食品を介したダイオキシン類等有害物質摂取量の評価とその手法開発に関する研究

文献情報

文献番号
201522007A
報告書区分
総括
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等有害物質摂取量の評価とその手法開発に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 敬浩(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究分担者(所属機関)
  • 堤 智昭(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
  • 片岡洋平(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
  • 天倉吉章(松山大学薬学部 )
  • 畝山智香子(国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
  • 松田りえ子(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
46,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、健康リスク管理に係る施策検討及び効果検証に不可欠な、各種有害物質の信頼できる摂取量を適時にまた必要に応じて継続的に推定することを目的とした。
研究方法
マーケットバスケット方式によるトータルダイエット(TD)試料や陰膳試料、個別食品の分析を通じ、カドミウム、ヒ素、鉛、水銀を含む元素類、PCBs類、HBCDとデクロラン類、多環芳香族炭化水素類(PAHs)及び、ダイオキシン類(DXNs)の摂取量を推定した。その他、魚製品の水酸化PCBs濃度やベビーフード製品等のDNXs濃度の実態を調査した。全年齢層平均摂取量と体重当たりの食品摂取量比を要素とする算術により、幼児における摂取量推定の可能性について検討した。その他、コメに特化した無機ヒ素分析法を開発した。ダイオキシン様活性をもつ化学物質の有害性について考察した他、本研究で得られた元素類摂取量と国際機関等から収集した毒性データをもとに暴露マージン(MOE)を試算した。
結果と考察
推定した元素類の全国平均摂取量推定値(μg/man/day)の一例を挙げると、カドミウムで17.8、総ヒ素で214、無機ヒ素で15.4、鉛で12.1、総水銀で8.37、メチル水銀で6.61 であった。また、モンテカルロシミュレーションにより、メチル水銀摂取量の90%tile値は15.04 µg/man/dayと推定された。PCBsの全国平均摂取量は663 ng/man/dayと推定された。複数地域におけるHBCDの摂取量は11.4~192.8 ng/man/day、特定一地域におけるデクロラン類の摂取量は35 ng/man/dayと推定された。モニタリングすべき16種PAHsの摂取量は741 ng/man/dayと推定された。食材とそれを焼く炎が接触することでPAHsが発生し、食品の濃度が高くなることも示唆された。DXNsの全国平均摂取量は0.64 pg TEQ/kg bw/dayと推定され、耐容一日摂取量(TDI)の約17%であった。調査した鮮魚24試料の全てから0.012~0.44 ng/gの範囲で水酸化PCBsが検出された。ベビーフード42試料からは0~0.0016 pg TEQ/gのDNXsが検出され、ベビーフードから摂取するDXNsのTDIに占める割合は、最大で1.2%程度と推定された。精密化研究では、全年齢層における体重当たりの平均摂取量に幼児と全年齢層平均の体重当たりの食品摂取量の比を乗じることにより、大部分の元素類については幼児における摂取量を推定することが可能であった。また、総水銀やPCBs、DXNsでは、全食品ではなく、魚介類のみの体重当たりの摂取量の比を乗じることで、幼児における一日摂取量の推定が可能であった。その他、3価と5価の無機ヒ素を分別定量することはできないものの、それらの和を無機ヒ素量とすれば、コメにおける濃度を精確に定量可能な分析法が開発された。新規有害物質の選定では、多数の化合物のDXNs様活性を複数のアッセイにより確認した。また、PAHs検出の報告がある食品の抽出物についてDXNs様活性に寄与する成分を精査した結果、紅茶抽出物からエピカテキンガレートを見いだした。本化合物は有害ではなく、DXNs様活性が必ずしも有害性には結びつかないことが考察された。自然毒の原因物質のうちコルヒチンに顕著なDXNs様活性が認められた。本研究班により推定された元素類の摂取量推定値とこれまでに収集した対応する元素の毒性評価情報を利用してMOEを試算した。その結果、一般的な毒性についてはMOE 100以下、遺伝毒性発がん物質あるいはその他の閾値のない毒性影響についてはMOE 10000以下をリスク管理の優先順位が高いという判断基準を用いると、日本人にとってリスク管理の優先順位が高い元素類は、無機ヒ素、鉛、カドミウム、メチル水銀であることが示された。
結論
各種元素類、PCBs類、PAHs、臭素系及び塩素系難燃剤、DXNsの摂取量が推定され、多くの有害物質について、継続した摂取量推定が必要と考えられた。魚製品からは、PCBsに加えて水酸化PCBsを摂取していることが示された。体重当たりの食品摂取量の比を要素とすることで、各種有害物質の全年齢層平均摂取量から幼児といった特定の集団における摂取量の推定が可能であると考えられた。より精密な無機ヒ素摂取量を推定するための、コメに特化した無機ヒ素分析法が開発された。DXNs活性を有することが必ずしも有害性の指標にはならないことが示された。本研究班において推定された各種元素類の摂取量に基づくMOEが初めて試算され、リスク管理の優先度を判断するための有益な指標値が示された。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201522007B
報告書区分
総合
研究課題名
食品を介したダイオキシン類等有害物質摂取量の評価とその手法開発に関する研究
課題番号
H25-食品-一般-007
