地域格差是正を通した周産期医療体制の将来ビジョン実現に向けた先行研究

文献情報

文献番号
201520004A
報告書区分
総括
研究課題名
地域格差是正を通した周産期医療体制の将来ビジョン実現に向けた先行研究
課題番号
H26-医療-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中林 正雄(社会福祉法人恩師財団愛育会 母子愛育会総合母子保健センター)
  • 中井 章人(日本医科大学 多摩永山病院)
  • 板橋 家頭夫(昭和大学 医学部)
  • 鮫島 浩(宮崎大学 医学部)
  • 楠田 聡(東京女子医科大学 母子総合医療センター)
  • 宇藤 裕子(大阪府立精神医療センター)
  • 海野 信也(北里大学 医学部)
  • 千田 勝一(岩手医科大学 小児科学講座)
  • 和田 和子(大阪医大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
10,246,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、全国の周産期医療体制の現状と周産期医療センターの機能を調査分析し、適切な評価指標を確立した上で地域の実情に応じた施設機能整備の指針を作成し、地域格差の是正策としての広域連携システム構築と人材育成・適正配置の方法、さらに災害対策を含めた周産期医療整備指針改訂案を提示することを目的とする。
研究方法
1)関連学会や行政と連携しながら全国の周産期センターの人材の充足度を含めた整備状況と課題を調査した。日本産科婦人科学会全会員の年齢・性別・所属施設と日本産婦人科医会施設情報調査の施設機能・診療実績を連結して産婦人科医師の勤務実態調査を完了させる。日本新生児成育医学会の実態調査結果と全国の総合周産期センターと日本小児科学会研修指定施設の責任者に対するアンケート調査を踏まえて都道府県別の新生児医療の課題を分析する。
2) 周産期医療の人材育成を通した地域格差解消に関する研究としては、a)大学・総合周産期母子医療センター・日本小児科学会研修指定施設等における周産期医療教育・研修の実態を調査し、課題の明確化とその解消策を明らかにする。b)看護師を含めた多職種の連携と検査・診療領域の拡大の可能性を日本新生児看護学会の協力の元に検討した。
(3)東北震災の被災地を含めた全国の周産期医療関係者と協議し、総合周産期療センターに対するアンケート調査を通して関係者の大多数が賛同する災害対策を含めた周産期医療体制整備指針案を作成する。
結果と考察
1)地域格差の実態調査を踏まえた周産期医療体制の格差是正に関する研究 
1.産婦人科医師の減少と若手医師の大都市集中により周産期医療の地域格差は拡大しておりMFICU病床数や医師数にはそれぞれ7倍と17.6倍の自治体間格差がある。2.1000分娩あたり2名、MFICU1床あたり2.4名の産科医の配置が必要で、母体搬送受入改善には、1000分娩あたり1床のMFICU配置が必要になる。3.NICU病床数は出生1000あたり2床から3床と1.5倍に増えたが新生児科医師数は増加していない。総合周産期センターのNICUには15床あたり、最低でも10人の周産期(新生児)専門医の配置が適切だが、実際の常勤医師数の地域格差が顕著であり、この格差は超低出生体重児の死亡率にも反映されていた。4.平均的な産科入院病床数の確保には1000出生あたり、33床〜38床が必要と試算された。5. 地域の実情に即した周産期医療整備計画の策定には、a)現状把握、b)リスク別妊産婦数・患者数の試算、必要病床数、必要医師数の試算、c)シミュレーションを踏まえた周産期医療圏の設定、d)今後の方向性と対策の検討(医師の確保、周産期センターの重点化・大規模化、一次分娩施設の確保、広域連携等)、e)目標設定とモニタリングを進める必要がある。6.一般分娩施設から周産期ンターへのアクセスも地域格差が大きく、分娩取扱医療機関から総合・地域周産期センターへの搬送に要する時間等の地理的制約も踏まえ、医療資源配分や搬送体制の整備を進める必要がある。
2)周産期医療の人材育成を通した地域格差解消に関する研究:1. 地域の実情に応じた周産期医療体制モデルの提案が必要である。モデル実現のためには、ハイリスク分娩管理加算の増額、基幹病院のローリスク分娩の制限、病診連携型分娩と産後ケア施設の普及が望まれる。2. NICUに於ける看護師の医療業務拡大の検討では、新生児集中ケア認定看護師と5年目以上のベテラン看護師では行ってよいと考えている行為等に差があり、教育内容・方法と認定資格を分けて考える必要がある。
3)周産期医療整備指針の改定に関する研究
1.MFICUの施設基準は出生千あたり0.89床である。2. 「各都道府県の周産期医療体制に係る調査及び周産期センターの評価について」に用いられている評価票の修正案を作成した。3.総合周産期センター責任者に対するアンケート調査では、提案された19項目のうち17項目に対して全体の70%以上の賛成が得られた。これらの結果をもとに、「周産期医療体制整備指針」の改定要望を作成した。4. 災害時の周産期医療体制の在り方については、平時から準備し、災害時に指示命令系統の確立、安全確保、情報収集・伝達、評価を迅速に確立できるようにする体制が重要である。5. 小児・周産期災害医療リエゾンと広域搬送連携の明示。6.災害対策としての広域協議会を設置する。
結論
我が国の周産期医療は病床数の整備状況や人材供給体制に基づくに大きな都道府県間格差がある。改善のためには地域毎の課題を客観的に評価し必要な対策を講ずる必要がある。そのために当班では全国の総合周産期母子医療センターの責任者に支持される周産期医療整備指針の改定案を作成した。

