文献情報
文献番号
201608010A
報告書区分
総括
研究課題名
健康診査・保健指導の有効性評価に関する研究
課題番号
H28-循環器等-一般-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
永井 良三(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 磯 博康(大阪大学大学院医学系研究科)
- 山縣 然太朗(山梨大学大学院総合研究部医学域 社会医学講座)
- 津下 一代(公益財団法人愛知県健康づくり振興事業団あいち健康の森健康科学総合センター)
- 三浦 克之(滋賀医科大学医学部)
- 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター予防健診部/研究開発基盤センター予防医学・疫学情報部)
- 岡村 智教(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学)
- 小池 創一(自治医科大学地域医療学センター地域医療政策部門)
- 古井 祐司(東京大学政策ビジョン研究センター)
- 立石 清一郎(産業医科大学産業医実務研修センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では予測される将来の健康リスクを把握し早期予防につながる施策とするために健診や関連した事後指導等の評価方法を検討した。評価方法は保健事業における実行性を鑑みて設計するものとし長期的多角的な視点から検証した。
研究方法
研究班では「健診のあり方の検討」、「施策実行性の検討」の課題に応じて、2つの分科会を設けた。健診のあり方の検討では予測される発症リスクをスクリーニングしリスク軽減を図る早期の予防介入につながる評価指標および評価方法を検討した。検討にあたっては「特定健診・保健指導における健診項目等の見直しに関する研究」(研究代表者・自治医科大学 永井良三学長;H25-27年度)での方法に準拠し国内外の文献調査やコホート研究フィールドを活用した。健康診査・保健指導の効果に関しては、評価指標と疾病発症モデルとの組み合わせによる推計を行い施策導入の優先度や資源の最適配分を検討する基礎資料にすることとした。なお生涯を通じて健康増進を図る健康診査のあり方の検討に際しては、現行のそれぞれの健康診査の背景や根拠となる法制度が異なることから、短期的な取組みが可能な事項、長期的な検討が必要な事項、解決すべき課題を整理して実施することとした。施策実行性の検討に関しては、保健事業の現場で適用可能な予防介入施策を検討した。健診を起点と捉えた際にスクリーニングとその後の予防介入が分断され効率的な事業運営がされていない現状を鑑み健康診査に保健指導などの事後フォローを含める設計などを検討した。また、家庭、学校、職場といった日常の動線に予防を促す仕組みを導入する要件についても整理した。
結果と考察
健診のあり方については、成人を対象に行われている循環器疾患や糖尿病予防を対象とした健診制度について、現状の制度で期待される効果、今後充実させるべき方向性、事業実施のあり方について検証した。1)メタボリックシンドローム(MS)を有する者の保健指導参加率を50%、そのうち半分がMSから脱却したと仮定すると約2%の糖尿病新規発生を抑制する。しかし既に糖尿病だった者には事業の効果は及ばないので集団全体の糖尿病有病率はほとんど不変と考えられた。2)地域での糖尿病患者において、eGFRの低下に関連する因子として年齢、低HDL、喫煙が示された。一方、HbA1cが低いとeGFRが低いという矛盾した関連が見られ、早期の糖尿病性腎症のhyper-filtrationや高齢による筋肉量の下などの影響が考えられた。3)循環器疾患の発症予測には性別、年齢の他に古典的な危険因子(高血圧、高コレステロール血症、糖尿病、喫煙)が重要であるが新しいリスクスコアで高度肥満は危険因子と独立に循環器疾患発症を予測することが示された。4)糖尿病の発症予測には肥満度よりも血糖値やHbA1cが重要である。また肝機能異常(脂肪肝)は独立した予測要因であるが、予測能を大きく改善すべきものではなかった。5)血管内皮機能の指標であるFMDはMSの構成要素と関連するため保健指導の指標として使える可能性がある。6)産業保健の現場では健診そのものに対する役割において医療現場や臨床医との認識の相違があり、今後、有効な事業展開をしていくためにはその克服が重要である。施策実行性の検討では、健診受診の構造を把握したうえで健診受診者への働きかけを導入し健診結果の理解と健康行動を促す新たな健診の設計を検討し試行的な事業による検証を行うこととした。A県では平成23年度から平成27年度の5年間すべて連続して特定健診を受診した被保険者は2割を占め5年間一度も受診をしていないのは4割超であった。残りの3分の1は5年間で1~4回受診をしていた。最も受診者数が少ない受け方(パターン)は「〇×〇×〇」で最多は「×〇〇〇〇」であった。一方、日常生活の動線に予防を促す仕組み導入としては、予防教育の早期開始と、子どもから大人への動線(家族単位)での健康意識の啓発を図る目的で義務教育課程に予防啓発プログラムを含める設計とその検証を行うこととした。初年度は小学校における類似プログラムの概要を把握したうえで、研究フィールドとして協力を得たB県における2年度の試行に向けて、プログラムの概要を整理した。対象は小学校6年生(B県内のモデル校)とし方法として保健体育の授業の中で実施、2時間で構成する。体制は県、教育委員会、大学の連携のもとで実施することとした。
結論
本研究では、成人を対象に行われている循環器疾患や糖尿病予防を対象とした健診制度について検証し現状の制度で期待される効果、今後充実させるべき方向性、事業実施のあり方についての知見が示された。また保健事業の起点となり得る健診の設計に示唆が得られ、予防教育の早期開始を図る目的で学校教育に導入する予防教育プログラムのあり方が整理された。
公開日・更新日
公開日
2017-09-01
更新日
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