HIV感染症の疫学研究

文献情報

文献番号
199800524A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の疫学研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
木原 正博(神奈川県立がんセンター臨床研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本修二(東京大学医学部)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 鎌倉光宏(慶應義塾大学医学部)
  • 木村博和(横浜市立大学医学部)
  • 松本孝夫(順天堂大学医学部)
  • 松田重三(帝京大学医学部)市川誠一(神奈川県立衛生短期大学)
  • 磯村思无(名古屋大学医学部)
  • 和田清(国立精神・神経センター精神保健研究所)
  • 熊本悦明(札幌医科大学医学部)
  • 大里和久(大阪府立万代診療所)
  • 大山泰雄(新宿区衛生部)
  • 今井光信(神奈川県衛生研究所)
  • 清水勝(東京女子医科大学)
  • 喜多恒和(防衛医科大学校病院)
  • 広瀬弘忠(東京女子大学文理学部)
  • 兒玉憲一(広島大学保健管理センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 エイズ対策研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
230,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国社会の諸集団におけるHIV感染状況やリスク行動の実態、感染への脆弱性と社会的諸要因に関連を分析し、将来予測・推計を行うと共に、エビデンスに基づく有効なHIV/AIDS予防対策を具体的に提示していくことを目的とする。
研究方法
厚生省エイズサーベイランスデータの詳細な解析、HIV及びSTDに関する血清疫学的調査、分子疫学調査、社会科学的調査(知識や性行動)などに基づき、わが国の社会的諸集団(患者・感染者、男性と性行為を行う人々[MSM]、薬物乱用・依存者、新来外国人、STDクリニック受診者、風俗関連施設利用者、検査機関受検者、献血者、妊婦、日本人一般)の感染状況と行動実態を把握し、将来予測・推計を行い、また予防介入研究の実施によってエビデンスに基づいた有効な予防対策を提示する。
結果(下線は研究テーマ)=①将来予測・推計:HIV/AIDSの新しい推計値と予測値を算出し、旧推計・予測(1995年実施)を大幅に上方修正した。HIV感染者の時点有病数は1998年末で8,000人、2003年末で16,100人、AIDS患者の累積数は、1998年末で1286人、2003年で4,200人と推計した。②国内疫学情報の解析:人口動態統計情報の分析を行い、同情報ではサーベイランスを補完し得ないことを明らかにし、また、デルファイ法により、HIV感染症の予後に及ぼす抗ウイルス薬の影響を推定した。また、感染症新法のもとでのサーベランス報告様式を提言した。③海外疫学情報の解析:国際ワークショップを開催し、三剤療法導入下で西欧諸国のサーベイランスが直面している困難、case identifierの採用の有無など方法論面での相違など、有用な情報を収集・分析した。④エイズ関連医療費の分析:三剤併用療法開始後、医療費は、CD4の値に関わりなく、21,000点/月と大幅に上昇したことを示した。⑤感染者/患者の臨床疫学的研究:1985年以来登録された約800の非血友病症例をフォローアップ調査し、AIDS発症例の予後の改善、指標疾患の分布の変化を明らかにした。⑥感染者/患者の行動科学的研究:90症例を調査し、半数がたまたまの検査で陽性と判明していること、多くが感染相手を特定できず、不特定の相手とは無防備の性交をする傾向のあることを示した。⑦MSMの研究(東京等):HIV/AIDSサーベイランスデータを出生コホート別に分析し、若年層のMSM例の増加を示した。大阪で、研究者-NGO-コミュニティ-行政の合同研究組織(MASH)を組織した。性行動調査では、フェラチオでほとんどコンドームが使われないこと、肛門性交では、相手がcasualの場合は高いが、regularでは1/3が未使用であること、2-3割近くにHIV検査受検経験があることを示した。⑧MSMの研究(中部地方):両性愛約20%、毎月2-5人の不特定相手との性交のある者約50%、コンドームなしの肛門性交が約20%という実態を示した。