小児がん拠点病院を軸とした小児がん医療提供体制のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201607004A
報告書区分
総括
研究課題名
小児がん拠点病院を軸とした小児がん医療提供体制のあり方に関する研究
課題番号
H26-がん政策-一般-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
松本 公一(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 藤本 純一郎(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
  • 井口 晶裕(北海道大学病院小児科)
  • 笹原 洋二(東北大学大学院医学系研究科 発生・発達医学講座 小児病態学分野)
  • 康 勝好(埼玉県立小児医療センター 血液腫瘍科)
  • 湯坐 有希(東京都立小児総合医療センター 血液・腫瘍科)
  • 後藤 裕明(神奈川県立こども医療センター 血液・再生医療科)
  • 高橋 義行(名古屋大学大学院医学系研究科小児科学)
  • 平山 雅浩(三重大学大学院医学系研究科小児科学分野)
  • 足立 壮一(京都大学医学研究科人間健康科学系専攻)
  • 家原 知子(京都府立医科大学小児科)
  • 井上 雅美(大阪府立母子保健総合医療センター 血液・腫瘍科)
  • 藤崎 弘之(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
  • 小阪 嘉之(兵庫県立こども病院 小児がん医療センター)
  • 小林 正夫(広島大学大学院医歯薬保健学研究院)
  • 田口 智章(九州大学大学院医学研究院小児外科学分野)
  • 小川 千登世(国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科)
  • 瀧本 哲也(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 臨床研究開発センター/データ管理部 小児がん登録室)
  • 小原 明(東邦大学医学部小児科)
  • 前田 美穂(日本医科大学小児科)
  • 小俣 智子(武蔵野大学人間科学部)
  • 井上 玲子(東海大学健康科学部看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
10,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、拠点病院及び小児がん診療病院における診療連携方法の確立を研究し、チーム医療の推進により、真に機能する連携のあり方を検討し、長期フォローアップの仕組みを構築することを目的とする。
研究方法
1)小児がん診療連携方法の確立とチーム医療のあり方
 関東甲信越地区において、小児がん診療病院の疾患別新入院患者数、造血細胞移植患者数、再発患者数などを収集し、WEB上に公開する仕組みを構築した。新入院患者数、患者在院延べ日数を比較して、小児がん患者の動態調査を行った。
2)小児がん診療におけるQuality Indicator (QI)の作成
 小児がん診療についてのQIとして36指標のQIを選定し、各拠点病院において調査を行った。
3)小児がん経験者や家族の実態調査
 小児がん経験者の実数ならびに実態をアンケート調査および実際の聞き取り調査で把握した。
4)小児がん経験者を長期にフォローし支援する仕組みの検討
 フォローアップ計画策定システムを基に改良を行い、「JPLSG治療のまとめ」からフォローアップ計画を算出するシステムを構築し検討した。
結果と考察
1)小児がん診療連携方法の確立とチーム医療のあり方
 拠点病院指定後の2013年以降の小児がん患者は、拠点病院に集約されつつある。小児がん患者の在院延べ日数について2012年には28%の小児がん患者が拠点病院で診療されていたが、拠点病院指定後の2013年には32%、2015年には34%と増加した。
 血液悪性腫瘍患者は、拠点病院の患者数は減少しているが、固形腫瘍、特に脳腫瘍に関しては、拠点病院への緩やかな集約化が認められた。血液疾患は、小児血液腫瘍科医師のみで完結する事が多く、治療プロトコールも全国的に統一化されているため、均てん化が進んでいると考えられた。
2)小児がん診療におけるQuality Indicator (QI)の作成
 構造指標として、大学病院と小児専門病院で、特に放射線専門医、病理専門医数に差を認めた。小児がん拠点病院での小児がん認定外科医の配備が遅れていた。緩和ケアに関しては、専門医・指導医数の配備は少ないものの、緩和ケアチームによる介入率は平均19%であった。また、長期フォローアップ外来受診率は、25.3%であり、施設間格差が大きかったが、具体的な内容についての精査が必要である。院内学級への転籍率は、94%と高かったが、復学カンファレンスの開催に関しては二極化していた。その他、外来化学療法、在宅医療の推進に関する指標も、施設間格差が大きく、今後均てん化を推進すべき分野と考えられた。
3)小児がん経験者や家族の実態調査
 計201部の調査票を回収した。発症年齢にかかわらず17%は病名または病気の説明を受けておらず、説明を受けていても37%は理解できなかった。晩期合併症について、あるが52%、わからないという回答が25%あった。晩期合併症についての説明は165人中68人が受けていたが、97人は受けたことがなかった。
 また、教育環境では37%が入院中本籍校との交流がほとんどなかった。また就業に関しては57%が採用面接で小児がんのことを話しておらず、19%で就職後不都合があったと回答した。
