こども虐待ボーダーライン事例に対する保健師の支援実践-ネグレクト事例に対する支援スキルの開発-

文献情報

文献番号
201601006A
報告書区分
総括
研究課題名
こども虐待ボーダーライン事例に対する保健師の支援実践-ネグレクト事例に対する支援スキルの開発-
課題番号
H26-政策-一般-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
小笹 美子(国立大学法人島根大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 長弘千恵(徳島文理大学 保健福祉学部)
  • 外間知香子(国立大学法人琉球大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,776,000円
研究者交替、所属機関変更
分担研究者の長弘千恵氏が、国際医療福祉大学福岡看護学部から徳島文理大学保健福祉学部に所属が変わった。

研究報告書(概要版)

研究目的
こども虐待の発生予防、早期発見・早期対応を行うために保健師等が行っているこども虐待ボーダーライン事例に対する支援の現状を明らかにし、育児困難事例として保健師、助産師等が支援している事例を収集し母親に対する支援の過程を「見える化」した。
平成28年度は、助産師が行う特定妊婦、産婦等の支援内容を明らかにするとともに平成26年、27年に得られた研究成果を事例集、ホームページ等で公表し、保健師等の支援技術向上に役立てることを目的とした。
研究方法
1.用語の定義
1)こども虐待ボーダーライン事例
本研究のこども虐待ボーダーライン事例とは「保健師等が母子保健活動を展開する中で子育てに問題があると気づき継続支援を行っている事例」とした。こども虐待かどうか判断を迷いつつ支援を継続している事例等であり支援開始時に明らかな虐待事例は含まない。
2.研究方法
1)助産師への事例聞き取り調査
助産師に半構造化面接によるインタビュー調査を実施した。
助産師経験が5年以上でこども虐待事例(含む疑い)支援経験が5事例以上ある助産師から各2事例の聞き取り調査を行った。調査対象者は2県4医療機関の助産師6名であった。調査は平成28年5月から8月に行った。
調査内容は、事例の概要、支援の経過、関わった関係者・関係機関、助産師等が行った支援、気になった場面の具体的状況、事例提供者の基本属性等であった。インタビュー内容はフィールドノートに記録するとともに対象者の了解を得てICレコーダーに録音し、逐語録を作成した。
分析方法は、フィールドノートと逐語録を用いて事例の記述統計と質的帰納的分析を行った。
倫理的配慮は対象者に研究目的、方法、研究参加の自由、回答を拒否する権利があること、等を面接調査前に口頭と文書で説明し、対象者が自己意思に基づいて研究協力を判断するための情報を提供した。本研究者と面接調査対象者の間には利益相反関係は存在しないこと、面接調査はインタビューガイドに沿って行い,必要な時間は1事例につき60分程度であるため、対象者への負担は常識の範囲内であったと考えられる。
 なお、本調査は島根大学医学部の倫理審査委員会の承認(第245号)後に実施した。
結果と考察
平成28年度は助産師6名と保健師4名に半構成的面接調査(インタビュー調査)を行った。聞き取った20事例について支援実践を明らかにし支援スキルを分析した。
助産師が支援する事例は福祉事務所や市町村からの依頼、未婚妊娠、若年妊娠、貧困等の特定妊婦事例が多かった。助産師の支援機会は妊婦健診、出産、産後1か月健診であり、支援期間は数日から数か月程度の短期間の支援であった。妊婦健診を定期的に受診しないケースについては依頼を受けた機関と連携し、妊婦健診を促していた。出産後、地域に戻る事例の場合は医療機関から地域の担当保健師に支援継続の依頼が電話や文書で行われていた。助産師から情報提供を行い、産褥入院中に地域の保健師が来院し、母親と顔を合わせる機会を作っている助産師もいた。母親の育児指導のために医療機関の助産師が出産後に家庭訪問指導を行っている事例もあった。退院後の子育てに問題がある事例については児が安全に養育されるかどうかを医療機関、児童相談所、市町村の保健師、関係機関が協議を行い、こどもの安全を第一に児の退院先を判断していた。家庭での養育が困難と判断され、こどもが出産後施設入所になる事例もあった。
保健師への面接調査から得られた68事例について支援実践を明らかにし、支援スキルを分析した。精神疾患未治療による母親の生活リズムの乱れ、家事能力が低下している事例は子どもの養育に問題が生じていた。保健師は生活保護のケースワーカーや医療機関と連携して支援を行っていた。
また、3年間の研究成果報告会を4道県5か所で実施し、207名の保健師等の参加を得た。加えて、平成27~28年度に保健師34名、助産師6名から聞き取った合計80のこども虐待ボーダーライン事例の中から保健師、助産師の支援の特徴が表れている事例を選定し、支援内容を記載した事例集を作成した。
さらに保健師等がこども虐待ボーダーライン事例支援に役立てることができるようにホームページを作成し、研究成果および事例の紹介を行った。
結論
1.助産師は支援するこども虐待ボーダーライン事例を妊娠出産の短いが濃厚な支援期間中に把握していた。
2. 助産師はこども虐待ボーダーライン事例を市町村等の関係機関からの依頼と妊婦健診、出産時の母子関係からアセスメントし必要時児童相談所に通告し地域に引き継いでいた。
3.成果報告会に参加した保健師等は研究成果がこども虐待ボーダーライン事例の支援に役立つと評価した。

