中小規模事業場向けのリスクアセスメント手法の開発

文献情報

文献番号
201521008A
報告書区分
総括
研究課題名
中小規模事業場向けのリスクアセスメント手法の開発
課題番号
H25-労働-一般-010
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
和田 有司(国立研究開発法人産業技術総合研究所 安全科学研究部門 爆発利用・産業保安研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 牧野 良次(国立研究開発法人産業技術総合研究所 安全科学研究部門 爆発利用・産業保安研究グループ )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
4,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国における近年の労働災害による休業4日以上死傷者数は年間およそ11万人(死亡者はおよそ1000人)で推移している。平成22年では死傷者数の50%、死亡者の65%が従業員30人未満の事業場に所属していた。この事実は労働災害被災者数の削減を促進するためには中小事業場に着目する必要があることを示唆している。一方で、労働災害の削減においてはリスクアセスメントの実施が望まれるにも関わらず、リスクアセスメントが行われるべき中小事業場でむしろ普及が進んでいない現実がある。そこで、本研究では中小事業場におけるリスクアセスメント導入の阻害要因を分析し、中小事業場において容易に導入できるようなリスクアセスメント手法を開発することを目的とする。
研究方法
階層別簡易リスクアセスメント
階層別簡易リスクアセスメントの実施について5社の中規模企業から協力を得ることができた。いずれも従業員数200~300人程度の企業規模であり、化学産業に属している。1社あたり3名(部長・中間管理職・一般職)から回答を得たので合計で15名分のデータが得られた。方法としては調査票を事前に送付し回答してもらっておき、その後企業を訪問して対面ヒアリングを実施するという手順をとった。調査は2015年11月に実施した。
簡易リスクアセスメント全国調査
簡易リスクアセスメントの結果と企業属生、特に労働災害発生数との関連を調べるために、簡易リスクアセスメント評価項目および企業基本情報に関する質問項目を印刷し「回答ガイド」を添付した上で全国5000の中小企業(ただし製造業のみ)に郵送し回答および返送を依頼した。株式会社帝国データバンクが販売する企業概要データベースCOSMOS2 に登録されている中小企業のうちの5000 社を調査対象とした。調査票は紙媒体で郵送した。2015年12月初旬に発送を開始し、2016年1月を回答期限とした。調査票を送付する際に切手貼付不要の返送用封筒を同封しておき、それを利用してもらった。事業所が複数ある企業については最も従業員数が多い事業所について回答をお願いした。郵送のみの調査にて階層別調査を実施するのは一定数以上の有効回答数を確保するという観点から適切ではないと考え、回答者は社長あるいは工場長など当該企業の安全に関する取り組みについてよく理解している立場の方に回答いただくよう依頼した。
結果と考察
階層別簡易リスクアセスメント
企業内の階層間で認識にギャップがある項目がその企業の安全上の弱点を発見する糸口になるのではないかとの仮説で調査を実施した。結果として今回試行した質問項目は、階層間で回答にギャップが出るような質問になっていることを確認することができた。調査では企業の管理側ほど「安全への取り組みができている」と答える傾向が見られた。
簡易リスクアセスメント全国調査
今回の調査では、全体の傾向として、過去5年間に労働災害を経験した企業の方が、労働災害を経験していない企業よりも、簡易リスクアセスメント評点が高くなる傾向にあるとの結果が出た。
結論
階層別簡易リスクアセスメント
今回調査の直接の結果ではなくあくまで一般論に留まるものであるが、管理側は形式を整えただけで「安全対策を実行した」と評価しがちである一方、現場は対策が十分だとは必ずしも感じていない可能性が示唆された。ヒアリングを通じて明らかになったことは、このリスクアセスメント評価表に回答すること自体が社内コミュニケーションになり得るということである。質問項目について考えることをきっかけにして階層間で話し合い、安全活動の改善点や認識ギャップの存在の「気づき」に繋がることが期待できる。
簡易リスクアセスメント全国調査
休業災害を起こした企業はその再発防止のために安全対策を実施しその結果として簡易リスクアセスメント評点が高くなったのならば、予想としては現在の簡易リスクアセスメント評点が高い企業は将来の労災発生数が下がると推測することが可能である。ただし、過去5年間で労働災害1件以上起こっている企業は、本当は安全管理上の多くの問題点を抱えているにも関わらずそれを自己認識していない(そして労働災害発生後もその認識が改まらない)だけかもしれない。どちらの解釈が正しいのかを判断するためには、簡易リスクアセスメントを実施した後、その企業の労働災害発生実績を追跡調査することが必要となる。今回の研究ではそれを実施することはできず、今後の課題として残っている。

