建築物環境衛生管理に係る行政監視等に関する研究

文献情報

文献番号
201525013A
報告書区分
総括
研究課題名
建築物環境衛生管理に係る行政監視等に関する研究
課題番号
H26-健危-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
大澤 元毅(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 基哉(国立保健医療科学院 統括研究官)
  • 金 勲(キム フン)(国立保健医療科学院生活環境研究部)
  • 開原 典子(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
  • 鍵 直樹(東京工業大学大学院情報理工学研究科)
  • 柳 宇(工学院大学建築学部)
  • 東 賢一(近畿大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
7,271,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
建物の大規模化,用途の複合化,建築設備技術の発展などに対応するため,建築物における衛生的環境の確保に関する法律(以下,建築物衛生法)による監視技術にも多様化,高度化が不可欠である。一方近年,同法の特定建築物における建築物環境衛生管理基準を満足しない割合(以下,不適率)の改善が進まない状況が続き,維持管理手法,環境監視方法・体制などの環境衛生管理のあり方が問われている。本研究は,建築物における環境衛生管理に着目して,現状の把握及び問題点の抽出,原因の究明,対策の検討等を体系的に実施し,公衆衛生の立場を踏まえた,今後の建築物環境衛生管理に関する行政監視のあり方について提案を行おうとするものである。
研究方法
統計情報センターから公表されている最新の全国のデータをもとに検討を行うと共に,東京都の協力により得られた空気環境に関する立ち入り検査結果の解析を行った。更に,特定建築物の冬期湿度の不適率増加の要因解明に資することを目的とし,上述の測定データを用いて,冬期の室内湿度に関する分析を,事務所用途特定建築物において行った他,建築物における環境衛生管理基準項目に新たな管理項目を加えた測定方法の試行・検討を行った。建築物における衛生的環境の維持管理の実態,建築物利用者の健康状態及び職場環境等の実態をアンケートと実測で把握した。また,建築物衛生環境管理基準の中でも不適が著しい,相対湿度とCO2の健康影響に関する近年のエビデンスをレビューした。
結果と考察
全国の都道府県および政令市の特定建築物立ち入り検査報告を用い,平成8年度から26年度までの不適率推移をまとめた。期間中,浮遊粉じん,CO,ホルムアルデヒド,気流速度の不適率は全国的に穏やかであったのに対して,温度,湿度,CO2濃度は平成11年度から上昇し続けている。顕著な上昇が見られた平成11年度(大規模な省エネ法改正の翌年),平成15年度(建築物衛生法改正の翌年),平成23年度(東日本大震災)であり,法改正や震災直後の節電などによる影響が示唆された。CO2濃度の上昇は,省エネを意図した換気量削減のあらわれである可能性がある。一方,換気量が減少すると室内絶対湿度が上昇し相対湿度も上昇すると考えられるが,冬期に相対湿度の上昇は見られず,加湿量の減少が進行していると推察される。省エネ策の一環として加湿量削減が図られている可能性も推察が可能だが,換気量及び加湿量データを得られないため妥当性を直接確認することはできない。
建築物管理者及び利用者へのアンケート調査と室内環境の測定調査により,衛生的環境の維持管理状況,利用者の健康状態及び職場環境等の関連など実態把握のための縦断調査は、27年6月より実施中である。オフィス環境に起因する健康障害と職場環境との関連,健康に影響する維持管理上の課題を明らかにしていく。CO2濃度から推定した一人当たり換気量は建物によって大きくばらつき,換気量が一定の範囲に制御されていると仮定すると,測定時の在室人数に大きなばらつきが見られた。なお、職場環境と健康影響に関する実態の1999年頃よりの,温湿度及びCO2の不適率増加に着目し,相対湿度とCO2の健康等への影響に関する近年のエビデンスの文献レビューを実施した。
結論
・不適率の経年変化に,法改正や震災後の節電による省エネが深く関わっていることが示唆された。
・東京都立ち入り検査の不適率は,全国平均より良好だが,調査対象が良質な空調・換気設備を備えた大規模ビルであり,維持管理体制も充実している集団であることを勘案する必要がある。それでも相対湿度の不適率は12.7%あり,空調設備による夏期の減湿と冬期の加湿が不十分なことが確認された。建築確認時審査・協議を経た大規模なビルにおいても,湿度管理の難しさがあらわれ一層の対策の必要性が明らかになった。
・換気設計における在室人数の想定が実態と乖離している可能性が示唆された。
・浮遊真菌と浮遊微粒子の結果から,個別空調方式の外気取入れにはエアフィルタが設置されていないために,多くの汚染質が室内に侵入してきている状況が明らかになった。外気からの汚染除去のため換気系統にもエアフィルタを導入することが望ましい。
・化学物質については,ホルムアルデヒドを含む厚生労働省指針値及びTVOCの暫定目標値を超過する建物はなく,低濃度で良好な環境であった。
・PM2.5濃度測定結果は,大気基準の「日平均35 μg/m3」を下回った。また,I/O比も,同一建物内では概ね均一なことから,外気からの侵入にフィルタ特性が強く係っていると考えられる。
・CO2濃度と健康影響・労働生産性との関連を示唆する資料が見られたが、低濃度域におけるSBS関連症状との関係を含め,本疫学調査或いは諸外国での研究状況等について,引き続き検討を続ける必要がある。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-09-14
更新日
-

収支報告書

文献番号
201525013Z