化学物質の臨界期曝露による生殖内分泌機能の遅発影響に視床下部キスペプチンニューロンの部位特異的変化が果たす役割と閾値に関する研究

文献情報

文献番号
201524003A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の臨界期曝露による生殖内分泌機能の遅発影響に視床下部キスペプチンニューロンの部位特異的変化が果たす役割と閾値に関する研究
課題番号
H25-化学-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 美和(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 薫( 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部 )
  • 代田 眞理子(麻布大学 獣医学部)
  • 渡辺 元(東京農工大学 農学部)
  • 横須賀 誠(日本獣医生命科学大学 獣医学部)
  • 川口 真以子(明治大学 農学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
22,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行の生殖発生毒性試験では新生時期曝露後性成熟以降に顕在化する遅発影響を検出できない。本研究では、視床下部前方に位置しLHサージ制御中枢である前腹側室周囲核(AVPV)、視床下部後方の卵胞発育パルス制御部位である弓状核(ARC)に存在するキスペプチンニューロンに着目し、その部位特異的変化を解析して遅発影響の発現機序を解明する。H27年度は、遅発影響と視床下部内キスペプチンニューロンの部位特異的な変化との関連性をさらに明らかにするため、曝露初期からの視床下部の各変化を検索した。また卵巣等の変化やEE以外のエストロゲン受容体(ER)に結合する物質について遅発影響が起きうるのか検討した。
研究方法
ラットおよびマウスを用いて、遅発影響発現量のethynyl estradiol (EE)あるいはERに結合する種々の化学物質を新生児期に投与し、視床下部前方AVPVおよび後方ARCのキスペプチンニューロンや関連遺伝子、神経核の変化あるいはARCに支配される卵胞への影響を検索した。また、これまでの研究成果で得られた遅発影響指標と機序と閾値を総合解析し、遅発影響の発現機序を示したAdverse outcome pathway(AOP)を構築した。
結果と考察
1.Selective estrogen receptor modulator (SERM)であるタモキシフェン(TMX)およびラロキシフェン(RLX)をラット新生児期単回曝露した結果、性周期異常の発現が早期化、young adult期においてAVPVのキスペプチン発現低下等EEと同様の結果が得られたことから、SERMはEE同様の機序でキスぺプチンニューロンの低下を介して遅発影響が誘発することが明らかとなった。
2.ERαアンタゴニストICI 182,781 (ICI) 5,000 μg/kgのラット新生児単回皮下投与により性周期異常の発現早期化が観察されことから、ERαアンタゴニストの遅発影響誘発が明らかとなった。遅発影響誘発が知られているERαアゴニストPPT、ERβアゴニストDPNおよびICIを新生児期曝露したラットを用いて、発達期における視床下部前部/後部のKiss1 mRNA発現を解析したが、EE投与と同様のKiss1 mRNA発現低下は認められず、ER結合物質による相違が存在する可能性が示唆された。
3.遅発影響量のEEを新生児期に経口投与したラットでは、投与後短期間より視床下部Kiss1遺伝子の明瞭な発現低下が認められた。新生児ラットの視床下部においてKiss1はLHパルスを起動する弓状核のKndyニューロンにのみ発現していることから、EE新生児期曝露はまずKndyニューロンのKiss1低下を介してGnRH分泌制御を変化させ、その後の視床下部下垂体性腺軸の正常な発達を妨げた結果、遅発影響をもたらす可能性が示唆された。
4.キスペプチンニューロン以外の変化として、新生児期EE曝露したラット卵巣では生後直後より卵巣のアポトーシスが抑制された。遅発影響量の新生児期EE曝露マウスにおいても内側視束前野(POA)のCalbindinD-28k(CB)陽性細胞の雌雄差パターン変化が授乳期や雌の発達にも影響を及ぼしていることが明らかとなった。
5.遅発影響量のEE生後4週間経口投与は成熟後の性行動を抑制した。In vivoでのエストロゲン作用はないものの難燃剤tripehnyl phosphate (TPhP)の高用量曝露でも同様の変化が認められた。
結論
1. 遅発影響はERを介するエストロゲン作用物質だけでなく抗エストロゲン作用物質でも誘発される。
2. さらなる検討が必要であるが遅発影響の新生児期曝露初期からすでに視床下部や卵巣等で変化が起きていると考えられる。
3. 遅発影響では視床下部以外の脳および性行動等の変化をもたらす。
4. 遅発影響の発現機序を示したAdverse outcome pathway(AOP)を構築し、既存の繁殖毒性試験テストガイドライン(TG)を改善することにより遅発影響は検出可能であると結論した。

