震災に起因する食品中の放射性物質ならびに有害化学物質の実態に関する研究

文献情報

文献番号
201522035A
報告書区分
総括
研究課題名
震災に起因する食品中の放射性物質ならびに有害化学物質の実態に関する研究
課題番号
H24-食品-指定-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
蜂須賀 暁子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
研究分担者(所属機関)
  • 曽我 慶介( 国立医薬品食品衛生研究所 生化学部 )
  • 鍋師 裕美(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
  • 植草 義徳(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
  • 畝山 智香子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 松田 りえ子(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大震災と津波により、放射性物質を含む多量の規制化学物質が環境に放出された。これら物質の食品中への移行は食品衛生上大きな問題である。食品中の放射性物質は、平成24年度から新たに食品衛生法第11条による基準値が設定され、検査の信頼性が一層重要となった。本研究では、効率的・効果的な検査手法の確立、検査結果の信頼性の向上、きめ細やかな規制のあり方等について検討する。また、震災により放出された放射性物質以外の化学物質の食品への影響はほとんど検討されていないことから、これらの影響を評価するための研究を行う。
研究方法
放射能測定結果の信頼性に資するため、本年度は測定値の偏りを生じさせる因子として、試料と検出器の幾何学的位置関係であるジオメトリーについて検討した。調理加工による放射性物質総量や濃度の変化に関する情報の収集を目的に、各種食品(大豆、タケノコ、ウメ、ウナギ)を用いて調理加工前後の食品中の放射性セシウム濃度の分析を行った。震災・津波により環境に流出した可能性が高く、健康影響へのリスク管理の観点から実態を把握すべき化学物質として、ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)を取り上げ、本年度は津波被災3地域および津波非被災1地域からアイナメおよびカレイ・ヒラメを購入し、計80食品のPCBs濃度実態を調査した。また、震災前後にリスクが変化している化学物質を探索し、今後のリスクコントロールについて評価した。効率的な検査計画の立案に資するため、厚生労働省に報告されたモニタリング検査データを詳細に解析し、食品中の放射性セシウムの分布、変動、減衰の状況を調べた。
結果と考察
放射能測定値の偏りを生じさせる因子の検討では、測定容器内の計数効率が高い部位に空隙がある場合は、測定結果は小さくなり放射能濃度は低く算出され、逆に計数効率が低い部位に空隙がある場合は、高く算出されることを示した。また、試料量を規定量以上に充填した場合は、算出される重量あたりの放射能濃度が一般に減少することを示した。 
調理加工影響では、加工の途中でおからと豆乳に放射性セシウムが分配される豆腐や湯葉、液体中での浸漬の工程を経るタケノコのあく抜きやウメの砂糖漬けでは、比較的高効率に放射性セシウムが除去されることが示された。豆乳に対する湯葉のように加工後、原材料の放射性セシウム濃度より高濃度になる食品があることには注意が必要である。
PCBs濃度実態調査では、全209異性体分析の結果、総PCBs濃度は全ての試料において暫定的規制値を下回り、高濃度汚染試料は認められなかった。一部の津波被災地域間で総PCBs濃度に差が認められたが、憂慮すべき差ではないと考えられた。総PCBs濃度に対する各同族体の割合は、ほとんどの試料において4~7塩素化PCBsの構成割合が大きく、カネクロール由来のPCBs同族体割合を反映した環境中の魚の同族体割合と類似していた。同族体割合が異なる試料も一部で認められ、異性体ごとの割合や主成分分析を用いた詳細な解析により、アゾ顔料の副生PCBによる汚染が疑われたが、これが津波の影響によるものであるかは判断できなかった。
震災前後に健康リスクが変化している化学物質は、環境や食品中の濃度変動よりも個人の行動変化のほうが寄与率が高そうであることが初年度の研究成果として示唆されたため、消費者が適切なリスク管理を行うために必要な情報について調査した。震災から時間が経過し流通食品から放射性物質が検出されることがほぼ無くなり話題になることも減っていて、そのため放射性物質に関する関心も薄れ、誤解が定着し正確な理解は進んでいないことが示唆された。
効率的検査計画の検討では、公表されている平成27年度の食品中の放射性セシウム濃度データ66,663件につき、産地、食品カテゴリ別に検出率、濃度等を求めた。流通する食品の基準値超過率は0.15%で非常に低かったが、非流通食品では0.63%であり、また非常に高濃度の試料も見られたことから、流通前の検査により、高濃度の放射性セシウムを含む食品が、効果的に流通から排除されていると考えられた。今後は、山菜、きのこ、淡水魚、野生鳥獣肉などの食品中の放射性セシウムの検査を維持していくことが重要と考えられる。
結論
放射性物質の非流通食品も含めた検査結果解析から、規格不適合食品の排除は適切になされていると考えられた。今後、監視を強化継続すべき食品群は、山菜、きのこ、淡水魚、野生鳥獣肉のような山林にその起源をもつ食品と考えられた。検査体制の充実により安全な食品の流通を保証すること、並びに消費者が適切なリスク管理を行うために必要な情報を提供していくことは、食品の安全・安心に繋がるとともに、風評被害を防止し、被災地域の復興に繋がると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2016-06-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-06-11
更新日
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収支報告書

文献番号
201522035Z