文献情報
文献番号
201606015A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災後に発生した小児への健康被害への対応に関する研究
課題番号
H28-健やか-指定-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
呉 繁夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 栗山 進一(東北大学 災害科学国際研究所)
- 釣木澤 尚実(山本 尚実)(独立行政法人国立病院機構埼玉病院 呼吸器内科)
- 渡辺 麻衣子(国立医薬品食品衛生研究所 衛生微生物部)
- 奥山 眞紀子(国立研究開発法人国立成育医療研究センター病院 こころの診療部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
20,328,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
平成24-27年度、成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「東日本大震災被災地の小児保健に関する調査研究」を実施し、被災地では未就学児の肥満やアレルギー疾患の増加に加え、こころの問題の存在が明らかとなった。肥満については、地震・津波の被害から運動の機会が減少したこと、ストレスなどの心理的要因による過食が影響したと考えられる。アレルギー疾患については、被災に伴う再発・症状の悪化が懸念され、特に、避難所・仮設住宅環境による影響が示された。また、こころの問題に関しては大災害のストレスに加え、過去のトラウマ体験や体罰などにより問題行動が顕在化した可能性が示唆された。本研究では以前の班研究で明らかになった、震災後の小児肥満やアレルギー疾患への効果的な介入法を検討し、こころの問題に関してはこれまでの調査結果の検討と更に長期間の経過観察を目的としている。
研究方法
肥満やアレルギー疾患に対する介入に関しては、新たに設定した石巻市小学校2年生を対象としたコホート研究を実施した。対象1104名に対しアンケート調査(身長体重、ISAAC調査)を実施し、回答のあった408名を2グループに分けた。第1のグループ(298名)はアレルギー疾患への介入を目的とした環境整備指導グループとし、第2のグループ(110名)は肥満への介入を目的とした運動指導グループとした。環境整備指導グループに対しては、次の調査をおこなった。1)室内のダニや真菌に対する32項目の環境改善法(室内の清掃法、寝具の管理法、などを含む)を口頭と書面による指導を実施した、2)指導前、指導後、指導1年後、指導2年度、に寝具から粘着テープでダニや真菌を採取し、アレルゲン量の測定とカビの同定を行った、3)指導前、指導後、指導1年後、指導2年度、にアレルギー性鼻炎、喘息やアトピー性皮膚炎の症状の変化を検討した。運動指導グループでは、親子の運動法と正しい食事を口頭と文書で指導するとともに、夕食前の体重測定と運動日誌(活動量記録)への記載を行った。こころの問題に関しては、気仙沼などの沿岸地域のコホートへのこれまでの調査結果説明し、質問紙による経過調査を実施した。
結果と考察
これまで得られた調査結果を検討した結果、石巻市小学2年生では肥満度が20%以上である児童が11.5%存在し、これらの児童に関する生活習慣や運動習慣の改善を指導している。また、アレルギー性鼻炎の有病率は38.6%、アトピー性皮膚炎の有病率は26.8%、と全国調査のアレルギー性鼻炎とアトピー性皮膚炎のそれぞれの有病率、25.6%、21.3%と比較して高かった。これらの疾患の患児の使用している寝具のダニアレルゲン量は対照地域(相模原)に比べ非常に高値で、アレルギー性の高いAspergillus属菌の割合が高い家庭が散見された。更に、震災以前から居住している住居(リフォームを含む)では、震災後に建設された住居に比べ、ダニアレルゲン量が有意に高く、アレルギー疾患の原因になっている可能性が示唆された。その他の調査の結果は現在分析中である。平成24-27年度に実施したこころの問題の調査結果を更に解析した結果、震災後4~5年に問題行動が顕在化する「遅発型」の発症には、親の療育態度、親のメンタルヘルス、ソーシャルキャピタル、といった療育環境要因が関連していることが明らかになった。
結論
未就学児のアレルギー疾患、肥満、こころの問題は、震災の影響が長期化することが明らかになっている。小児の健康状態をモニタリングして課題の早期発見、重症化の防止に結びつけるために、小児の健康状態を乳幼児期から学童期まで一貫してモニタリングするシステムの構築が望まれる。
公開日・更新日
公開日
2017-07-19
更新日
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