食品中の複数の化学物質による健康影響に関する調査研究

文献情報

文献番号
201522004A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の複数の化学物質による健康影響に関する調査研究
課題番号
H25-食品-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
梅村 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 西川秋佳(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター)
  • 原田孝則(財団法人残留農薬研究所)
  • 吉成浩一(静岡県立大学薬学部)
  • 福原潔(昭和大学薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
9,270,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、食品中化学物質の複合影響によるin vivo変異原性、神経毒性、代謝および反応生成物を多角的に解析し、実用的な安全性評価に資するデータの蓄積を目的とする。
研究方法
1.gpt deltaマウスにフルメキン(FL)を粉末基礎飼料に混じ、エストラゴール(ES)を強制経口により4週間併用投与した。臭素酸カリウム(KBrO3)投与群、ニトロフラントイン(NFT)投与群及びそれぞれにアリザリン(Alz)の13週間併用投与群について腎皮質における酸化的DNA損傷と突然変異誘発性への複合影響を検討した。2.C57BL系gpt deltaマウスにそれぞれ実験開始後0、8、12または16週目から高脂肪食を給餌し、20週目に実験を終了した。また、実験終了4週前よりMeIQxを0.9 mg/マウス/日の用量で一日一回強制経口投与した。投与終了後、肝臓のレポーター遺伝子突然変異頻度を検索した。3.平成26年度の試験で得られた肝臓および血清を用いて、過酸化脂質、Paraoxogenase-1:PON1、薬物代謝酵素としてcyp1a2およびcyp3a23、さらにpon1のmRNA発現量をRT-PCR法により検討した。候補農薬の中からベンゾ[a]ピレン、メトキシクロルおよびパラチオンを選択し、各被験物質を妊娠後期の母動物に単剤、もしくは複合暴露後、生まれてきた児動物の呼吸器アレルギーに及ぼす影響を調査した4.HepG2細胞を用い、TBZのCYP1A1酵素活性への影響を測定した。HepG2細胞とA549細胞を用いて、MCによるAhR活性化発現およびAhR依存的レポーター活性の誘導)に対するTBZ影響を比較解析した。5.フェノール性抗酸化物質の酸化反応と、生成するキノン体に由来する酸化ストレス反応をプラスミドDNA存在下で行うことで複合影響を評価できる簡便な試験法を開発した。
結果と考察
1. FL併用投与によりES投与群におけるgpt変異体頻度(MF)がG:C-T:A transversion変異の増加を伴い上昇した。8-OHdGレベルはKBrO3又はNFT単独投与群で上昇し、Alzの併用投与により欠失サイズの増加を伴った欠失変異頻度の増加が確認された。2. MeIQxを投与した群のgptMFは、高脂肪食を与えた何れの群においても対照群に比して高値を示す傾向が認められたが、高脂肪食摂取の影響は認められなかった。また、Spi-MFにMeIQx投与および高脂肪食の影響は認められなかった。3.妊娠中期の過酸化脂質の増加とpon1 mRNA発現量の低下に相関性を認めた。cyp3a23は妊娠中期に高いことを確認した。メトキシクロルないしパラチオンを母動物に単剤投与した児動物において、リンパ節中サイトカイン産生量が有意に増加した。ベンゾ[a]ピレン投与群では呼吸器アレルギー反応の増強が認められた。また、炎症性細胞数およびケモカイン産生量、リンパ節中サイトカイン産生量が有意に増加した。4.AhR活性化増強作用が見られる濃度域では、TBZによるCYP1A1酵素活性の有意な阻害は見られなかった。TBZ処置は、MC処理によるAhRの分解を抑制しなかった。5.エピガロカテキンガレートは、エピガロカテキンへと加水分解された後、酸化ストレスによる毒性を発現することが明らかとなった。生成熱は強力な酸化ストレスを誘発するエピガロカテキンが最も小さいことから、分子軌道計算からの毒性予測が可能なことがわかった。
結論
1.細胞内微小環境を変化させる食品中の化学物質が食品中の遺伝毒性発がん物質の発がんリスクを増加させる一つの要因になることが明らかになった。酸化的DNA損傷を引き起こす食品中化学物質の同時ばく露は8-OHdGの加算的蓄積を引き起こし、欠失サイズの増加を伴う変異頻度の増加を引き起こすことが明かになった。2.長期間の高脂肪食の摂取は肝臓における食品中発がん物質の遺伝毒性作用に影響を与えない可能性が示された。3.妊娠中期にpon1およびcyp1a2 mRNA発現量が低下することを確認した。ベンゾ[a]ピレン、メトキシクロルおよびパラチオンの妊娠期における反復単剤投与は、呼吸器アレルギー反応に対して増強効果を示し、さらにメトキシクロルとパラチオンを複合的に反復投与すると、その増強作用が相乗的に増加することが示唆された。4.TBZによるAhR活性化増強は①CYP1A酵素の阻害によるものではない②細胞や核内のAhRの分解抑制によるものではないことが示された。5.キノン代謝体からラジカルアニオンへの還元され易さの指標となる生成熱は強力な酸化ストレスを誘発するエピガロカテキンが最も小さいことが明らかとなり、分子軌道計算からの毒性予測が可能であることがわかった。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201522004B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の複数の化学物質による健康影響に関する調査研究