公開日・更新日

公開日
2016-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-05-27
更新日
-

文献情報

文献番号
201524003B
報告書区分
総合
研究課題名
化学物質の臨界期曝露による生殖内分泌機能の遅発影響に視床下部キスペプチンニューロンの部位特異的変化が果たす役割と閾値に関する研究
課題番号
H25-化学-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 美和(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 薫(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部 )
  • 代田 眞理子(麻布大学 獣医学部)
  • 渡辺 元(東京農工大学 農学部)
  • 横須賀 誠(日本獣医生命科学大学 獣医学部)
  • 川口真以子(明治大学 農学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行の生殖発生毒性試験では新生時期曝露後性成熟以降に顕在化する遅発影響を検出できない。本研究では、視床下部前方に位置しLHサージ制御中枢である前腹側室周囲核(AVPV)、視床下部後方の卵胞発育パルス制御部位である弓状核(ARC)に存在するキスペプチンニューロンに着目し、その部位特異的変化を解析して遅発影響の発現機序を解明する。また遅発影響発現の閾値を明らかにする。
研究方法
ラットおよびマウスを用いて、遅発影響発現量のethynyl estradiol (EE)あるいはエストロゲン受容体 (ER)に結合する種々の化学物質を新生児期に投与し、視床下部前方AVPVおよび後方ARCのキスペプチンニューロンや関連遺伝子、神経核の変化あるいはARCに支配される卵胞への影響を検索した。また、これまでの研究成果で得られた遅発影響指標と機序と閾値を総合解析し、遅発影響の発現機序を示したAdverse outcome pathway(AOP)を構築した。
結果と考察
1. エストロゲンおよび抗エストロゲン作用物質の新生児期曝露ラットでは、性周期を回帰するyoung adult時期において、性周期中枢である視床下部前方AVPVのキスペプチン低下およびLHサージの低下が認められ、その後性周期異常の発現時期早期化が観察された。すなわち遅発影響の発現機序は、性周期中枢である視床下部前方AVPVのキスペプチン低下が重要な引き金であり、この低下がLHサージ低下という性腺軸の持続的変調を誘導した結果、遅発影響の長期エンドポイントの性周期異常の発現早期化として顕在化することが明らかとなった。 
2. 初期変化として、EE曝露ラットでは性成熟前においてAVPV相当部位のKiss1 mRNA発現低下が認められたが、PPTやICHでは認められなかったことからさらなる研究が必要である。卵胞発育中枢である視床下部後方ARCのキスペプチンの役割は、AVPVとは異なり持続的な低下は認められなかった。さらなる検討が必要であるが、AVPVが未発達時期の曝露直後に視床下部キスペプチン低下や卵巣の卵胞発育関連遺伝子の変化が観察されたことから、ARCが曝露直後に視床下部・下垂体・性腺軸の正常を曝露直後に妨げていることが遅発影響に関連している可能性も示唆された。
3. エストロゲン類の新生児期曝露の遅発影響は内側視索前野(POA)のCalbidin D-28k (CB)陽性細胞の雌雄差や行動神経内分泌系などその他の中枢系へも及んでいると考えられた。また卵巣へは投与直後からの直接影響も考えられた。
4. 遅発影響の無影響量は経口投与で0.016 μg/kg/day×5daysであった。先行研究成果での単回皮下投与0.02 μg/kg/dayとほぼ同様である。また投与時期による遅発影響の閾値は約10日齢であった。したがって先行研究と併せ、遅発影響の投与量と投与時期には閾値が存在することが明らかとなった。
結論
1. エストロゲン類あるいはERを介した新生児期曝露により誘発される遅発影響の発現機序に、視床下部キスペプチンニューロンの部位特異的な変化が必須の役割を果たしていることが明らかとなった。
2. さらなる検討が必要であるが遅発影響の新生児期曝露初期からすでに視床下部や卵巣等で変化が生じていると考えられる。
3. 遅発影響では視床下部以外の脳および性行動等の変化をもたらす。
4. 遅発影響の発現および臨界期には閾値が存在する。
5. 遅発影響の発現機序を示したAdverse outcome pathway(AOP)が構築可能で、既存の繁殖毒性試験テストガイドライン(TG)の改善により遅発影響は検出可能であると結論した。

