安全な薬物治療をリアルタイムで支援する臨床決断支援システムの開発に関する研究

文献情報

文献番号
201603008A
報告書区分
総括
研究課題名
安全な薬物治療をリアルタイムで支援する臨床決断支援システムの開発に関する研究
課題番号
H28-ICT-一般-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
森本 剛(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 作間 未織(兵庫医科大学 医学部)
  • 太田 好紀(兵庫医科大学 医学部)
  • 岡本 里香(兵庫医科大学 医学部)
  • 中村 嗣(島根県立中央病院 感染症科)
  • 園山 智宏(島根県立中央病院 薬剤局臨床薬剤科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
7,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、電子カルテやオーダリングシステムから得られる患者の個別データのみならず、既に報告されている診療ガイドラインと患者背景や治療とを組み合わせることで、個別の患者に最も適切な薬物治療をガイドする臨床決断支援システムを開発し、これまでの研究と同様にプロセスのみならず患者アウトカムを評価しようとするものである。また、プロセスとしてのオーダーされた薬剤の種類や用量を評価するだけではなく、これまで研究代表者が実施してきた薬剤性有害事象研究の方法論に基づき、薬剤性有害事象や入院期間、死亡率などのアウトカムについても評価しようとする実証的な研究である。さらに、臨床決断支援システムの導入前後のデータを用いて、臨床決断支援システムの費用効果性を評価することも目標とする。
研究方法
 平成28年度は1)薬物療法支援ガイドの開発及び2)診療プロセスガイドの作成を行い、3)臨床決断支援システムの概要を設計した。
1)薬物療法支援ガイドの開発
 JADE Study及び島根県立中央病院の病院情報システムのデータを基に、薬剤使用パターンやハイリスクと考えられる薬剤の使用状況、リスクファクターなどの患者背景を抽出した。
 加えて、添付文書の注意喚起については、全て遵守すべき内容であるものの、まず薬剤の投与前、投与以降に検査を要する注意喚起に注目した。添付文書上に投与前、投与中に検査に関する注意喚起の記載がある薬剤のうち、専門の診療科で通常実施しない検査項目は見落とす可能性があるのではないかという観点で対象薬剤を選択した。
2)診療プロセスガイドの作成
 国内・海外における診療ガイドラインの分析や文献レビューを行い、オーダリングシステムに導入することで有効だと考えられる薬物治療について診療プロセスガイドを作成した。
3)臨床決断支援システムの開発
 作成された薬物療法支援ガイド及び診療プロセスガイドを元に、島根県立中央病院の電子カルテシステムに導入することで効果が期待される推奨機能やガイドを設計した。
結果と考察
1)薬物療法支援ガイドの開発
 過去の研究で実施した入院患者における腎機能に基づく薬剤投与量の推奨の効果が明らかであったため、腎機能に基づく薬剤投与量の推奨を外来患者に拡大して実施することとした。
 添付文書の注意喚起記載に基づいた薬物療法支援ガイドでは、ビルダグリプチン、マルチキナーゼ阻害薬のパゾパニブ塩酸塩、レゴラフェニブ水和物、アキシチニブ、スニチニブリンゴ酸塩及び免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ、ペムブロリズマブ、そしてアミオダロン塩酸塩について臨床決断支援を行うこととした。
2)診療プロセスガイドの作成
 長期ステロイド治療患者の30~50%に骨折が起こるとの報告があり、ステロイド性骨粗鬆症は患者数が多く、小児から高齢者まで、また閉経前女性や男性にも幅広く起きており、それが社会生活に影響している。また、原疾患の治療に携わる医師は骨粗鬆症の専門医ではない場合が多く、医師、患者ともにステロイド性骨粗鬆症に関する認識が高くないと考えられた。そこで、ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療のガイドラインを元に、電子カルテシステム上で推奨可能なアルゴリズムを作成し、それを診療プロセスガイドとして作成した。
 対象患者は経口ステロイドを6ヶ月以上使用中及びビスホスホネート製剤の処方または注射を受けた患者とし、電子カルテシステムから得られた患者の背景を元に、「ステロイド性骨粗鬆症の薬物療法(ビスホスホネート製剤)開始の推奨」や「骨折歴の確認」、「血清Ca, P, Mg, Cre, BUN及び骨密度(BMD)検査の実施」を推奨する診療プロセスガイドを作成した。
3)臨床決断支援システムの開発
 薬物療法支援ガイド及び診療プロセスガイドを元に臨床決断支援を島根県立中央病院の電子カルテシステムに導入するための基本構造を作成した。
 本年度は、当初の計画通り、薬物療法支援ガイド及び診療プロセスガイドを作成し、臨床決断支援システムを設計した。患者の腎機能に基づいた薬剤投与量のガイドや、添付文書に記載されていながら日常診療では確実に遵守することが困難な薬物治療において、電子カルテシステムが適切にガイドすることで、適切な処方の頻度を増やし、不要な疑義照会を減らすといったプロセスを改善することが期待される。また、骨粗鬆症のように多くの診療科が関わるような疾患について、臨床決断支援システムを用いて、適切にタイムリーにガイドラインに基づいた医療を提供することで、同様に診療プロセスを改善することが期待される。
結論
 これらの診療プロセスを改善することで、最終的には薬剤性有害事象などの患者アウトカムが改善されることが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201603008Z