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
渡邉 敬浩(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、健康リスク管理に係る施策検討及び効果検証に不可欠な、各種有害物質の信頼できる摂取量を適時にまた必要に応じて継続的に推定することを目的とした。
研究方法
トータルダイエット(TD)試料や陰膳試料また多くの個別食品を、開発後性能評価した方法を用い分析することで得た品質を保証した分析値に基づき、カドミウム、ヒ素、鉛、水銀を含む元素類、PCBs類、HBCDとデクロラン類)多環芳香族炭化水素類(PAHs)及び、ダイオキシン類(DXNs)の摂取量を推定した。その他、調理加工方法がPAHs濃度に与える影響を検討し、魚製品の水酸化PCBs濃度や種々の食品のDNXs濃度の実態を調査した。摂取量の精密化では、全年齢層並びに幼児における摂取量推定用TD試料を調製し、分析を通じて得られた摂取量を比較解析した。また摂取量推定を目的としたメチル水銀や総水銀、無機ヒ素の分析法を開発した。DNXs様活性をもつ化学物質を探索し、活性と構造との相関また、活性と有害性との関係を考察した。暴露マージン(MOE)を指標に、各種有害物質の毒性評価情報を学術文献や国際機関等から収集するとともに、収集した毒性評価情報と本研究で推定された元素類摂取量を利用しMOEを試算した。
結果と考察
分析法の性能評価手法を開発し、各種有害物質摂取量の品質保証スキームを確立した。摂取量を推定した17種の元素類のうち、寄与する食品のパターンが安定しており年間また地域間での摂取量推定値の変動が小さい10種の元素類については、得られた全摂取量推定値の平均値が日本人における平均摂取量のより頑健な推定値(ロバスト摂取量)と考えられた。10種の元素類のロバスト摂取量(μg/man/day)は以下の通りとなった。B:1407、Ni:146、Se:90、Ba:461、Cr:26、Co:8.5、Mo:212、Cd:18、totalAs:214、iAs:17。本研究で推定したその他の有害物質摂取量の一部を示す(ng/man/day)。PCBs:436~663、HBCD:11.4~192.8、デクロラン類:25、PAHs:741。H25~27年度のDXNs平均摂取量は、0.59~0.69 pgTEQ/kg bw/dayであり、TDIに占める割合は15~17%であった。また確率論的手法により、DNXs摂取量(pgTEQ/kg/day)の平均値は、全年齢層で1.2、1~3歳で1.9、4~6歳で1.5、7~12歳で1.4、13~18歳で0.92、19~64歳で0.89、65歳以上で1.2と推定された。さらに、200点を超える各種食品のDNXs濃度の実態を調査した。その他、魚における水酸化PCBs、燻製や加熱加工食品におけるPAHs濃度の実態データが蓄積された。加熱調理方法によるPAHs濃度への影響が検討された。幼児による食事をモデル化したTD試料の調製と分析を通じ、各種有害物質の幼児摂取量が推定された。全年齢層平均摂取量と幼児摂取量との比較から、体重当たりの食品摂取量比が大きいことを主原因として幼児摂取量が大きくなることが明らかにされた。さらに、集団ごとの体重当たり食品摂取量の比を使った算術により、全年齢層平均摂取量から対象集団摂取量を推定できることが示された。摂取量推定を目的としたメチル水銀、総水銀、無機ヒ素の分析法が開発され、性能評価の結果から妥当性が確認され、摂取量推定に用いられた。PAHsや農薬等、多数の化学物質のDNXs様活性が複数のアッセイ系により確認され、活性の強さと構造との相関について考察された。また、紅茶由来のDNXs様活性成分としてエピカテキンガレートを見いだし、自然毒の1つであるコルヒチンに活性があることを初めて明らかにした。リスクの大きさの指標としてMOEを検討している学術文献や評価書を検索して数値を抽出し、MOEの大きさで分類した物質のリストを作成した。また収集した毒性評価情報と本研究で推定された摂取量とを利用してMOEを試算し、日本人にとってリスク管理の優先順位が高い元素類は、無機ヒ素、鉛、カドミウム、メチル水銀であることを示した。
結論
各種有害物質の摂取量が推定された。その結果から、多くの有害物質について継続した推定の必要性が示唆された。また、継続した推定に不可欠な、より効果的かつ効率的な摂取量推定手法についても提案された。その他、摂取量推定に必須の分析法が複数開発された。また、確率論的手法による摂取量推定に必要な実態濃度データが蓄積され、一部の有害物質については摂取量推定の必然性が小さいことも示された。さらにDXNs活性と有害性とが必ずしも一致しないことが明らかとなった。収集された毒性評価情報と推定した摂取量を利用し試算された元素類のMOEは、リスク管理の優先度を判断する重要な指標になる。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201522007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
トータルダイエット研究により、17種の元素類、ダイオキシン類等の1日摂取量が推定された。暴露マージンを試算した結果、無機ヒ素、鉛、カドミウム、メチル水銀のリスク管理順位が高いことが示された。平成25年度~平成27年度のダイオキシン類の国民平均1日摂取量は0.59~0.69 pgTEQ/kg bw/dayと推定され、耐用一日摂取量に占める割合は15~17%であった。また体重当たりの摂食量が多い分だけ、幼児における有害物質摂取量が成人等その他の年齢層に比べ大きいことが示唆された。
臨床的観点からの成果
当研究は、臨床とは直接の関係を有していない。
ガイドライン等の開発
ダイオキシン類の摂取量推定や個別食品濃度の実態調査結果は、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会及び薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会伝達性海綿状脳症対策部会合同会議(平成25年10月30日開催)並びに、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会(平成27年9月29日開催)においてそれぞれ報告されている。また、厚生労働省HPにより概要が公開されている。