課題番号
H25-食品-一般-004
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
梅村 隆志(国立医薬品食品衛生研究所 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、食品中化学物質の複合影響によるin vivo変異原性、神経毒性、代謝および反応生成物を多角的に解析し、実用的な安全性評価に資するデータの蓄積を目的とする。
研究方法
1.gpt deltaラット又はマウスを用いて、遺伝毒性発がん物質の突然変異誘発性における複合影響を検討した。2.gpt deltaラットまたはgpt deltaマウスに高脂肪食を与えるとともに、IQあるいはMeIQxを併用投与して、肝臓や大腸におけるヘテロサイクリックアミンのin vivo変異原性に与える高脂肪食摂取の影響を検討した。3. 複合暴露による次世代への免疫かく乱影響を調査するために、免疫系への影響が示唆されている多環芳香族炭化水素化合物、有機塩素系農薬および有機リン系農薬を対象に、妊娠期に複合的に反復経口投与した際の児動物への吸入アレルギー疾患に及ぼす影響を調査した。4.ベンズイミダゾール類によるAhR活性化作用や、PAH類との複合効果とその機構を検討した。また、食品中に含まれる化学物質として癌原性ヘテロサイクリックアミン類およびタール系合成着色料に着目し、これら化合物のヒトAhR活性化能およびCYP1A酵素誘導能を検討した。5.フェノール性抗酸化物質の毒性発現機構について化学的な解析を行う。毒性発現に関わる生物的、化学的因子を明らかにすることで、フェノール性抗酸化物質の薬物代謝酵素、生体環境、化学物質等との複合影響を予測し、健康被害を事前に予測・予防するための情報提供を行う。
結果と考察
1.エストラゴール(ES)とフルメキン(FL)をgpt deltaマウスに併用投与し、FLによる細胞増殖活性の亢進がESの突然変異誘発性を増強させることを明らかにした。また、臭素酸カリウム(KBrO3)又はニトロフラントイン(NFT)とアリザリン(Alz)の併用投与により酸化的DNA損傷が加算的に蓄積すること、さらには酸化的DNA損傷の加算がKBrO3の欠失変異誘発を増強させることを明らかにした。2. gpt deltaラットに高脂肪食を4週間与え、同時にIQあるいはMeIQxを投与した結果、高脂肪食摂取はgpt およびSpi- MFとその遺伝子変異パターンに影響を与えなかった。gpt deltaマウスにそれぞれ実験開始後0、8、12または16週目から高脂肪食を与え、20週目に実験を終了し、実験終了4週前よりMeIQxを投与した結果、高脂肪食摂取の影響は認められなかった。3.パラチオンとメタミドホスを若齢期、成熟期、妊娠期の雌ラットに複合投与すると妊娠期で死亡を含む重篤な神経症状が発現することを確認した。免疫毒性作用を有する農薬の妊娠後期の母動物への投与が児動物の成熟後のアレルギー反応の増強を引き起こすだけでなく、アレルギー作用が相乗的に増悪化することが示唆された。4.ベンズイミダゾール化合物と食品中発がん物質である多環式芳香族炭化水素類でAhR活性化の複合影響が見られた。改良・樹立したヒト、マウスおよびラットAhRレポーター細胞を用いて、タール系合成着色料によるAhR活性化作用を解析した結果、単独でAhR活性化能を持つ7化合物を見いだした。5.フェノール性抗酸化物質の毒性発現における複合影響を検討した結果、カテキンは塩基性条件下では酸素をスーパーオキシドアニオンに還元することから、金属イオンを伴う毒性発現機構が示唆された。一方、カテキンは酸化を受けてキノン体が生成すると、生体高分子との付加反応が進行した。また、キノン体はNADH存在下、プラスミドDNAの切断反応が進行した。
結論
1.細胞内微小環境を変化させる食品中の化学物質が食品中の遺伝毒性発がん物質の発がんリスクを増加させる一つの要因になることが明らかになった。複数の酸化的DNA損傷誘発物質のばく露により酸化的DNA損傷は加算的に増加し、遺伝子突然変異の増強につながった。2.高脂肪食摂取が食品中遺伝毒性発がん物質の遺伝毒性作用に影響を与えない可能性が示唆された。3.妊娠動物への免疫攪乱物質の複合投与が、次世代の吸入アレルギー反応の増悪を引き起こす可能性が示唆された。4.ベンズイミダゾール化合物は多環式芳香族炭化水素類によるAhR活性化をAhRリガンドの代謝阻害や、AhRタンパク質の安定化とは異なる機序で増強する。癌原性ヘテロサイクリックアミン類やタール系合成着色料には、AhR活性化作用を持つ化合物が存在する。5.本研究で開発した簡便な酸化代謝を伴う毒性試験法と分子軌道計算による毒性予測は、第1相薬物代謝酵素を誘導する食品とフェノール性抗酸化物との複合影響を評価する試験法としての活用が期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201522004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Food and Chemical Toxicologyに成果を投稿中
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-07-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201522004Z