公開日・更新日

公開日
2017-03-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201521008B
報告書区分
総合
研究課題名
中小規模事業場向けのリスクアセスメント手法の開発
課題番号
H25-労働-一般-010
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
和田 有司(国立研究開発法人産業技術総合研究所 安全科学研究部門 爆発利用・産業保安研究グループ)
研究分担者(所属機関)
  • 牧野 良次(国立研究開発法人産業技術総合研究所 安全科学研究部門 爆発利用・産業保安研究グループ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国において労働災害の多くは中小規模事業場で発生している。リスクアセスメントとその結果に基づいたリスク管理が労働災害の防止に効果的だと考えられる一方で、中小規模事業場ではリスクアセスメントが必ずしも十分に普及していない。既存の調査によれば、リスクアセスメントを実施しない理由として「実施体制が整備しきれていない」、「十分な知識を持った人材がいない」、「リスクアセスメントの実施に必要な時間が確保できない」といった点があげられている。このことは、「容易に実施できるリスクアセスメント手法」を開発することがリスクアセスメントの普及を促進する糸口となりうることを示唆している。本研究では中小規模事業所にリスクアセスメントが普及しない原因を検討するとともに、導入容易なリスクアセスメント手法の開発を目的とする。
研究方法
リスクアセスメント導入阻害要因の現状分析
中小事業場経営者を対象としたアンケート調査を実施し、リスクアセスメント導入状況、導入していない(もしくは導入した)理由を質問し、導入阻害要因に関する経営者の主観的な認識を把握する。一方で、事業場の労働時間、稼働率、安全訓練度といった情報、およびヒヤリハット件数、事故件数といった客観的データも可能な限り収集し、これら客観的データとリスクアセスメント導入状況との関係を統計的に検討することにより導入阻害要因をより詳細に検討する。
導入容易なリスクアセスメント手法の開発
既存の大規模事業所向け保安力評価手法を基礎として、中小事業場での適用が容易な簡易リスクアセスメント手法を開発する。具体的には「はい・いいえによる回答」もしくは「5段階からの選択による回答」といった(リスクアセスメントに関する知識がなくても)簡単に回答可能な質問群を作成する。
結果と考察
リスクアセスメント導入阻害要因の現状分析
従業員数が少ない企業は仮に労働災害発生率(=単位労働時間あたりの事故発生数)が高いとしても、のべ総労働時間が短いために企業あたり年あたりの労働災害発生数が少なくなる傾向にある。その場合、経営者は自分の企業では労働災害が発生していないことから災害防止対策の緊急性を感じにくいことになる。このことがリスクアセスメントの普及を阻害するひとつの要因と示唆された。
導入容易なリスクアセスメント手法の開発
安全工学会保安力向上センターが運用している大企業向けの保安力評価システムを中小規模事業者向けにより回答しやすい形式に修正した。開発したリスクアセスメント評価項目は1時間程度の回答時間で労災発生頻度と相関のある評価結果を得られる可能性が示された。
結論
リスクアセスメント導入阻害要因の現状分析
導入容易なリスクアセスメント手法の開発はリスクアセスメントの普及に役立つものと考えられる。それは本研究で行ったアンケート調査結果からも示唆されることである。しかしながら「結果と考察」で述べたように、特に小規模な事業所で当の企業自身が安全対策の緊急性を相対的に感じにくい状況に陥っている可能性がある。促進策を考えるにあたっては上記論点に留意すべきであると考える。
導入容易なリスクアセスメント手法の開発
既存の「保安力評価システム」を基礎に、企業現場での試行を繰り返し、短時間で容易に回答できる簡易リスクアセスメント評価項目を作成した。評価結果が労災リスクを予測する可能性は示されたが、詳細な検証については、簡易リスクアセスメント回答企業のその後の労働災害発生状況に関する追跡調査が必要となる。

公開日・更新日

公開日
2017-03-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201521008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
労働災害の多くが発生している中小規模事業場でのリスクアセスメント手法を開発した。
臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
中小規模事業場向けのリスクアセスメント評価項目を作成,公表した。
その他行政的観点からの成果
保安力向上センターの「保安力評価システム」と連携して研究を進めた。保安力評価システムは産業保安のスマート化の中で,経済産業省のスーパー認定事業所の要件の一つとなっている。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
2022-06-09

収支報告書

文献番号
201521008Z