 小児がん拠点病院を指定されたことによる効果として、人員の充実や療養環境の整備(院内宿泊施設、AYA世代交流室等)の進展に加え、他部署や関連機関の理解の助長や地域の連携促進等の事象が起きていた。またこの事象自体が、小児科の患者・家族にまでその効果を波及させていると考えられた。
4)小児がん経験者を長期にフォローし支援する仕組みの検討
 「JPLSG治療のまとめ」からフォローアップ計画を算出するプログラムを開発改訂し、Windows, Macに対応した。具体的な治療内容の充実や社会支援に関する項目の追加が必要という意見が認められた。
結論
 小児がん拠点病院選定後、血液疾患は均てん化、固形腫瘍・脳腫瘍に関しては、集約化の進んでいる事が明確となった。小児がん看護の専門性をもつ看護師の育成および拠点病院への配置を検討する必要性を認めた。QIに関して、大学病院と小児専門病院での指標差が認められた。長期フォローアップ外来、復学カンファレンス、在宅医療の推進など整備すべき課題と考えられた。小児がん経験者の実態調査では、晩期合併症の説明不足が挙げられた。相談支援センターの設置、多職種連携の相談支援体制が進行し、他部署や関連機関の理解の助長や地域の連携促進等の事象が起きていた。「JPLSG治療のまとめ」からフォローアップ計画を算出するプログラムを開発し、拠点病院での運用を開始した。今後、患者およびその家族が安心して医療を受けることができる小児がん医療体制につなげることを目指す。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201607004B
報告書区分
総合
研究課題名
小児がん拠点病院を軸とした小児がん医療提供体制のあり方に関する研究
課題番号
H26-がん政策-一般-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
松本 公一(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児がんセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 藤本 純一郎(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)
  • 井口 晶裕(北海道大学病院小児科)
  • 笹原 洋二(東北大学大学院医学系研究科 発生発達医学講座 小児病態学分野)
  • 康 勝好(埼玉県立小児医療センター 血液腫瘍科)
  • 金子 隆(東京都立小児総合医療センター血液腫瘍科)
  • 湯坐 有希(東京都立小児総合医療センター血液腫瘍科)
  • 後藤 裕明(神奈川県立こども医療センター 血液・再生医療科)
  • 高橋 義行(名古屋大学大学院医学系研究科小児科学)
  • 駒田 美弘(三重大学・学長)
  • 平山 雅浩(三重大学大学院医学系研究科小児科学分野)
  • 足立 壮一(京都大学医学研究科人間健康科学系専攻)
  • 細井 創(京都府立医科大学大学院医学研究科小児発達医学)
  • 家原 知子(京都府立医科大学小児科)
  • 井上 雅美(大阪府立母子保健総合医療センター 血液・腫瘍科)
  • 藤崎 弘之(大阪市立総合医療センター 小児血液腫瘍科)
  • 小阪 嘉之(兵庫県立こども病院 小児がん医療センター)
  • 檜山 英三(広島大学自然科学研究支援開発センター 小児腫瘍学)
  • 小林 正夫(広島大学大学院医歯薬保健学研究院)
  • 田口 智章(九州大学大学院医学研究院小児外科分野)
  • 小川 千登世(国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院 小児腫瘍科)
  • 瀧本 哲也(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 臨床研究開発センター データ管理部 小児がん登録室)
  • 小原 明(東邦大学医学部小児科)
  • 前田 美穂(日本医科大学小児科)
  • 小俣 智子(武蔵野大学人間科学部)
  • 井上 玲子(東海大学健康科学部看護学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究では、拠点病院及び小児がん診療病院における診療連携方法の確立を研究し、チーム医療の推進により真に機能する連携のあり方を検討し、長期にわたるフォローアップのしくみの構築を目的とする。
研究方法
1)小児がん診療連携方法の確立とチーム医療のあり方
 初年度から第2年度において、関東甲信越地区で小児がん診療病院の疾患別新入院患者数、造血細胞移植患者数、再発患者数などを収集し、WEB上に公開する仕組みを構築した。また、専門看護師の配置についてアンケート調査を行った。第3年度は、2013年以前のデータと比較して、小児がん患者の動態調査を行った。
2)小児がん診療におけるQuality Indicator (QI)の作成
 初年度から第2年度において、小児がん診療についてのQIとして36指標のQIを選定し、第3年度に15の小児がん拠点病院において調査を行った。
3)小児がん経験者や家族の実態調査
 初年度から第2年度において、アンケート内容を精査し、第3年度に調査および実際の聞き取り調査を行った。小児がん拠点病院15施設中12施設で201部の調査票を回収し解析した。
4)小児がん経験者を長期にフォローし支援する仕組みの検討
 フォローアップ計画策定システムを基に、システムの改良を行い、「JPLSG治療のまとめ」からフォローアップ計画を算出するシステムを構築し検討した。
結果と考察
1)小児がん診療連携方法の確立とチーム医療のあり方
