食品中の放射性物質濃度の基準値に関する影響と評価手法に関する研究

文献情報

文献番号
201522041A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の放射性物質濃度の基準値に関する影響と評価手法に関する研究
課題番号
H27-食品-指定-016
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
明石 真言(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 知之(京都大学原子炉実験所)
  • 塚田 祥文(福島大学 環境放射能研究所)
  • 青野 辰雄(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 放射線医学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
16,924,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年福島第一原子力発電所事故により食品の摂取による内部被ばくが懸念された。厚生労働省は平成24年4月以降、年間1mSvとして導出された新たな基準値を適用した。この基準値の導出には、放射性セシウム(Cs)濃度について基準値を設定し、その他の核種については、半減期が1年以上であるストロンチウム-90(Sr-90)、ルテニウム-106(Ru-106)、プルトニウム-238、プルトニウム-239(Pu-239)、プルトニウム-240(Pu-240)及びプルトニウム-241を評価対象核種として、放射性Csとの濃度比を推定することにより、その線量への寄与を考慮している。内部被ばく線量に対する放射性Cs及びその他の核種の寄与率は、環境モニタリングによる土壌中放射性核種濃度や、これまでの環境移行パラメータによって推定されており、食品中濃度を測定した結果に基づくものではない。本研究では食品(農畜水産物等)中の放射性Cs及びその他の長半減期放射性核種の濃度変化について調査を行い、基準値作成に用いられた濃度比との比較や食品の摂取に起因する内部被ばく線量に対する放射性Csの寄与率の推定から、介入線量を年間1mSvとした食品中の放射性Cs濃度基準値の妥当性の検証および食品中放射性物質の濃度等に関する科学的知見の集約を行うことを目的とした。
研究方法
営農再開地域における農作物中の放射性物質濃度に関する研究では、営農再開予定地域や福島
原発北西側の市場流通農作物を対象に、放射性Cs濃度とSr-90濃度を求め、全国のモニタリング結果と比較・検証した。食品中の放射性核種濃度等に関する研究では、福島県沖合で採取され市場に流通する水産物を各漁協から購入し、放射性物質の濃度測定を行った。内部被ばく線量に対する放射性Csの寄与率等の推定では、放射性Cs及びSr-90による内部被ばく線量を推定した。食品中放射性物質濃度等に関する地検の評価検討では、国際機関や諸外国等における食品中の放射性物質の規制値や基準値について、放射性物質の規制値や基準値に関する基礎的な資料を作成するため、規制値や基準値設定の背景や算出方法等について文献調査を行った。
結果と考察
福島原発から北西に位置する福島市、伊達市および川俣町から市場流通している農作物や平成29年度に営農再開を計画している飯舘村、浪江町及び川俣町の試験圃場から採取した農作物中の放射性CsとSr-90濃度は福島県を除く日本全国の放射性Cs及びSr-90濃度とも同程度にあった。本研究で検出されたSr-90濃度は大気圏核実験に由来する濃度と同程度であると考えられる。購入した水産物可食部の1個体ごとのCs-137濃度は2Bq/kg-wet以下であり、Sr-90およびPu-239+240濃度は検出下限値以下であった。Sr-90及びPu-239+240濃度は基準値の導出の考え方によるSr-90 / Cs-137及びPu-239+240 / Cs-137濃度比よりも低い結果あるいは、大気圏内核実験由来の濃度レベルにあることが考えられた。
農畜産物と海産物の摂取に起因する放射性Csによる内部被ばく線量の評価結果は、19歳以上(男子)と19歳以上(女子)でそれぞれ0.015mSv及び0.011mSvで、年間1 mSvを大幅に下回っていた。Sr-90による内部被ばく線量の評価結果は0.001mSvオーダーかそれ以下であったが、事故由来のSr-90による被ばく線量はこの評価結果よりも十分に低く、事故に起因する放射性Csによる被ばく線量と比べても十分に低いと考えられる。国際機関、諸国や地域における食品中の放射性物質の規制値や基準値について、その設定の背景や算出方法等について調査し、根拠法令や報告書などの関連資料を整理した。食品基準産出の考え方、レベルの計算方法や内部被ばく基準が異なるものであった。飲食物中の放射性物質が健康に及ぼす濃度を示すものでなく、緊急事態における介入レベルとして飲食物摂取制限措置の目安となるように設定されていた。
結論
採取した作物中放射性Cs濃度は全て基準値を大きく下回った。作物中Sr-90濃度も福島県を除く全国調査の範囲内にあり、事故由来による作物中Sr-90濃度の明らかな増加は認められなかった。福島海域で採取され市場に流通する水産物中放射性Cs濃度は基準値より2桁も低い濃度であった。Sr-90及びPu-239+240濃度は検出下限値以下であり、本事故による影響は確認できなかった。これまでの結果より、事故に起因するSr-90の寄与は極めて小さく、放射性Cs以外の放射性核種の寄与を安全側に考慮した放射性Csに対する基準値の算定値は、妥当であったと考えられる。また国際機関や各国の規制値や基準値について、その根拠や計算方法について資料集を作成した。

公開日・更新日

公開日
2016-10-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
201522041Z