安全な薬物治療を促進する多職種間情報共有システムの開発に関する研究

文献情報

文献番号
201520007A
報告書区分
総括
研究課題名
安全な薬物治療を促進する多職種間情報共有システムの開発に関する研究
課題番号
H26-医療-一般-012
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
森本 剛(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 作間 未織(兵庫医科大学 医学部)
  • 太田 好紀(兵庫医科大学 医学部)
  • 湯坐 有希(東京都立小児総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,975,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、電子カルテやオーダリングシステムを用いて、薬剤性有害事象の発生しやすい状況やハイリスク患者、実際の発生状況を、多職種医療従事者間で迅速かつ円滑に共有するシステムを開発し、その結果、多職種間のコミュニケーションの向上が、薬剤性有害事象の防止、早期発見を可能にし、日常診療における医療安全推進に寄与するかどうかを検証することを目的とする。
研究方法
開発した多職種間情報共有システムは、1)患者の腎機能を随時モニタリングし、腎機能の低い患者をハイリスク患者として多職種医療従事者間で共有して腎機能に応じた推奨投与量が表示されるシステムと、2)抗菌薬投与中の患者の症状を随時モニタリングし、抗菌薬投与中の患者に下痢が発生した際に、医師、看護師、薬剤師ら多職種医療従事者間で情報を共有する下痢アラートシステムの2つで構成される。その多職種間情報共有システムを島根県立中央病院に導入する前後に前向きコホート研究を実施し、患者の背景や入院期間中における腎機能障害や抗菌薬による下痢などの薬剤性有害事象を定量した。
 さらに医療従事者を対象とする横断研究を実施し、多職種医療従事者間における情報把握の向上、コミュニケーションの向上と満足度、システムの使いやすさと受け入れ度を検証した。
結果と考察
今年度は予定通り、システムを導入する前後に前向きコホート研究を実施し、開発した多職種間情報共有システムの有効性を評価した。
 システムを導入する前後に島根県立中央病院に入院した入院患者はそれぞれ、3203人と3237人であった。年齢中央値はどちらも68歳で、その他の背景因子も同様の患者層であった。
 死亡退院はどちらの期間も4%と差がなかったが、入院期間中に腎機能が悪化した患者はプレデータでは1313人(41%)に対しポストデータでは1274(39%)とやや頻度が少ない傾向があった(p=0.06)。入院時における軽度の腎機能障害の有無(男性>1.1mg/dl、女性>0.8mg/dl)で集団を分けた場合、入院中のCrの変化や腎機能障害の発生頻度は、軽度腎機能障害のある患者では有意差が認められなかったものの、軽度腎機能障害のない患者で有意に入院中のCrの上昇(プレデータ=0.02mg/dlの上昇 vs ポストデータ=0mg/dlの上昇、p=0.0001)が改善され、また入院期間中における腎機能障害の発生頻度が有意に低い(プレデータ 50% vs ポストデータ 46%、p=0.01)ことが示された。
 下痢アラートシステムの導入前後では、下痢の発生患者数(プレデータ 33% vs ポストデータ 32%、p=0.7)や延べ下痢日数(プレデータ=6407日 vs ポストデータ=6202日、p=0.6)に有意差は認められなかった。
 多職種間情報共有システムの導入後に、実際にシステムを利用した経験のある医師を対象に横断研究を行ったところ、腎機能に応じた推奨投与量が表示されるシステムは74%が有用と回答したのに対し、抗菌薬投与中の患者に対する下痢アラートシステムが有用と回答したのは44%に留まっていた。
 本データより、一見腎機能がよさそうに見える集団において、腎機能に応じた推奨投与量が表示されるシステムの効果が大きいことが明らかとなった。この結果は、多くの医師が検査値のCr値のみで腎機能障害の有無を判断し、高齢者における軽度の腎機能低下などの細かな調整が困難であった可能性があり、そのような場合に、リアルタイムで患者の腎機能をモニタリングし、処方量の調整に繋がるシステムは有効である可能性が高い。
 一方で、下痢アラートシステムは、下痢の頻度や下痢の持続日数を有意に減少させられなかった。このことは、抗菌薬による下痢に対してアラートを行ったとしても、医学的理由で投与されている抗菌薬を変更することが臨床的に困難であったり、仮に抗菌薬を中止・変更したところで、既に過去の抗菌薬で発生した下痢が急には改善しなかった可能性がある。
結論
JADE Studyを基に作成したナレッジベースから、患者の腎機能を随時モニタリングし、腎機能の低い患者をハイリスク患者として多職種医療従事者間で共有して腎機能に応じた推奨投与量が表示されるシステム及び、抗菌薬投与中の患者に下痢が発生した際に、医師、看護師、薬剤師ら多職種医療従事者間で情報を共有する下痢アラートシステムを開発し、その効果を前向きコホート研究及び横断研究で検証した。
 これらの研究を通じて得られた知見と更なる解析を基に、多職種間情報共有システムの有効性がより一般化可能な形で提案できると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201520007B
報告書区分
総合
研究課題名
安全な薬物治療を促進する多職種間情報共有システムの開発に関する研究
課題番号
H26-医療-一般-012
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