公開日・更新日

公開日
2017-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201601006B
報告書区分
総合
研究課題名
こども虐待ボーダーライン事例に対する保健師の支援実践-ネグレクト事例に対する支援スキルの開発-
課題番号
H26-政策-一般-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
小笹 美子(国立大学法人島根大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 長弘千恵(徳島文理大学保健福祉学部)
  • 外間知香子(国立大学法人琉球大学医学部)
  • 斉藤ひさ子(国際医療福祉大学福岡看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
分担研究者の長弘千恵氏が平成28年10月より国際医療福祉大学福岡看護学部から徳島文理大学保健福祉学部に所属が変更になった。 分担研究者の斉藤ひさ子氏が都合により平成27年度から分担研究者を辞退された。 平成28年度より分担研究者として外間知香子氏が加わった。

研究報告書(概要版)

研究目的
こども虐待の発生予防、早期発見・早期対応を行うために保健師等が行っているこども虐待ボーダーライン事例に対する支援の現状を保健師等が支援を継続している事例を収集し、母親に対する支援の過程を「見える化」、特に保健師等が支援する機会が多いネグレクト事例に対する支援方法について明らかにした。
平成26年度は、行政機関の保健師等と医療機関の助産師が支援しているこども虐待ボーダーライン事例支援の現状を明らかにすることを目的とした。平成27年度は、ネグレクト事例の母親に対する保健師等の支援内容と支援提供時の支援技術を事例をもとに明らかにすることを目的とした。
平成28年度は、助産師が行う特定妊婦、産婦等の支援について支援内容を明らかにするとともに平成26年、27年、28年に得られた研究成果をホームページで等で公表し、保健師等の支援技術向上に役立てることを目的とした。

研究方法
平成26年度の調査は研究代表者(小笹)と分担研究者(斉藤、長弘)が行政機関の保健師(研究協力者)の協力を得て保健師と医療機関の助産師に調査を行った。保健師への調査は、全国を5ブロックに分け、13都道県の市町村・保健所の保健師に調査票を送付し、800名(回収率42.8%)から調査票を回収した。助産師への調査は九州地区5県の37施設に調査票を送付し、68名(回収率51.5%)から調査票を回収した。データの分析は、研究代表者(小笹)と分担研究者(斉藤、長弘)が研究協力者の協力を得ながら実施した。
平成27~28年度は、こども虐待支援経験が豊富な保健師、助産師の支援事例について研究代表者(小笹)と分担研究者(長弘、外間)が半構成的面接調査(インタビュー調査)を行った。保健師経験5年以上かつこども虐待ボーダーライン事例支援経験数が5事例以上の市町村保健師34名、医療機関の助産師6名から計80事例を聞き取った。聞き取った事例を記述統計分析し、事例分析を行った。
平成28年度は、研究成果の報告会を4県5会場で行った。聞き取った事例から支援の特徴が表れている事例を選定し事例集「母と子の生活に寄り添う-保健師等が支援する事例-」を作成した。さらに保健師等が研究成果を活用できるようにホームページhttp://phnshien.com/ を作成し、学会等で発表した研究成果および支援事例を公表した。
結果と考察
平成26年度の調査から、保健師が経験した事例の背景は、生活困窮の事例経験が69.6%、育児支援者がいない事例経験が67%、精神疾患未治療の事例経験が62%、知的障害がある事例経験が61%、実家と不仲の事例経験が52%、被虐待経験の事例経験が49%、転居が多い事例経験が34%であった。25 年度の保健師の平均支援事例数は7.7 事例、中央値は3 事例であった。
平成27~28年度の保健師への半構成的面接調査(インタビュー調査)から、保健師等が支援する事例は、知的障害を持つ母親、精神疾患を持つ母親、一人親世帯の母親、生活保護受給世帯など、親が日々の生活に追われ生きるのに精一杯な生活弱者の事例が多かった。母親の約半数に被虐待の可能性が疑われた。実家との交流がほとんどない母親は有意に被虐待経験があった。一見物分かりがいいように見えるが、何度指導しても行動しない母親・父親がいた。また、父親やパートナーにDV疑いや精神障害があり、出産後に離別する事例があった。
平成28年度の助産師への調査から、助産師が支援する事例は福祉事務所や市町村からの依頼、未婚妊娠、若年妊娠、貧困等の特定妊婦事例が多かった。助産師の支援期間は妊婦健診、出産、1か月健診であり、数日から半年程度の短期間の支援であった。妊婦健診を定期的に受診しない事例については依頼を受けた機関と連携し、妊婦健診を促していた。出産後、地域に戻る事例の場合は医療機関から地域の担当保健師に支援継続の依頼が電話や文書で行われていた。
親の虐待をこども世代に連鎖させない支援体制を構築するためには「児童虐待防止法」を中心とした制度のより一層の充実と、親の生活苦を軽減できる制度と制度の隙間を埋める包括的な支援が必要であると考える。
結論
1.保健師等のこども虐待ボーダーライン事例に対する支援スキルの継承、向上のために、定年退職した経験豊かな保健師が同行訪問するなどスーパーバイザーとして実践的な助言を行う制度が必要だと考える。本研究で作成した事例集は研修の教材として役立てることができる。
2.本研究で市町村の保健師等が支援する事例が年々増加し、支援の終了時期の見極めが難しいことが明らかになった。
3.保健師等の認識の因子分析によって抽出された「生命の危機」、「親の都合優先」、「慈愛の欠如」、「養育の放棄」の因子から親に対する支援を認識していることが明らかになった。

