文献情報
文献番号
201524004A
報告書区分
総括
研究課題名
カーボンおよび金属ナノマテリアルによる肺および全身臓器障害と発がん作用の機序解析とそれに基づく中期検索法の開発に関する研究
課題番号
H25-化学-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
研究分担者(所属機関)
- 内野 正(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 三好 規之(静岡県立大学大学院 薬食生命科学総合学府 食品栄養環境科学研究院 腫瘍生化学)
- 今泉 祐治(名古屋市立大学大学院薬学研究科 細胞分子薬効解析学分野)
- 酒々井 眞澄(名古屋市立大学 大学院医学研究科 分子毒性学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
25,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
カーボンナノチューブ(MWCNT)の呼吸器における中・長期毒性および発癌性の評価には高価な吸入暴露試験が必要であるため、現在世界において、日本でMWCNT-7(M-H社)が世界でただ1種実施されているのみである。そこで、吸入暴露試験の加速化に寄与できる安価にして信頼性の高い評価法の開発を目指した。
研究方法
1.肺胞Mφのin vitro における炎症・細胞増殖作用機序の解析
1)10週齢ラットにチオグリコレートをTIPS投与して肺胞内Mφを誘導し、メッシュ濾過にてMφを採取し(106個)培地に検体MWCNT(500μg/ml)を加えて貪食させ、24時間培養後の培養上清を取って、ヒト由来のMet5A(中皮細胞)、MESO-1/2(中皮腫細胞上皮型/肉腫型)、CCD34(肺線維芽細胞)、A549(肺癌)、及び他の臓器由来がん細胞に対する増殖活性を観察した。また貪食したMφから分泌される炎症性サイトカインのアレイ解析を行った。
2)気管支上皮細胞に対する障害作用について、初代培養での線毛運動について、蛍光ビーズの搬送能を指標とする評価法を検討した。
2. 短期投与試験における炎症・増殖性病変の解析
1) 回復試験:被検物質のMWCNT-L(A社)(直径=150 nm)、MWCNT-7(針状凝集体)、Crocidolite(UICC gradeアスベスト)を250および500μg/mlをTIPS投与した。MWCNTを生食中に分散性能の良い0.5%pluronic 68コポリマー分散剤(PF68)に懸濁して0.5mlを2週間8回(肺内噴霧投与・TIPS投与)し、終了1日後と、12週後に屠殺して病変発生とその回復の程度を検討した。
2) MWCNT、 MWCNT-S(A社)(直径=15nm)を2週間に8回TIPS投与を行い肺組織からDNAを抽出し、そのDNA加水分解物をLC/ESI-MS/MSにてDNA付加体のフラグメントによるLC/ESI-MS/MS(SRM)解析によって、核酸と結合し得るアルデヒドやケトン基を有する活性カルボニル化合物(RCs)の生成を計測した。
3. MWCNTの短期投与・長期観察による発がん性の簡便検索法
MWCNT-N(N社)(針状凝集体、長さ3.5μm、直径30nm)を250μg/mlを0.5%PF68分散剤に懸濁して0.5mlを2週間に8回TIPS投与を行い(計1mg/ラット)、投与終了後無処置で2年間観察し、発がん性について検討した。またMWCNT-LとMWCNT-Sについて短期投与後2年観察する試験は標本作成中である。
1)10週齢ラットにチオグリコレートをTIPS投与して肺胞内Mφを誘導し、メッシュ濾過にてMφを採取し(106個)培地に検体MWCNT(500μg/ml)を加えて貪食させ、24時間培養後の培養上清を取って、ヒト由来のMet5A(中皮細胞)、MESO-1/2(中皮腫細胞上皮型/肉腫型)、CCD34(肺線維芽細胞)、A549(肺癌)、及び他の臓器由来がん細胞に対する増殖活性を観察した。また貪食したMφから分泌される炎症性サイトカインのアレイ解析を行った。
2)気管支上皮細胞に対する障害作用について、初代培養での線毛運動について、蛍光ビーズの搬送能を指標とする評価法を検討した。
2. 短期投与試験における炎症・増殖性病変の解析