森本 剛(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 作間 未織(兵庫医科大学 医学部)
  • 太田 好紀(兵庫医科大学 医学部)
  • 湯坐 有希(東京都立小児総合医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、電子カルテやオーダリングシステムを用いて、薬剤性有害事象の発生しやすい状況やハイリスク患者、実際の発生状況を、多職種医療従事者間で迅速かつ円滑に共有するシステムを開発し、その結果、多職種間のコミュニケーションの向上が、薬剤性有害事象の防止、早期発見を可能にし、日常診療における医療安全推進に寄与するかどうかを検証することを目的とする。
研究方法
JADE Studyのデータを基に、薬剤性有害事象に関連するハイリスク薬剤や、薬剤性有害事象の中でも頻度の高い症状や重症度の高い症状、患者や診療環境におけるリスクファクターを抽出し、ナレッジベースを作成した。そのナレッジベースを基に多職種間情報共有システムを開発し、島根県立中央病院の統合病院情報システムに導入した。
 多職種間情報共有システムの導入前後に前向きコホート研究を行い、導入前後で薬剤性有害事象やエラーに変化があるかどうかを評価した。また、医療従事者を対象とする横断研究も実施し、多職種医療従事者間における情報把握の向上、コミュニケーションの向上と満足度、システムの使いやすさと受け入れ度を検証した。
結果と考察
JADE studyのナレッジベースからは、抗生剤投与による下痢の発生と、腎機能低下患者へのハイリスク薬剤投与の頻度が多いことが明らかとなった。頻度の高いこれらの事象に注目し、1)患者の腎機能を随時モニタリングし、腎機能の低い患者をハイリスク患者として多職種医療従事者間で共有して腎機能に応じた推奨投与量が表示されるシステム及び、2)抗菌薬投与中の患者の症状を随時モニタリングし、抗菌薬投与中の患者に下痢が発生した際に、医療従事者間で情報を共有する下痢アラートシステムを開発した。開発したシステムを導入する前後に島根県立中央病院に入院した入院患者はそれぞれ、3203人と3237人であり、背景因子も同様の患者層であった。
 入院期間中に腎機能が悪化した患者はプレデータでは1313人(41%)に対しポストデータでは1274(39%)とやや頻度が少ない傾向があった(p=0.06)。入院時における軽度の腎機能障害の有無(男性>1.1mg/dl、女性>0.8mg/dl)で集団を分けた場合、入院中のCrの変化や腎機能障害の発生頻度は、軽度腎機能障害のある患者では有意差が認められなかったものの、軽度腎機能障害のない患者で有意に入院中のCrの上昇(プレデータ=0.02mg/dlの上昇 vs ポストデータ=0mg/dlの上昇、p=0.0001)が改善され、また入院期間中における腎機能障害の発生頻度が有意に低い(プレデータ 50% vs ポストデータ 46%、p=0.01)ことが示された。
 下痢アラートシステムの導入前後では、下痢の発生患者数(プレデータ 33% vs ポストデータ 32%、p=0.7)や延べ下痢日数(プレデータ=6407日 vs ポストデータ=6202日、p=0.6)に有意差は認められなかった。
 多職種間情報共有システムの導入後、実際にシステムを利用した経験のある医師を対象に横断研究を行ったところ、腎機能に応じた推奨投与量が表示されるシステムは74%が有用と回答したのに対し、抗菌薬投与中の患者に対する下痢アラートシステムが有用と回答したのは44%に留まっていた。
 本データより、一見腎機能がよさそうに見える集団において、腎機能に応じた推奨投与量が表示されるシステムの効果が大きいことが明らかとなった。この結果は、多くの医師が検査値のCr値のみで腎機能障害の有無を判断し、高齢者における軽度の腎機能低下などの細かな調整が困難であった可能性があり、そのような場合に、リアルタイムで患者の腎機能をモニタリングし、処方量の調整に繋がるシステムは有効である可能性が高い。
 一方で、下痢アラートシステムは、下痢の頻度や下痢の持続日数を有意に減少させられなかった。このことは、抗菌薬による下痢に対してアラートを行ったとしても、医学的理由で投与されている抗菌薬を変更することが臨床的に困難であったり、仮に抗菌薬を中止・変更したところで、既に過去の抗菌薬で発生した下痢が急には改善しなかった可能性がある。
結論
JADE Studyを基に作成したナレッジベースから、患者の腎機能を随時モニタリングし、腎機能の低い患者をハイリスク患者として多職種医療従事者間で共有して腎機能に応じた推奨投与量が表示されるシステム及び、抗菌薬投与中の患者に下痢が発生した際に、医師、看護師、薬剤師ら多職種医療従事者間で情報を共有する下痢アラートシステムを開発し、その効果を前向きコホート研究及び横断研究で検証した。
 これらの研究を通じて得られた知見と更なる解析を基に、多職種間情報共有システムの有効性がより一般化可能な形で提案できると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201520007C

収支報告書

文献番号
201520007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,124,000円
(2)補助金確定額
3,124,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 269,695円
人件費・謝金 2,063,514円
旅費 465,970円
その他 175,821円
間接経費 149,000円
合計 3,124,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-03-13
更新日
-