公開日・更新日

公開日
2017-01-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201520004B
報告書区分
総合
研究課題名
地域格差是正を通した周産期医療体制の将来ビジョン実現に向けた先行研究
課題番号
H26-医療-一般-005
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中林 正雄(社会福祉法人恩師財団愛育会 母子愛育会総合母子保健センター)
  • 中井 章人(日本医科大学 多摩永山病院)
  • 板橋 家頭夫(昭和大学 医学部)
  • 鮫島 浩(宮崎大学 医学部)
  • 楠田 聡(東京女子医科大学 母子総合医療センター)
  • 宇藤 裕子(大阪府立精神医療センター)
  • 海野 信也(北里大学 医学部)
  • 千田 勝一(岩手医科大学 小児科学講座)
  • 和田 和子(大阪医大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
適切な評価方法により都道府県別の周産期医療体制の地域格差の現状と近未来機能を分析し、地域の実情に応じた施設の機能整備の指針を作成し、地域格差の是正策としての広域連携システムの構築と人材育成と適正配置の方策を提示する。更に災害対策を含めた周産期医療体制整備指針案を作成する。
研究方法
イ)関連学会や行政と連携して全国の周産期センターの人材の整備状況と課題を調査し、日本産婦人科学会・医会の産科施設情報調査結果と日本新生児成育医学会の実態調査の分析から都道府県別の地域格差を明らかとする。ロ)人材育成を通した地域格差解消に向けて、1)大学・総合周産期センター・日本小児科学会研修指定施設等における周産期医療教育・研修の実態を調査して課題を明らかにし、2)看護師を含めた多職種の連携と検査・診療領域の拡大の可能性を検討する。ハ)全国の周産期医療関係者と協議しながら災害対策を含めた周産期医療体制整備指針案を作成する。
結果と考察
イ)a)都道府県別に年齢分布や分娩数あたりの産科医と新生児医数を可視化して提示出来た。また10年後の分娩施設産科医数の増減の試算をした。b)二次医療圏ごとに分娩施設へのアクセスの特性を明確にした。c)産科医では女性医師の多い世代が30歳代以下から40歳代以下へと進行することにより地域分娩施設での継続的勤務可能性が課題となる。d) MFICUの適切な病床数は1000出生あたり0.89床と算出されたが、16都道府県のみで満たされ自治体間で7倍の格差があった。e)NICU数は平成26年の時点で1000出生あたり3床に達したが、NICUの医師数は横ばいでNICUの医師の業務負担は5年間で約1.5倍に増加した。f)総合周産期センターの常勤新生児医数はNICU15床当たり10名が適切と考えられたが8割の施設ではこの基準値を満たしていない。g)都道府県別の1000出生あたりの新生児医数には4倍の較差があった。h)超低出生体重児のNICU退院死亡率は着実に減少しているが、都道府県較差が顕著で、超低出生体重児の死亡退院率とNICU病床数/新生児専門医数には正の相関が認められた。ロ)1)a)臨床心理士は総合周産期センターでも半数は非常勤であり、地域周産期センターでは不在施設が多かった。NICU支援コ-ディネイターは総合周産期センターの約半数に配置されていたが専任は4割に過ぎない。医師事務作業補助員は総合周産期センターの7割、地域周産期センターの半数に配置されていた。b)全国の日本小児科学会研修指定施設において回答のあった364施設中267施設で後期研修医がNICUで勤務していなかった。c)全国の大学病院で新生児医療の専属指導医がいるのは14大学のみであった。d)日本新生児成育医学会が開催している教育セミナーは新生児科医師育成に有用であった。2)a)地域における周産期医療体制の安定的確保のために、広域の「周産期医療圏」を設定し、妊産婦の負担の少ない一次分娩取扱施設へのアクセスと一次分娩取扱施設から高次周産期医療機関へのアクセスを両方確保する必要がある。b)産科医の地域格差是正のためには周産期センターの集約化とともに、患者のアクセスを考慮して、セミオープンシステムの普及と産後ケアセンターの充実が有用と考えられた。c)全国の周産期センターの新生児科長、NICU師長、NICU経験5年以上の看護師5名を対象にアンケート結果では、「日常生活の支援」「栄養管理」「退院調整」の項目では、新生児科長と師長と新生児集中ケア認定看護師は高い率で実施に積極的であった。しかしその他の医療行為に関しては看護師サイドでは半数程度しか同意が得られず現場の看護師の協力を得るためには、教育・研修プログラムの確立と医師との役割分担の明確化とインセンテイブの保証が必要である。日本新生児成育医学会と日本新生児看護学会は合同で研修プログラムの作成と学会認定証の発行にむけて協議中である。ハ)研究班で作成した災害対策を含む周産期医療体制整備指針案の改定案について全国の総合周産期母子医療センターの責任者を対象としたアンケート調査ではほとんどの項目で80%以上の賛成を得られた。特に震災対策関係項目については反対者がいなかった。
結論
我が国の周産期医療のレベルは国際的には高いが、都道府県単位でみると大きな地域格差があり、その理由としては、単なる病床数の整備状況の差のみでなく、マンパワーの供給体制、広域連携の有無等の種々の要因が影響している。将来的にはこの地域格差が更に拡大する可能性が高い。施設およびその地域の周産期医療を、マンパワーを含めて客観的に評価し、必要な対策を講ずる必要がある。そのために当班で作成した周産期医療整備指針の改定案も多くの総合周産期センターの責任者の賛同を得ることが出来た。