 小児がん患者の在院延べ日数について2012年には28%の小児がん患者が拠点病院で診療されていたが、拠点病院指定後の2015年には34%と増加した。固形腫瘍・脳腫瘍に関しては、拠点病院等への緩やかな集約化が認められた。血液疾患は、治療プロトコールの全国的な統一による均てん化が進行していた。今後、診療情報公開の仕組みを全国に拡大する計画である。小児がんに関連する医師の83%、看護師の75%が小児がん看護の専門教育が必要と回答した。
2)小児がん診療におけるQuality Indicator (QI)の作成
 構造指標として、大学病院と小児専門病院で、特に放射線専門医、病理専門医数、小児がん認定外科医数に差を認めた。長期フォローアップ外来受診率は、25%であり、施設間格差が大きかったが、具体的な内容の精査が必要である。院内学級への転籍率は、94%と高かったが、復学カンファレンスの開催に関しては二極化していた。その他、外来化学療法、在宅医療の推進に関する指標も、施設間格差が大きく、今後均てん化を推進すべきと考えられた。
3)小児がん経験者や家族の実態調査
 回答者の年齢は19歳から50歳、平均26歳であった。発症年齢にかかわらず17%は病気の説明を受けておらず、説明を受けていても36.5%は理解できなかったと回答した。52%に晩期合併症があり、晩期合併症の説明は165人中97人が受けていなかった。また、教育環境では37%が入院中本籍校との交流がほとんどなかった。就業に関しては57%が採用面接で小児がんのことを話しておらず、19%で就職後不都合があったと回答した。
 小児がん拠点病院を指定されたことによる効果として、人員の充実や療養環境の整備(院内宿泊施設、AYA世代交流室等)の進展に加え、他部署や関連機関の理解の助長や地域の連携促進に繋がっていると考えられた。
4)小児がん経験者を長期にフォローし支援する仕組みの検討
 「JPLSG治療のまとめ」からフォローアップ計画を算出するプログラムを開発し、Windows, Macに対応した。具体的な治療内容の充実や社会支援に関する項目の追加が必要という意見が認められた。今後、フォローアップガイドラインの改訂、「JPLSG治療のまとめ」の改訂に伴い、バージョンアップを行う計画である。
結論
 小児がん拠点病院選定後、血液疾患は均てん化、固形腫瘍・脳腫瘍に関しては、集約化が明確となった。小児がん看護の専門性をもつ看護師の育成および拠点病院への配置の必要性を認めた。QIに関して、大学病院と小児専門病院での指標差が認められ、長期フォローアップ外来、復学カンファレンス、在宅医療の推進など整備すべき課題と考えられた。医療の質の可視化により、各拠点病院の医療の質の自律的な向上に期待したい。小児がん経験者の実態調査では、晩期合併症の説明不足が挙げられた。相談支援センターの設置、多職種連携の相談支援体制が進行し、他部署や関連機関の理解の助長や地域連携が促進されていた。「JPLSG治療のまとめ」からフォローアップ計画を算出するプログラムを開発し、拠点病院での運用を開始した。今後、患者およびその家族が安心して医療を受けることができる小児がん医療体制につなげることを目指す。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201607004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 小児がん拠点病院指定後、血液疾患は均てん化、固形腫瘍および脳腫瘍に関しては、集約化の進んでいる事が明確となった。日本初の小児がんQIの開発を行い、拠点病院を評価するシステムを構築すると共に、問題点を明らかにした。経験者のアンケートから、晩期合併症の説明が不足していることが明らかとなった。「JPLSG治療のまとめ」からフォローアップ計画を算出できるプログラムを開発し、拠点病院での運用を開始した。
臨床的観点からの成果
 患者家族の病院選択の一助となる小児がん拠点病院・診療病院の診療実績をWEB上に公開するシステムを構築した。小児がん拠点病院によるQIの測定により、自立的にPDCAサイクルを回すことができる礎を築いた。小児がんに関連する人員の充実や療養環境の整備の進展に加え、他部署や関連機関の理解の助長や地域の連携促進等を明らかにすることができた。
ガイドライン等の開発
 平成26年7月6日の第58回がん対策推進協議会において小児がん拠点病院、中央機関のこれまでの取り組みと課題について報告した。
その他行政的観点からの成果
 平成26年7月6日の第58回がん対策推進協議会の中で、小児がん患者への教育の重要性を報告し、がん対策基本法で小児がん患者の治療と教育の両立について改正されたことへの参考となった。
その他のインパクト
 毎日新聞、読売新聞、およびNHKの取材に対して、長期フォローアップの重要性とデータベース構築の必要性を訴え、報道された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
30件
その他論文(英文等)
69件
学会発表(国内学会)
111件
学会発表(国際学会等)
28件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
2020-05-29

収支報告書

文献番号
201607004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,400,000円
(2)補助金確定額
13,152,000円
差引額 [(1)-(2)]
248,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,505,775円
人件費・謝金 2,119,087円
旅費 1,932,533円
その他 1,503,042円
間接経費 3,092,000円
合計 13,152,437円

備考

備考
自己資金:437円

公開日・更新日

公開日
2017-11-15
更新日
-