公開日・更新日

公開日
2017-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201601006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
保健師等が支援を行っている事例はこどもへの支援だけでなく親の生活、健康改善に向けた支援も同時に行っていることが明らかになった。保健師等が支援している母親は被虐待経験、育児支援者がいない、精神疾患未治療、生活困窮などの問題を抱えていることがインタビュー調査から明らかになった。
得られた研究成果を日本公衆衛生学会、日本公衆衛生看護学会、日本看護学会等関連学会で発表した。
臨床的観点からの成果
本研究で市町村の保健師等が継続支援する事例が年々増加し、支援の終了時期の見極めが難しいことが明らかになった。このことから、事例の終結と記録管理の体制づくりが必要である。増加する一方の事例をどのように他の担当者に引き継ぐ、もしくは終結していくかは今後の大きな課題である。各機関が担当事例として常時かかわることはオーバーワークになる。そこで、地区担当保健師支援終結事例と判断された事例の記録を児童相談所等に保管し、再度事例として浮上したときに支援を再開・継続することが望ましいと考える。
ガイドライン等の開発
聞き取った事例から支援の特徴が表れている事例を選定し事例集「母と子の生活に寄り添う-保健師等が支援する事例-」を作成し、調査協力を得た市町村、保健師教育機関等に配布した。
その他行政的観点からの成果
研究成果の報告会を4県5会場で行った。参加者から「今まで感じていたことがデータで示された」「他の保健師の支援を知ることができた」等の評価を得た。加えて、保健師等が研究成果を活用できるように学会等で発表した研究成果および支援事例を作成したホームページhttp://phnshien.com/ で公表した。
その他のインパクト
保健師のこども虐待に対する認識の因子分析より「生命の危機」、「親の都合優先」、「慈愛の欠如」、「養育の放棄」の因子が抽出された、保健師は親の子育てについてアセスメントし支援を行っていることが明らかになった。
2019.3.2の山陰中央新報で子どもに虐待について研究責任者がインタビューされた内容が記事になった。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
Prevention of Abuse by Public Health Nurses Supporting Children and Mothers in JapanをShimane J.に投稿
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
6件
2018.11に行政機関の児童虐待予防のセミナーで講師を務めた。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
小笹美子、長弘千恵、斉藤ひさ子、他
保健師によるこども虐待ボーダーライン事例―事例支援と連携―
日本看護学会論文集 ヘルスプロモーション , 46 , 176-179  (2016)
原著論文2
Yoshiko Ozasa, Chie Nagahiro, Chikako Hokama, Yuko Toyama, Hiroko Nakano
Prevention of Abuse by Public Health Nurses Supporting Children and Mothers in Japan
島根ジャーナル , 36 (2-3) , 49-57  (2019)

公開日・更新日

公開日
2022-05-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201601006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,192,000円
(2)補助金確定額
3,192,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 263,267円
人件費・謝金 98,859円
旅費 667,470円
その他 1,746,404円
間接経費 416,000円
合計 3,192,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-03-16
更新日
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