文献情報
文献番号
201524023A
報告書区分
総括
研究課題名
新規in vivo遺伝毒性試験であるPig-a遺伝子遺伝毒性試験の胎仔を含めた週齢および性差に関する開発研究
課題番号
H25-化学-若手-008
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
堀端 克良(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター変異遺伝部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
幼児や妊婦(胎児)は、化学物質の遺伝毒性に対して脆弱であると考えられるが、それを定量的かつ簡便に評価する研究手法は未だに確立されていない。本研究課題では、化学物質の子どもおよび胎児への遺伝毒性影響を検出可能な評価手法としてPig-aアッセイを提案し、その有用性を明らかにし、そして次世代に与える遺伝毒性影響を明らかにすることを研究目的とした。本年度は最終年度であり、妊娠動物に遺伝毒性物質を投与した際の次世代に与える遺伝毒性影響をPig-aアッセイにより評価することでその有用性を検証した。
研究方法
妊娠時期に応じて、妊娠前、妊娠初期、中期および後期投与群を設定し、母マウスに遺伝毒性物質であるエチルニトロソウレア(40 mg/kg)およびベンツピレン(200 mg/kg)を単回腹腔内投与した。各群の母体からは、交配前3-7日目、および単回投与後5-6週目に尾静脈より採血を行ない、Pig-aアッセイを実施した。また、得られた仔マウスから採血を行い、得られた血液を用いてPig-aアッセイを実施した。Pig-aアッセイでは、末梢血を赤血球特異的蛍光抗体およびGPIアンカー結合タンパク質特異的蛍光抗体により2重染色し、フローサイトメーターを用いてPig-a変異体頻度を評価した。
結果と考察
妊娠前投与群のPig-a変異体頻度について、エチルニトロソウレアおよびベンツピレン投与群両者の多くの母マウスではPig-a変異体頻度の上昇が見られたが、一部の母マウスは陰性対照群と同等であった。他方、仔マウスのPig-a変異体頻度は背景値と同等であった。従って、この時期に投与されたエチルニトロソウレアおよびベンツピレンは新生仔へ遺伝毒性影響を与えないか、またはPig-aアッセイでは検出できない可能が考えられる。妊娠初期投与群では仔マウスは得られていない。従って、この時期の妊娠動物への腹腔内投与自体が妊娠継続を阻害したと考えられる。妊娠中期投与群のPig-a変異体頻度について、エチルニトロソウレア投与群の母マウスでは3個体中2個体でPig-a変異体頻度の上昇が見られた。仔マウスでは、個体差が大きいものの、非常に高いPig-a変異体頻度の上昇が見られた。幼若赤血球の頻度も仔マウスでは高いことから、仔マウスの高い造血活性が強いPig-a変異体頻度の上昇に結びついた可能性が考えられる。ベンツピレン投与群の母マウスでは3個体中2個体でPig-a変異体頻度の上昇が見られた。仔マウスでは、Pig-a変異体頻度の上昇が見られなかった。ベンツピレンは遺伝毒性を発揮するために代謝活性化が必要であることから、この時点の胎仔マウスはその代謝活性化能を有さないか低いこと、もしくは胎仔マウスが暴露されていないことが考えられる。妊娠後期投与群のPig-a変異体頻度について、エチルニトロソウレア投与群の母マウスでは3個体中2個体で非常に弱いPig-a変異体頻度の上昇が見られた。仔マウスでは、個体差が大きいものの、非常に高いPig-a変異体頻度の上昇が見られた。幼若赤血球の頻度は母マウスと同じ程度まで低下していたが、実際にエチルニトロソウレアに暴露された時期は採血時よりも前の高造血活性の時期であるので、仔マウスの高い造血活性が強いPig-a変異体頻度の上昇に結びついた可能性が考えられる。ベンツピレン投与群の母マウスでは3個体中2個体でPig-a変異体頻度の上昇が見られた。仔マウスではPig-a変異体頻度の上昇が見られなかった。これらは前述の妊娠中期の結果と同様であり、代謝活性化能や暴露の問題などが考えられる。
結論
最終年度である今年度に得られたマウスを用いた研究成果によって、①妊娠中期および後期に母マウスが遺伝毒性物質に暴露された場合、その影響は仔マウスに強く現れること、②これらのin vivo遺伝毒性について、極微量の末梢血を用いる内在性遺伝子を標的としたPig-aアッセイで検出できること、の2点が明らかになった。上記①については、妊娠期の母体における化学物質暴露に対する遺伝毒性リスクは仔に強く影響することを示すものであり、重要なリスク評価情報となる。上記②については、ヒトを含めたリスク評価手法に適応できることを示唆する。加えて、初年度および次年度に得られた研究成果により、遺伝毒性試験方法としてのPig-aアッセイとして見た場合、幼若動物を用いる方が感受性の高い試験を実施できる可能性が高いことや、成熟期よりも幼若期の方がより強い遺伝毒性影響を受ける可能性が高いことなどが明らかになっている。これらの3年間の研究成果から、化学物質の子どもおよび胎児への遺伝毒性影響を検出可能な評価手法としてPig-aアッセイの有用性が明らかになり、かつ、次世代に与える遺伝毒性影響が明らかになった。
公開日・更新日
公開日
2016-05-17
更新日
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