家族介護者に対する支援のあり方に関する調査研究

文献情報

文献番号
201601015A
報告書区分
総括
研究課題名
家族介護者に対する支援のあり方に関する調査研究
課題番号
H28-政策-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
田宮 菜奈子(国立大学法人筑波大学 医学医療系 ヘルスサービスリサーチ分野)
研究分担者(所属機関)
  • 森山 葉子(国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部)
  • 本澤 巳代子(筑波大学)
  • 森川 美絵(国立保健医療科学院医療・福祉サービス研究部)
  • 高橋 秀人(福島県立医科大学医学部放射線医学県民健康管理センター情報管理・統計室)
  • 柏木 志保(渡邊 志保)(筑波大学医学医療系)
  • 伊藤 智子(筑波大学医学医療系)
  • 植嶋 大晃(筑波大学医学医療系)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,109,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護者の実態把握のためのわが国初の全国調査から家族介護者が求める支援をまとめると、1.緊急時対応、2.経済的支援策、3.介護者への理解、4.休養・リフレッシュ、5.仕事との両立であった。今後さらに在宅介護が推進される中、介護者支援に関わる法的整備や具体的支援の面では欧米諸国に比して遅れており、上記5大支援を叶える支援策を具体化することは喫緊の課題である。そこで、1)上記5大支援に対する国内外における先駆的事例を収集し、2)1)の事例の日本に即した形での具体的な活用方法、および政策への反映方法を提言することを目的とした。
研究方法
わが国の介護者支援のより一層の充実を目指して、国内外における家族介護支援の先駆的事例収集を行った。本研究班は学際的研究者の集合であり、我々の持つ国内外のネットワークを活用して、担当者ごとにヒアリングや資料から情報収集を行い、あるいは事例に関わる文献レビューを行った。
結果と考察
海外における事例として、介護保険制度を有するドイツや韓国では、制度の中で家族介護者に対する二次的な現金給付や、介護者の休暇に対する支援が整備されていた。イギリスには、全国で定期的な介護者調査がなされ、介護者のニーズや生活の質等が評価され、その結果が政策に反映される仕組みがあり、わが国でも調査から具体的な支援策の立案まで一体化した仕組みが必要であると考えられた。アメリカでは、家族介護護者支援プログラムが開発され、介護者に教育や相談・助言による支援を行い、負担感等の軽減が報告されており、わが国でも根拠に基づく介護者支援プログラムの開発が望まれる。
国内の事例としては、空床お知らせカレンダーの実証実験、“ケアラ―ズカフェ”での必要な支援につなぐ取り組みや、“ケアとも”として支援者が介護者のもとに出向いて行うアウトリーチ支援、さらに、100%緊急ショートステイを受け入れる等の在宅介護支援を行っている老健施設を紹介した。また、介護に伴う離職が問題化しており、介護と仕事の両立に関わるわが国の取り組み状況を調査した。さらに晩産化などにより介護と育児を同時期に行うダブルケアも増え始め、現状を調査した。また、介護負担の軽減のみならず、介護肯定感を高める介護者支援について考察した。
上記事例をもとに、研究班において具体的な介護者支援策の提言に向けた議論を行った
1. 緊急時対応として、緊急ショートステイが確保されることが必要であり、空床周知事業や、紹介した老健施設のような100%緊急ショートステイを受け入れられる事業所の取り組みが広まることが望まれる。
2. 経済的支援として、多くの介護者が必要としており、また経済的支援は介護を労働として評価することにもつながることを考えると、日本においても、家族介護者に対する経済的支援策を検討する必要性が示唆された。
3. 介護者への理解として、種々の相談・助言の場を多く設置することも重要であるが、自ら相談に出向くことの難しい介護者も多々おり、アウトリーチ型の支援も望まれる。また、国民全体の介護に対する意識を変え、介護者自身も自身を評価できる支援、あるいはそうした啓発活動が必要なのではないかと思われた。
4. 休養・リフレッシュとして、在宅介護を継続するためにも、介護者が休暇を取ることは有用であり、この間の代替介護者に対する支援が必要だと考えられる。また介護者が休暇をとってもよいという意識を広めることも必要だと思われた。
5. 仕事との両立として、介護を始める準備期間としての休業のみならず、ドイツのように長期の休業期間や、労働時間の短縮、看取り休暇等、自身が介護をするための休暇も含め柔軟な働き方が認められる制度が求められる。一方、離職をしても自ら介護をしたい人が、経済的不利益を被らない支援も必要である。わが国では、個々の企業が両立支援に取り組んでおり、こうした好事例を周知するしくみを作るとともに、対応が難しい中小企業への支援策も必要である。
これらの枠組みを超えて、介護者の多様なニーズにこたえ得る多様な支援が求められており、それを提供する介護者支援マネジメントシステムが構築されることが必要だと考えられた。また、介護者に関わることをマネジメントするサポーターが必要になってきていると考えられた。
結論
各国で、法律や制度、文化、その他種々の背景に応じた介護者支援がなされていた。収集した事例について、日本の家族介護の実情や介護保険の運営状況に即して、介護者支援につながるものは、導入を検討していくことが求められる。また、国民全体で介護に対する意識を変革し、介護をしていることが適切に評価されること、多様な介護ニーズに対応し得る多様な介護者支援を展開し、これらを提供する介護者支援マネジメントシステムの構築が求められていると考える。