1) 回復試験:被検物質のMWCNT-L(A社)(直径=150 nm)、MWCNT-7(針状凝集体)、Crocidolite(UICC gradeアスベスト)を250および500μg/mlをTIPS投与した。MWCNTを生食中に分散性能の良い0.5%pluronic 68コポリマー分散剤(PF68)に懸濁して0.5mlを2週間8回(肺内噴霧投与・TIPS投与)し、終了1日後と、12週後に屠殺して病変発生とその回復の程度を検討した。
2) MWCNT、 MWCNT-S(A社)(直径=15nm)を2週間に8回TIPS投与を行い肺組織からDNAを抽出し、そのDNA加水分解物をLC/ESI-MS/MSにてDNA付加体のフラグメントによるLC/ESI-MS/MS(SRM)解析によって、核酸と結合し得るアルデヒドやケトン基を有する活性カルボニル化合物(RCs)の生成を計測した。
3. MWCNTの短期投与・長期観察による発がん性の簡便検索法
MWCNT-N(N社)(針状凝集体、長さ3.5μm、直径30nm)を250μg/mlを0.5%PF68分散剤に懸濁して0.5mlを2週間に8回TIPS投与を行い(計1mg/ラット)、投与終了後無処置で2年間観察し、発がん性について検討した。またMWCNT-LとMWCNT-Sについて短期投与後2年観察する試験は標本作成中である。
結果と考察
1のin vitro実験および 2の短期in vivo試験において、MWCNT(MWCNT-7、MWCNT-L)はMφによる強い異物炎症を起こし、中皮の増殖と胸膜の線維化を誘発し、投与終了後も遷延性化した。機序はMφ由来の細胞増殖活性のあるMip1α、CTGF、Csf3およびCxcl2の関与が考えられる。MWCNTは肺と胸膜中皮ばかりではなく気管上皮にも著しい障害を起こすことを明らかにした。また発がん機序として肺組織脂質の過酸化物が関与する可能性を示した。
3MWCNT-Nを2Wモデルと同様条件で投与して無投与で2年観察したところ、縦隔の心嚢周囲の悪性中皮腫肺と胞上皮腫瘍(腺腫・がん合計)の有意の発生がみられた。これによって肺内に投与したMWCNTは、肺と中皮に発がん性を示すことを世界で初めて明らかにした(Cancer Science, in press, 2016)。ここの短期TIPS法は特別な設備の必要がなく、投与後は飼育観察するのみであることから、安価にして実施容易な方法と言える。今後、MWCNT-7を含む多種検体についてNOAELを意識した低用量域における実験によってこの方法のvalidationが得られれば、カーボンナノチューブ製品の発がん性試験の加速化に貢献できると考える。
3MWCNT-Nを2Wモデルと同様条件で投与して無投与で2年観察したところ、縦隔の心嚢周囲の悪性中皮腫肺と胞上皮腫瘍(腺腫・がん合計)の有意の発生がみられた。これによって肺内に投与したMWCNTは、肺と中皮に発がん性を示すことを世界で初めて明らかにした(Cancer Science, in press, 2016)。ここの短期TIPS法は特別な設備の必要がなく、投与後は飼育観察するのみであることから、安価にして実施容易な方法と言える。今後、MWCNT-7を含む多種検体についてNOAELを意識した低用量域における実験によってこの方法のvalidationが得られれば、カーボンナノチューブ製品の発がん性試験の加速化に貢献できると考える。
結論
1)in vitro において、肺胞MφにMWCNTを貪食させた培養上清、およびMWCNTを投与したラットの胸膜洗浄液には、肺がん細胞と悪性中皮腫細胞に対する増殖因子が含まれる。これはMWCNTによる細胞増殖因子の産生の試験法として有用である。
2)MWCNTの組織・細胞障害、増殖関連因子として主としてMφを介するCCL3、IL-2、IP10、IL-18、VEGF等の関与が示唆される。
3)ラットを用いた短期回復試験、中期投与試験、および短期投与・長期観察試験の結果より、気管内噴霧投与法(TIPS法)は全身暴露法に代替でき得る。
2)MWCNTの組織・細胞障害、増殖関連因子として主としてMφを介するCCL3、IL-2、IP10、IL-18、VEGF等の関与が示唆される。
3)ラットを用いた短期回復試験、中期投与試験、および短期投与・長期観察試験の結果より、気管内噴霧投与法(TIPS法)は全身暴露法に代替でき得る。
公開日・更新日
公開日
2018-05-28
更新日
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