がん患者が抱える精神心理的・社会的問題に関して、その原因や関連要因になり得る社会的要因に着目し、その是正を目指した研究

文献情報

文献番号
201607002A
報告書区分
総括
研究課題名
がん患者が抱える精神心理的・社会的問題に関して、その原因や関連要因になり得る社会的要因に着目し、その是正を目指した研究
課題番号
H26-がん政策-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
内富 庸介(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 支持療法開発部門)
研究分担者(所属機関)
  • 森 雅紀(聖隷三方原病院 緩和ケア)
  • 岡村 仁(広島大学大学院 保健学研究科)
  • 藤森 麻衣子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 稲垣 正俊(岡山大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
5,923,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者-医療者間のコミュニケーションは、患者にとって甚大な精神心理的問題になることがある一方で、患者にとって大きな支援となる社会的要因でもある。そこで、本研究では(1)コミュニケーションが困難な状況(抗がん治療の中止、予後を伝える)において医師に望まれる行動・是正すべき要因を明らかにする、(2)コミュニケーション技術研修(CST)の改善を目指して、研修による医師の共感の生理学的指標の変化を用いて検討を行う、(3)対応の違う医師のコミュニケーションビデオを患者に視聴してもらって好ましいか否か回答を求め、是正すべき社会的要因を明らかにする、(4)療法士、(5)薬剤師、薬系学生のコミュニケーション特性を明らかにし教育研修法に資する点を明らかにすることを目的とした。
研究方法
(1)担当医が治癒・延命を目的とした抗がん治療を推奨できないと考え、それが伝えられ1週間以上経過した患者に質問し調査を行った。 
(2)CSTに参加した医師20名(介入群)、していない医師20名(対照群)に調査を行った。
(3)腫瘍医が直面する難しいコミュニケーションを乳腺外科、乳腺・腫瘍内科外来において予備調査を行った。
(4)がんリハビリテーション研修に参加した療法士2782名に質問紙調査を行った。
(5)薬剤師、薬学部5~6年生に質問紙調査を行った。
結果と考察
(1)腫瘍医が難渋する抗がん治療中止の状況における106名のがん患者に調査を行い、抗がん剤治療中止について、実際の診療と患者の意向の一致はわずか33.3%であった。従って、医師の更なる聞き出す高度なスキル、一方で患者側にも自らの意向を表明するスキルが必要と考えられた。
(2)医師の認知的共感の学習を目指したCSTは表情認知の側面から医師の負の感情への認知的共感を強化する可能性が示唆された。
(3)腫瘍医が最も困難と感じる予後告知の課題ビデオを作し効果的な医師の態度を明らかにする実験心理学的研究を開始し、乳がん患者105名の登録を完遂した。
(4)医療者のコミュニケーション特性を明らかとするために、がん診療に係わる療法士2803名にアンケート調査を実施し、同意が得られ返信のあった1373名(返信率49.6%)を対象に検討した結果、コミュニケーションの自信がより高いと、ALTとコミュニケーションの困難度との関連の強さが弱まることが明らかとなり自信向上により改善できる可能性が示唆された。
(5)薬剤師(373名)と学生(341名)からデータを得た結果、EI: Emotional Intelligence(情動知能)はALT: Autistic-like traits(自閉様特性)による医療従事者の共感行動や医療従事者自身の精神健康度、また燃え尽きへの悪影響を緩和することが示された。
結論
(1)抗がん治療の中止の際に医療者に望まれる行動に関する研究
本研究より、抗がん治療中止の知らせの中でも、抗がん剤の中止と余命告知が困難であり、医師のスキルアップだけでなく患者の意思表明スキルも必要と考えられた。
(2)医師の患者の心の痛みに対する認知的共感に関する研究
  本研究の結果から、CSTは表情認知の側面から医師の負の感情への認知的共感を強化する可能性が示唆された。
(3)腫瘍医が直面する難しいコミュニケーション場面に指針を示すための実験心理学的研究
 予後告知を望む再発・転移がん患者の仮想シナリオにおいて予後をはっきりと伝えるかどうかと、アイコンタクトを適切に行うかどうかが不確実性に及ぼす影響を調べることを目的とした実験心理学的研究を完遂した。
(4)がん医療に携わる療法士のコミュニケーション能力と共感能力に関わる横断研究
本研究により得られた結果から、自閉傾向が高い療法士のがん患者に関わる際のコミュニケーション技術向上の研修プログラムを作成するにあたっては、自信の要素ごとにコミュニケーション技術向上の研修プログラムを変え、工夫する必要があることが明らかとなった。
(5)がん医療者に望まれる行動に関する研究
個人のコミュニケーション特性と関連のある自閉様特性は誰もが部分的に持っているものであるが、この特性の強弱は対人業務を行う病院薬剤師の共感的態度を始め、燃え尽き・共感性疲労に対して負の影響を及ぼす。個人の特性であり、変化させることが難しいと考えられる自閉様特性に対し、具体的な介入法について検討が必要となる。副次解析から、情動知能という概念はこれらの悪影響を緩和する可能性が示唆されており、今後の研究が必要となる。また、今回の研究では具体的な調査対象として病院薬剤師を選び、上記を明らかとしたが、この知見は広く対人業務に携わる他の医療従事者にも適応可能と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201607002B
報告書区分
総合
研究課題名
がん患者が抱える精神心理的・社会的問題に関して、その原因や関連要因になり得る社会的要因に着目し、その是正を目指した研究
課題番号
H26-がん政策-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
内富 庸介(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 支持療法開発部門)
研究分担者(所属機関)
  • 森田 達也(聖隷三方原病院 副院長)
  • 森 雅紀(聖隷三方原病院 緩和ケア)
  • 岡村 仁(広島大学大学院保健学研究科)
  • 藤森 麻衣子(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 稲垣 正俊(岡山大学病院 精神医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
患者-医療者間のコミュニケーションは、患者にとって甚大な精神心理的問題になることがある一方で、患者にとって大きな支援となる社会的要因でもある。そこで、本研究では(1)コミュニケーションが困難な状況(抗がん治療の中止など)において医師に望まれる行動・是正すべき要因を明らかにする、(2)コミュニケーション技術研修(CST)の改善を目指し、研修による医師の共感の変化について生理学的指標を用いて検討を行う、(3)対応の違う医師のコミュニケーションビデオを患者に視聴してもらって好ましいか否か回答を求め、是正すべき社会的要因を明らかにする、(4)療法士、(5)薬剤師、薬系学生のコミュニケーション特性を明らかにし教育研修法に資する点を明らかにすることを目的とした。(6)指摘を受けて、医療者による社会的要因の是正に関する研究をH27年度のみ行った。
研究方法
(1)担当医が治癒・延命を目的とした抗がん治療を推奨できないと考え、それが伝えられ1週間以上経過した患者に質問し調査を行った。 
(2)CSTに参加した医師20名(介入群)、していない医師20名(対照群)に調査を行った。
(3)予備調査を行った。
(4)がんリハビリテーション研修に参加した療法士2782名に質問紙調査を行った。
(5)薬剤師、薬学部5~6年生に質問紙調査を行った。
(6)2つの全国調査の副次解析を行った(1.地域介入研究によって取得された全国4地域の代表性のあるがん患者1724名・がん患者の遺族2462名、医師706名、看護師2236名を対象とした質問紙調査;2.全国の遺族447名対象の医療制度への希望調査を再解析した)。

