ナノマテリアル曝露による慢性及び遅発毒性評価手法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201524021A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアル曝露による慢性及び遅発毒性評価手法の開発に関する研究
課題番号
H27-化学-指定-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 津田 洋幸(名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
  • 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 変異遺伝部)
  • 渡辺 渡(九州保健福祉大学大学院 医療薬学研究科)
  • 石丸 直澄(徳島大学大学院 医歯薬学研究部)
  • 小林 憲弘(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
  • 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
25,548,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、これまでの研究で多層ナノチューブ(MWCNT)や酸化チタンを中心にして確立してきた慢性影響研究や新規に開発した高度分散手法(Taquann法)を基にして、H29年度までにさらに他のナノマテリアル(チタン酸カリウムや二層ナノチューブ)を用いて発癌性や免疫影響、発生影響に関するメカニズム解析や分散手法であるTaquann法の適用拡大研究を行うことにより、評価系の開発のために基礎的条件を確立することを目指している。
研究方法
27年度は、多層ナノチューブを用いたメカニズム解析とチタン酸カリウムを比較対象とした実験を中心に行った。慢性影響評価研究において、チタン酸カリウムの吸入暴露試験系の確立と経気管肺内噴霧法の検証、MWCNTの中皮腫誘発性におけるサイトカイン分析とin vivo変異原試験法の開発を行った。免疫系への影響評価研究では、慢性影響におけるTLRシグナル系への影響やチタン酸カリウムによる感染性への影響、NLRP3インフラマソームを介するマクロファージに対する影響を検討した。発生影響に関しては、反復投与による発生異常の詳細評価とMWCNT投与献体の加熱処理による影響を検討した。
結果と考察
慢性影響に関する研究に関して、チタン酸カリウムを用いた吸入実験系の開発検討では、Taquann法を適用し暴露濃度を安定化させることに成功し、マウスへのエアロゾル単回暴露を行った結果、チタン酸カリウムがMWCNTと同様に肺胞レベルまで到達することを確認すると共に肺沈着量の測定法の確立も成功した。また、チタン酸カリウムの経気管肺内噴霧法を用いた研究(ラット、2週間(8回)、250および500μg/ml)暴露の結果、肺組織のCCL2等のサイトカインmRNAレベルはいずれも酸化チタンよりも高値を示した。一方、MWCNTの腹腔内投与後8,16,24,32週目の腹腔内洗浄液のサイトカイン濃度を測定した結果、IL-6は経時的に減少したが,IL-8およびMCP-1は観察期間を通じて有意に高値を示した。さらに3種のMWCNTによる単回経気管噴霧投与による終生飼育実験は進行中であり、各MWCNT群で胸腔内及び腹腔内に単発的な腫瘍結節の発現を肉眼的に確認したところである。また、ナノマテリアルのin vivo遺伝毒性評価系としてマウスのin vivo肺小核試験法の確立を目指した基礎検討では、陽性物質による小核細胞の観察が可能な条件設定に成功したが、計測細胞数が少なく、更なる検討が必要となった。
免疫影響に対する検討では、正常マウスへMWCNT-7と共にZynosanを投与したところ、MWCNTはマクロファージのTLRシグナルを増強することが示された。また自己免疫疾患モデル動物(MRL/lprマウス)への投与では、腹腔滲出細胞の多くがM2マクロファージで、慢性的な腹膜炎の状態が継続していることも示された。感染性への影響に関しては、マウスにMWNT-7またはチタン酸カリウムを複数回経鼻投与曝露後のRSVによるマウスに感染させたところ、チタン酸カリウム曝露では、MWNT-7より増悪化の程度は弱いが、肺胞洗浄液中のCCL5レベルの上昇や肺組織への軽度な単核球の浸潤や細胞壁肥厚が認められた。一方in vitro評価系として繊維長と径の異なる各種MWCNTについて、マクロファージにおけるNLRP3インフラマソームを介する炎症性サイトカインIL-1β産生促進能を評価したところ、今回用いた4種のMWCNTについてサイズの依存性は明らかではなかった。
発生影響に関する検討では、これまでの研究における器官形成期の反復投与によっては4 mg/kg以上の投与でも外形異常は認められていなかったが、今年度、骨格検査を追加することにより、1 mg/kgの濃度でも骨化遅延を示すことが明らかとなった。一方、MWCNTの気管内投与による催奇性については、これまでの研究でその繊維長に依存した強さを示すことを明らかにしてきているが、MWCNTを加熱処理(250℃2時間)することでその作用が弱まることが新たに示された。この知見は、MWCNTによる催奇形性のメカニズム解明にとって、重要な知見であると考えられる。
結論
チタン酸カリウムの吸入毒性系を確立すると共に、気管内投与により酸化チタンよりは繊維状粒子に近い反応を示す可能性が示された。MWCNTの中皮腫誘発性には炎症サイトカインの持続的発現が認められた。チタン酸カリウムは感染性においてもMWCNTより程度は弱いが肺組織炎症性の憎悪化を示唆した。発生影響は外表異常が認められない用量でも骨格異常を示すことが確認されたが、MWCNTの加熱処理により発生毒性が減弱することも示唆され、その作用機作の解明が必要である。

公開日・更新日

公開日
2016-05-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201524021Z