公開日・更新日

公開日
2017-01-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201520004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1.都道府県別に年齢・分娩数あたりの産科医と新生児医数を可視化して提示し、10年後の分娩施設産科医数の増減を試算し、セミオープンシステムの普及と産後ケアセンターの必要性を提言した。2. MFICUの適切な病床数と地域格差を明示した。3.総合周産期センターの適切な常勤新生児医数と地域格差を明示した。4.二次医療圏ごとに分娩施設と周産期センターへのアクセスの特性と定量化の方法を明確にした。5.全国の大学病院と専門施設での専門医育成状況と課題を明示した。6.各種コメデイカルの活用状況と課題を明示した。
臨床的観点からの成果
1.都道府県較差が顕著な超低出生体重児のNICU退院死亡率を減少させるためにはNICU病床数あたりの新生児専門医増加が必須であることが明らかとなった。2.地域における周産期医療体制の安定的確保のために、広域の「周産期医療圏」を設定し、妊産婦の負担の少ない一次分娩取扱施設へのアクセスと一次分娩取扱施設から高次周産期医療機関へのアクセスを両方確保する必要がある。3.周産期医療の地域格差是正のためには周産期センターの集約化とともに、患者のアクセスを考慮する必要がある。
ガイドライン等の開発
厚生労働省医政局が開催する「周産期医療体制のあり方に関する検討会」では、2015年8月31日に石川研究協力員が「周産期医療体制の地域差と方向性」、10月15日に海野分担研究者が「地域分娩環境の確保のための方策」、11月27日には田村研究代表者が「NICUの整備とNICU勤務医師の充足に関する報告」・鮫島分担研究者が「MFICUの施設基準、地域格差等に関する検討」・中井分担研究者が「母体搬送をはじめとする救急搬送体制について」を報告し、28年度の周産期医療整備指針の改定に向けた基礎資料を提示した。
その他行政的観点からの成果
2015年10月23日に盛岡での第60回日本新生児成育医学会総会に併せて行われた東北災害関係者を招聘した拡大班会議では「周産期医療における災害対策」が検討された。その検討結果を踏まえて災害対策を含めた周産期医療整備指針の改定案を提言し、全国の総合周産期母子医療センターの責任者のほとんどが賛同した。東京都と埼玉県の広域周産期搬送が着実に施行されている。
その他のインパクト
マスコミ報道2014年新聞;読売「産科医不足9県危機的」9/20,朝日「分娩医進む地域格差」10/19,毎日「産科医不足深刻」11/13,朝日「10年後分娩医減少は26 県に」11 /13,東興「本県95 件、全国最多」11/13,富山「産科医数地域格差拡大」11/13,北國「石川の産科医25%減」11/13,中國「産科医26 府県で減少」11/13。2015年;上毛「医師不足」3/4. NHK 「おはよう日本,7時のNHKニュース,ニュースウォッチ9, NewsWeb,首都圏ニュース

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
13件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2016-11-17
更新日
2019-05-16

収支報告書

文献番号
201520004Z