文献情報
文献番号
201602004A
報告書区分
総括
研究課題名
中高年者縦断調査を利用した高齢者の行動に関するグローバル観点からの学際研究‐雇用・年金・医療・介護に関する実証分析‐
課題番号
H27-統計-一般-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
北村 智紀(株式会社ニッセイ基礎研究所 金融研究部 兼 年金総合リサーチセンター)
研究分担者(所属機関)
- 足立 泰美(甲南大学 経済学部)
- 上村 敏之(関西学院大学 経済学部)
- 臼杵 政治(名古屋市立大学 経済学部)
- 内藤 久裕(筑波大学 人文社会科学研究科)
- 中嶋 邦夫(株式会社ニッセイ基礎研究所 保険研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,160,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
高齢化対策は、少子化対策と並ぶ重要な政策課題である。高齢者の問題は、雇用、年金、医療、介護と複数の重点課題が存在する。社会保障制度改革国民会議報告書(2013)でも、高齢化の進行に伴い、就労期間を延ばし長く年金保険料を拠出して年金水準の確保を図る必要性や、就労と引退のバランスを検討し、高齢者の働き方と年金受給に関して、他の先進諸国で検討されている改革を考慮すべきとしている。さらにQOLを高め、社会の支え手を増やす観点から、健康の維持増進・疾病予防に取り組むべきとしている。政策課題に対処するにはデータに基づくエビデンスを示す必要がある。海外では縦断調査を用いた実証研究が進んでいるが、日本では研究蓄積が十分ではない。特に公的縦断調査はその規模・継続性から政策課題の解決に大きく貢献できる可能性があるが、研究結果は限られている。そこで本研究では『中高年者縦断調査』を利用し、経済学、財政学、ファイナンス、医学の学際的な観点から、高齢者の行動・活動の総合的な実証研究を行い、高齢化問題に対処するためのエビデンスを示し、また、公的縦断調査の学際的な高度利用の可能性を示すことが目的である。
研究方法
本研究は、『中高年者の生活に関する継続調査を利用し、クロス集計表や多変量解析等を用いて実証分析を行う。具体的には、以下の5項目のテーマに関して分析を行う。研究1:高齢者雇用安定化法と厚生年金支給開始引き上げの高齢者への影響分析、研究2:地域包括ケアシステムを担う高齢者の社会的活動と諸要素との関係性の分析、研究3:介護・医療と高齢者の行動分析、研究4:リタイアメント・コンサプション・パズルの検証、研究5:高齢者の飲酒・喫煙と健康状態・活動に関する学際分析。
結果と考察
研究1では、2013年に改正された高齢者雇用安定化法の効果を検証した。分析の結果、一部の雇用者の雇用促進効果は確認されたが、全体的にみれば、雇用促進のインパクトは限定的であった。研究2では、高齢者生活支援の参加要因は他の社会貢献活動の参加要因と異なることが分かった。参加者を募る場合には留意する必要がある。研究3では、婚姻状態、居住状況、配偶者の雇用、配偶者所得、正味金融資産を考慮して、親の介護と雇用との関係を分析した。両親と同居している介護を行う夫婦の就業率は、夫が正規雇用であるときに妻の就業率は低下し、就業に関する機会費用が重要な介護者決定の要素であることがわかった。研究4では、まず、前年所得課税である個人住民税が、退職期の家計の消費水準を低下させるかどうかを検証した。その結果、退職期の家計が正規に留まる場合、正規から非正規に雇用形態が変化した場合、正規・非正規・自営から退職した場合に、前年所得課税の個人住民税が家計の消費水準に負の影響をもたらしていることがわかった。次に、高齢者家計の貯蓄動向について分析した。その結果、夫が正規雇用者の家計では、純金融資産の水準によらず一定額の純貯蓄があったが、夫が無業になると貯蓄を取崩しており、ライフサイクル・モデルと整合的な結果であった。研究5では、労働時間が増えると飲酒・喫煙が増える傾向があり、退職者は飲酒・喫煙が減る傾向があった。
結論
本研究は『中高年者縦断調査』を利用し、学際的な観点から、高齢者の行動・活動の総合的な実証研究を行い、高齢化問題の対処するためのエビデンスを示すことが目的である。今年度は当初設定した5つの研究テーマについて、昨年度に実施した予備的な分析を高度化・精緻化し、一定の知見を得た。また、この知見に基づき、政策インプリケーションの検討を実施した。さらに、公的縦断調査の高度利用可能性について示した。
公開日・更新日
公開日
2017-08-03
更新日
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