⑨滞日外国人の研究:新聞による広報の効果が、集団の一部にしか浸透せず、しかも一部の情報しかuptakeされないことを示し、新聞広報の限界を立証した。滞日タイ人の研究では、初めて一般住民のcommunity-basedの知識・性行動調査を実現した。⑩薬物乱用・依存者の研究:年間500の新患者をモニタリングし、過去1年の回し打ち経験が25%と高率なこと、HCVは1/2が陽性(HIVは陰性)であること、風俗の利用度が高いことを示した。IDU自助グループでの行動調査に初めて成功した。⑪STDクリニック受診者のHIV/AIDS感染状況:全国約2000例の症例から、昨年度に続き3例のHIV陽性者を確認した。耐性淋菌の拡大を示すデータを確認した。東南アジアの検体の分析からHIV感染とSTD感染の強い相互作用を示すデータを得た。⑫ STDクリニック受診者の性行動:大阪の某クリニックの十数年の性行動調査をデータベース化し、性交パターンの変容、コンドームによるSTD予防効果を証明した。また、大阪、関東、九州で502人を調査し、過去1年に50%が買春し、オーラルセックスが特に無防備で、性モラルの二重規範の傾向が強いことを示した。⑬風俗関連施設等利用者の研究:3年間の継続調査によりラブホテルでのコンドーム使用率が、ほぼ50%であることを確定。コンドーム破損率(使用時0.27%)に関するわが国初のデータを得た。HIV抗体陽性率はゼロ(n=1577)であった。⑭血清・遺伝子疫学的研究:保健所検査者の陽性率が特に夜間検査所で上昇していること、日本人のHIV-1のサブタイプは、同性間でB、異性間E、献血陽性者でBであること、献血陽性者のSTD感染率が非常に高いことを示した。⑮献血者・妊婦等に関する研究:献血血液の陽性率は全国で10万対0.9で前年レベルであったが、首都圏が減少し、地方拡散傾向が強まったことを確認した。妊婦でも昨年に続き陽性例の出現を確認した。⑯母子感染の研究:全国1821ヶ所のアンケート調査(回収率70%)で161例の感染妊娠を確認し、得られた112例の詳細な臨床情報から、「AZT投与+帝王切開」で母子感染が2%に減少することが示唆された。⑰性行動研究I(全国調査):予備調査で71%の回収率を得、報償額の確
定、調査員の訓練、調査票の修正を終えた。欧米諸国と比し、パートナー数は同等、性交頻度は少なく、買春が高率という欧米とアジアの中間的な日本の性行動の実態が示唆された。⑱性行動研究II(各種集団):全国国立大学生約3万人の調査の準備を完了した。某男性職種集団を調査し、性行動・性意識がSTD患者並みであること、ピル解禁への期待が非常に高いこと、オーラルセックスによるSTD感染の危険に関する認識が非常に低いことを明らかにした。⑲カウンセンリングに関する研究:カウンセリング資源を有効に利用するためのコーディネーター的機関の設置、ネットワーク構築の必要性、カウンセリング利用の決定権が患者にあることへの認識を医師に徹底させる必要性、精神科の役割の積極的検討の必要性を明らかにした。⑳特別研究:(1) 国際比較により、日本の献血血液陽性率は、流行度に比し、異常に高いことを示した。(2)全国2000人のランダムサンプリング調査により、女性より男性にピル解禁の期待が高いこと、ピルがエイズ、STDの予防にならないことへの認識が弱いことを示した。
結果と考察
考察=本年度の研究は、行動科学的研究に重点をシフトし、全国行動調査の技術的準備を終えるとともに、各種集団での行動学的調査が着実に前進した。また、血清学的モニタリング、母子感染調査なども全国的調査の展開が進み、また、MSMの研究では、研究者-NGO-コミュニティ-行政との連携が進むなど、研究基盤がさらに強固なものとなった。研究内容としては、将来予測・推計、献血者、妊婦、STDクリニック受診者、保健所受検者の成績からHIV流行の拡大が示唆する知見を得ると共に、行動面でも、同性間・異性間で依然無防備な性行為が少なくないこと、注射薬物使用者で注射の回し打ちが高率に行われていることから、行動リスクは依然高いレベルに維持されていることを明らかにし、わが国のHIV流行の将来的アウトブレイクのポテンシャルが依然高いことを明らかにした。
結論
わが国のHIV感染流行は、依然拡大局面にあり、将来的なそのインパクトを最小にとどめるために、包括的な予防対策の開発と実施が急務であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-