結果と考察
(1) 抗がん治療中止後のがん患者106名に調査を行い、患者が医療者に望む行動に関して、従来我々が明らかにしてきた日本の医師の共感行動(SHARE)に加え、より踏み込んだ共感的パターナリズム、Empathic paternalismという新たな要因が明らかとなった(心の準備が出来るよう言葉を掛ける、医師は今後の治療方針を決める、等)。その関連要因として診断後早期に抗がん剤治療中止に到っている場合に共感的パターナリズムを望む傾向が明らかになった (Umezawa et al, Cancer 2015)。抗がん剤治療中止の実際の診療と患者の意向の時期の一致はわずか33.3%であった。従って、医師の更なる聞き出す高度なスキル、一方で患者側にも自らの意向を表明するスキルが必要と考えられた。
(2) CSTは表情認知の側面から医師の負の感情への認知的共感を強化する可能性が示唆された。
(3) 予後告知の課題ビデオを作成し乳がん患者105名の登録を完遂した。
(4) 療法士1373名(返信率49.6%)を検討した結果、コミュニケーションの自信がより高いと、ALT: Autistic-like traits(自閉様特性)とコミュニケーションの困難度との関連の強さが弱まることが明らかとなり学習による自信向上により改善できる可能性が示唆された。
(5) 薬剤師(373名)と学生(341名)の結果、EI: Emotional Intelligence(情動知能)はALTによる医療従事者の共感行動や医療従事者自身の精神健康度、また燃え尽きへの悪影響を緩和する可能性が示唆された。
(6) 個々の医師が努力してできるコミュスキル向上以外に、2)努力してもできない医師の時間の少なさが示された。
結論
(1)抗がん治療の中止の際に医療者に望まれる行動として、急速経過のがんの場合はより一層の共感とパターナリズムが好まれること、抗がん治療中止の知らせの中でも、抗がん剤の中止と余命告知が困難であり、医師のスキルアップだけでなく患者の意思表明スキルも必要と考えられた。
(2)CSTは表情認知の側面から医師の負の感情への認知的共感を強化する可能性が示唆された。
(3)腫瘍医が直面する難しいコミュニケーション場面に指針を示すための実験心理学的研究を完遂した。
(4)自閉傾向が高い療法士のがん患者に関わる際のコミュニケーション技術向上の研修プログラムを作成するにあたっては、自信の要素ごとにコミュニケーション技術向上の研修プログラムを変え、工夫する必要があることが明らかとなった。
(5)個人のコミュニケーション特性と関連のある自閉様特性は誰もが部分的に持っているものであるが、この特性の強弱は対人業務を行う病院薬剤師の共感的態度を始め、燃え尽き・共感性疲労に対して負の影響を及ぼす。
(6)医師が努力してできるスキル向上以外に、医師の時間的業務負担軽減策、医療チーム研修による患者-医師間のコミュニケーション補足・支援などが必要であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2017-07-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201607002C

収支報告書

文献番号
201607002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,699,000円
(2)補助金確定額
7,692,000円
差引額 [(1)-(2)]
7,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,383,339円
人件費・謝金 2,024,268円
旅費 586,170円
その他 1,923,121円
間接経費 1,776,000円
合計 7,692,898円

備考

備考
3月下旬に予定していた会議に使用予定のファイル等文具の購入(5600円税別)を予定していたが
急遽、中止となり購入しなかったため返納金が生じた。1000円未満の端数(898円)は自己資金で対応。

公開日・更新日

公開日
2017-11-10
更新日
-