組み合わせて、年齢階級毎の寄人口与危険割合を算出した。
結果と考察
 システマティックレビューの結果、日本人女性を対象にした研究は十分ではなく、特に子育て期(20~30歳代)の女性を対象としたエビデンスや、就労や所得・収入に関連するエビデンスが少ないことが示された。一方で、その限られたエビデンスの中から、日本における社会的健康決定要因と健康指標の関連に、顕著な性差が認められることが示された。また、わが国の大規模疫学調査(JPHC-Next研究)結果では、どの世代においても、ワーク・ライフ・バランスが悪い女性ほど、主観的健康観が悪く、うつやストレスの度合いも強い傾向であった。
 市町村等を対象に、女性のライフステージ毎の疾病予防対策について好事例を収集した結果、周産期女性に対する健康支援を最近になって開始した市町村が多く、評価には更なる観察が必要であるが、周産期女性への健康支援は、女性の社会・経済状態がよい市町村において、高い頻度で取り組まれていた。一方で、更年期女性に対する健康支援を取り組んでいる市町村は非常に少なかった。また、女性の社会・経済状態が悪く、死亡率の低い地域においては特定保健指導終了率が顕著に高いことが明らかとなった。
 女性の就労状況、婚姻状況に関する将来推計については、過去の統計データから2000年代からの急激な非婚姻女性の正規労働者の減少と、パートタイム労働者の増加が観測され、マイクロシュミレーションモデルを用いた結果、2030年には、非婚姻女性の間で、パートタイム従業員の割合が増加する事により、家庭からも、雇用からも十分に保護を受ける事のできない40歳~59歳の女性の割合が増加し、死亡に関する人口寄与危険度割合が増加する事が予測された。
結論
 日本人女性に関する科学的知見は非常に少なく、更なる研究推進が必要性であるが、日本人女性においては、性別役割分業規範といった社会的特徴が、女性の健康に大きく影響していることが示唆された。今後は、保健行政部門内外での連携を促し、未婚者、非正規雇用者、及び自営業者に対する支援を行うことで、死亡率を減らす方策を進めることが必要である。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-26
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201609002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、日本の女性の健康に影響を与える社会決定要因についてのシステマティックレビューを行い、エビデンスの検証・整理を行った。これにより、女性を対象とした今後の健康支援対策事業を支える科学的基盤をより堅固にすることができた。
臨床的観点からの成果
地方自治体における女性の健康増進施策の実態を調査し、好事例集としてまとめたことにより、今後、重点的に取り組む必要のある女性のライフステージごとの健康支援施策が明らかにされるとともに、本研究において集められた好事例を、国または他の地方自体において展開することが可能となった。
ガイドライン等の開発
今後2030年までの15年間に求められる女性の健康増進施策のあり方について、現場での状況と今後の人口学的・社会経済的な変化を踏まえつつ、エビデンスに基づいた政策オプションを提示した。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果が、今後の厚生労働行政施策へ応用され、将来起こりうる社会決定要因による健康影響が生じる前に、必要な施策を実施することで、当該健康影響が未然に防がれることが期待される。
その他のインパクト
本研究成果は、国及び地方の行政機関のみならず、女性の健康課題解決に資する事業参入を考えている民間団体においても、事業計画を立てる上で利活用できる情報であり、官民共にとって、有益な成果であると考えられる。
 また、本研究の成果については、第23回日本行動医学会学術総会のシンポジウム(2017年3月沖縄)、科研費シンポジウム(2018年12月広島)において発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2021-06-07
更新日
2023-12-18

収支報告書

文献番号
201609002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,000,000円
(2)補助金確定額
5,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,071,141円
人件費・謝金 1,442,422円
旅費 709,144円
その他 627,883円
間接経費 1,153,000円
合計 5,003,590円

備考

備考
自己資金:3590円

公開日・更新日

公開日
2017-10-19
更新日
-