公開日・更新日

公開日
2016-05-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-05-27
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201524003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
遅発影響におけるキスぺプチンニューロンの役割を明らかにするために、視床下部の部位、発情周期、発達段階などに応じた詳細な解析を実施した。その結果、エストロゲン類あるいはエストロゲン受容体を介した新生児期曝露により誘発される遅発影響の発現機序に、視床下部キスペプチンニューロンの部位特異的な変化が必須の役割を果たしていることが明らかにした。
臨床的観点からの成果
遅発影響の発現にはエストロゲン受容体が重要な役割を果たすが、霊長類、げっ歯類を含む多くの種で共通していることから、本研究で認められたラット、マウスにおける遅発影響の機序、閾値の存在ともにヒトへの外挿入性が極めて高いと考えられる。本研究の成果が毒性試験ガイドラインの改善につながることで、化学物質のリスク評価を通してヒトの健康に寄与する。
ガイドライン等の開発
現行の生殖発生毒性試験では新生時期曝露後性成熟以降に顕在化する遅発影響を検出することは難しいが、このような影響を検出するために、既存の二世代繁殖毒性試験 (TG416)あるいは一世代繁殖毒性試験 (TG415)、拡張型一世代繁殖毒性試験 (TG433)を基にした毒性試験ガイドラインの改善点を提言した。
その他行政的観点からの成果
これまでの研究成果で得られた遅発影響指標と機序と閾値を総合解析し、遅発影響の発現機序として以下のAdverse outcome pathway (AOP)を構築した:エストロゲン/抗エストロゲン作用物質の新生児期曝露→視床下部サージ中枢視床下部キスペプチン陽性細胞数低下→LHサージ低下→性周期異常の発現時期の早期化 (比較的高用量では→繁殖生涯への悪影響/子宮癌リスク増加)
その他のインパクト
第41回日本毒性学会学術年会シンポジウムでは「リプロダクティブヘルスからみた遅発影響 -生殖発生毒性試験から捉えられない指標-」として研究成果を発表した。第31回日本毒性病理学会総会および学術年会において,「Ethynylestradiolの新生児期曝露による遅発影響の感受期の検索」(市村 亮平ら)が最優秀賞を受賞した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
37件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi M, Ichimura R, Inoue K et al.
The impact of neonatal exposure to 17alpha-ethynylestradiol on the development of kisspeptin neurons in female rats.
Reproductive Toxicology , 60 , 33-38  (2016)
原著論文2
Shiga T, Nakamura TJ, Komine C et al.
A Single Neonatal Injection of Ethinyl Estradiol Impairs Passive Avoidance Learning and Reduces Expression of Estrogen Receptor α in the Hippocampus and Cortex of Adult Female Rats.
PLoS One , 11 (1) , e0146136-  (2016)
原著論文3
Ichimura R, Takahashi M, Morikawa T et al.
The Critical Hormone-Sensitive Window for the Development of Delayed Effects Extends to 10 Days after Birth in Female Rats Postnatally Exposed to 17alpha-Ethynylestradiol.
Biology of Reproduction , 93 (2) , 1-11  (2015)
原著論文4
Ichimura R, Takahashi M, Morikawa T et al.
Prior attenuation of KiSS1/GPR54 signaling in the anteroventral periventricular nucleus is a trigger for the delayed effect induced by neonatal exposure to 17alpha-ethynylestradiol in female rats.
Reproductive Toxicology , 51 , 145-156  (2015)
原著論文5
Yoshida M, Katashima S, Tahahashi M et al.
Predominant role of the hypothalamic-pituitary axis, not the ovary, in different types of abnormal cycle induction by postnatal exposure to high dose p-tert-octylphenol in rats.
Reproductive Toxicology , 57 , 21-28  (2015)
原著論文6
Shirota M, Kawashima J, Nakamura T et al.
Dose-dependent acceleration in the delayed effects of neonatal oral exposure to low-dose 17α-ethynylestradiol on reproductive functions in female Sprague-Dawley rats.
The Journal of Toxicological Sciences , 40 (6) , 727-738  (2015)
原著論文7
Taketa Y, Inoue K, Takahashi M et al.
Effects of sulpiride and ethylene glycol monomethyl ether on endometrial carcinogenicity in Donryu rats.
Journal of Applied Toxicology , 36 (6) , 769-776  (2016)
原著論文8
Horii Y, Kawaguchi M.
Higher detection sensitivity of anxiolytic effects of diazepam by ledge-free open arm with opaque walled closed arm elevated plus maze in male rats.
Behavioural Brain Research , 294 , 131-140  (2015)
原著論文9
Matsuo S, Takahashi M, Inoue K et al.
Inhibitory potential of postnatal treatment with cyclopamine, a hedgehog signaling inhibitor, on medulloblastoma development in Ptch1 heterozygous mice.
Toxicologic Pathology , 42 (8) , 1174-1187  (2014)
原著論文10
Nozawa K, Nagaoka K, Zhang H et al.
Neonatal exposure to 17α-ethynyl estradiol affects ovarian gene expression and disrupts reproductive cycles in female rats.
Reproductive Toxicology , 46 , 77-84  (2014)
原著論文11
Usuda K, Nagaoka K, Nozawa K et al.
Neonatal exposure to 17α-ethinyl estradiol affects kisspeptin expression and LH-surge level in female rats.
The Journal of Veterinary Medical Science , 76 (8) , 1105-1110  (2014)
原著論文12
Hayashi S, Taketa Y, Inoue K et al.
Effects of pyperonyl butoxide on the female reproductive tract in rats.
The Journal of Toxicological Sciences , 38 (6) , 891-902  (2013)
原著論文13
Takahashi M, Ichimura R, Inoue K et al.
The role of estrogen receptor subtypes for induction of delayed effects on the estrous cycle and female reproductive organs in rats.
Reproductive Biology , 17 (1) , 111-119  (2017)
原著論文14
Ichimura R, Takahashi M, Morikawa T et al.
Neonatal exposure to SERMs disrupts neuroendocrine development and postnatal reproductive function through alteration of hypothalamic kisspeptin neurons in female rats.
Neurotoxicology , 56 , 64-75  (2016)

公開日・更新日

公開日
2023-04-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201524003Z