その他行政的観点からの成果
ダイオキシン類の摂取量推定の結果が、公益財団法人 海洋生物環境研究所のパンフレット「今、どうなってるの?お魚、何、食べてますか?魚介類のダイオキシン類(2015年度版及び2016年度版)」や、環境省 「平成27年版(及び平成28年版) 環境・循環型社会・生物多様性白書」に引用されている。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
9件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
32件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
渡邉敬浩、石川智子、松田りえ子
GC-FIDを用いたトランス脂肪酸分析法の性能評価手法および性能基準値の検討
食品衛生学雑誌 , 54 , 31-48  (2013)
原著論文2
堤 智昭、松田 りえ子
食品からのダイオキシン類摂取量推定
食品衛生研究 , 63 , 7-19  (2013)
原著論文3
Amakura, Y., Yoshimura, M., Takaoka, M.et al
Characterization of natural aryl hydrocarbon receptor agonists from cassia seed and rosemary
Molecules , 19 , 4956-4966  (2014)
原著論文4
Takahashi K, Hori T, Kajiwara J et al
Determination of hexabromocyclododecane in fish samples collected from Japanese markets
Organohalogen Compounds , 76 , 930-933  (2014)
原著論文5
Hori T, Miyawaki T, Takahashi K et al
Concentration of Dechlorane Plus in fish samples collected in Kyushu district, western Japan
Organohalogen Compounds , 76 , 900-903  (2014)
原著論文6
Tsutsumi T, Watanabe T, Matsuda R et al
Dietary intake of dioxins in Japan, fiscal year 1998-2013
Organohalogen Compounds , 76 , 1325-1328  (2014)
原著論文7
Watanabe T, Kikuchi H, Matsuda R et al
Performance evaluation of an improved GC-MS method to quantify methylmercury in fish
J. Hood Hyg. Soc. Japan , 56 , 69-76  (2015)
原著論文8
Takahashi K, Yasutake D, Kajiwara J et al
Dietary intake of hexabromocyclododecane in Japan
Organohalogen Compounds , 77 , 416-418  (2015)
原著論文9
Yasutake D, Hori T, Takahashi K et al
Concentration of polychlorinated biphenyls (PCBs) and hydroxylated PCBs in seafood samples collected in Kyusyu district, Japan
Organohalogen Compounds , 77 , 386-389  (2015)
原著論文10
Amakura, Y., Tsutsumi, T., Yoshimura, M et al
Detection of aryl hydrocarbon receptor activation by some chemicals related in food hygiene by using a reporter gene assay
Foods , 5 (1) , 15-25  (2016)
10.3390/foods5010015
原著論文11
Takahashi K, Yasutake D, Kajiwara J et al
Investigation of dietary exposure to Dechlorane Plus and related compounds in Kyushu district, Japan.
Organohalogen Compounds , 78 , 1191-1195  (2016)
原著論文12
渡邉敬浩, 林 智子, 松田りえ子他
食品として流通する魚の総水銀及びメチル水銀濃度の実態調査
食品衛生学雑誌 , 58 (2) , 80-85  (2017)
原著論文13
Tsutsumi T., Takatsuki S., et al
Dioxin concentrations in dietary supplements containing animal oil on the Japanese market between 2007 and 2014
Chemosphere , 191 , 514-519  (2018)
原著論文14
Tsutsumi T., MatsudaR., et al
Dietary intake of dioxins in Japan in 2016 with time trends since 1998
Food Additives & Contaminants: Part A , 35 (8) , 1553-1564  (2018)

公開日・更新日

公開日
2016-06-10
更新日
2020-06-02

収支報告書

文献番号
201522007Z