公開日・更新日

公開日
2017-08-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-08-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201601015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
介護者支援は喫緊の課題であり、支援策の具体化が急がれる。介護保険制度を有するドイツ・韓国の事例、福祉国家イギリスの事例、個人主義アメリカの事例から、各国の状況に応じた介護者支援策をまとめた。また、わが国の支援の多くは、個々のNPO法人やサービス事業所等より行われており、こうした取り組みに対する経済的支援および、好事例を広める仕組み作りへの支援が必要だと考えられた。今後は、これら取り組みの効果を科学的に評価し、根拠に基づく介護者支援策を蓄積していくことが求められるが、本研究はその第一歩となった。
臨床的観点からの成果
介護者が自ら相談に出向くことが難しいという実情に対し、支援者が介護者のもとに出向くアウトリーチ型支援の有用性を示した。アメリカで実施された家族介護護者支援プログラムは、その教育内容のみならず、支援者による助言や相談が介護者負担軽減に大きく寄与しており、アウトリーチ型支援の一環として行うことで、大きな支援となる可能性も示唆した。さらに、100%緊急ショートステイを受け入れる等の在宅介護支援を行う老健施設を取り上げ、実際の介護現場でできる支援を紹介し、今後の現場での支援モデルを示した。
ガイドライン等の開発
特に、ガイドライン等は作成していない。
その他行政的観点からの成果
各国で、法律や制度、介護保険制度の有無、文化、その他種々の背景に応じた介護者支援策がなされていることを明らかにした。これら収集した事例について、日本の家族介護の実情や介護保険の運営状況に即して、介護者の介護負担軽減や介護者支援につながるものについては、導入を検討していくことが求められており、今後の議論の一助となると考える。また、わが国の支援の多くは個々のNPO法人やサービス事業所等より行われており、欧米のような介護者支援に関わる法整備も含め、国家的な支援の必要性を示唆した。
その他のインパクト
2016年度に、本澤(分担)がシルバー新報の連載執筆(5回)にて、ドイツにおける家族介護の状況や関連する制度、法律を紹介した。また日本ケアラー連盟主催フォーラムにおいて、田宮(代表)が、昨今の海外における介護者支援の動向を、本澤(分担)がドイツの介護保険制度の紹介と家族政策について発表した。2020年度には、本澤(分担)が「日独における高齢化と高齢者介護(ドイツ日本研究所編)」において、「日本における家族介護者支援」を執筆した(日本語版:ぎょうせい、ドイツ語版:Springer(印刷中))。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
35件
本澤巳代子:介護と家族-ドイツの選択(1)~(5)シルバー新報、田宮菜奈子「ケアラー支援の国際的動向」、本澤巳代子「ドイツの介護保険と家族」ケアラー支援フォーラム2016発表、本澤巳代子:他2件発表

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shiho Kashiwagi, Nanako Tamiya, Felipe Sandoval
Factors associated with depression amongst family caregivers involved in care for community-dwelling persons of middle age and older: based on data from Indonesia family life survey.
Public Policy and Administration Research , 6 (5) , 24-32  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-08-30
更新日
2022-05-31

収支報告書

文献番号
201601015Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,425,000円
(2)補助金確定額
2,425,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 981,529円
人件費・謝金 713,318円
旅費 313,210円
その他 100,943円
間接経費 316,000円
合計 2,425,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-03-27
更新日
-