文献情報
文献番号
201519002A
報告書区分
総括
研究課題名
小児におけるB型肝炎の水平感染の実態把握とワクチン戦略の再構築に関する研究
課題番号
H25-肝炎-一般-011
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
須磨崎 亮(国立大学法人筑波大学 医学医療系)
研究分担者(所属機関)
- 乾 あやの(神奈川県済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科)
- 井上 貴子(公立大学法人名古屋市立大学大学院医学研究科 共同研究教育センター)
- 牛島 高介(久留米大学医療センター 小児科)
- 内田 茂治(日本赤十字社 血液事業本部中央血液研究所)
- 江口 有一郎(佐賀大学医学部肝疾患医療支援学講座)
- 惠谷 ゆり(大阪府立母子保健総合医療センター消化器・内分泌科)
- 清原 知子(国立感染症研究所ウイルス第二部第五室)
- 久保 隆彦(医療法人社団シロタクリニック シロタ産婦人科・産科)
- 黒川 真奈絵(聖マリアンナ医科大学大学院疾患プロテオーム分子病態治療学)
- 佐々木 美香(岩手医科大学医学部小児科学講座)
- 高野 智子(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪府立急性期・総合医療センター・小児科)
- 滝川 康裕(岩手医科大学内科学講座消化器内科肝臓分野)
- 田中 純子(国立大学法人広島大学大学院医歯薬保健学研究院 疫学・疾病制御学)
- 福島 敬(国立大学法人筑波大学医学医療系)
- 村田 一素(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
- 森内 浩幸(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻展開医療科学講座小児科学)
- 森岡 一朗(国立大学法人神戸大学大学院医学研究科小児科学分野・こども急性疾患学)
- 柳瀬 幹雄(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院消化器内科)
- 山崎 一美(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服政策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
30,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
B型肝炎(HB)ワクチン定期接種化の検討のために、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で科学的根拠を求められた3課題について研究した。1.小児期のB型肝炎ウイルス(HBV)感染の実態把握、2.HBワクチン接種後のHBs抗体陽転率とHBs抗体持続期間、3.遺伝子型の異なるHBVに対するHBワクチン効果。さらに2015年1月15日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会において、乳児を対象としてHBワクチンを定期接種化する方針が承認されたので、本年度は定期接種開始を前提にして、今後の課題について検討した。
研究方法
課題1:健常小児集団の調査を目的に1)茨城県と岩手県における小学校4年生を対象にした生活習慣病予防健診、2)国立感染症研究所の感染症流行予測調査、3)小児の病院受診者の3集団から得た残余血清を用いたHBs抗原とHBc抗体調査を継続した。また、一部検体でHBs抗体とHBV-DNAを検査した。さらに本年度は、HBV感染のハイリスク群として、4)大学病院の小児受診者で診療上の必要からHBV感染マーカー検査を行われた児、5)HBV濃厚感染地域における保存検体を用いた調査を行った。さらに、献血者の血漿から検出されたHBV-DNAでエスケープ変異株を検討し、健常小児でHBs抗原陰性かつHBV-DNA陽性のOBI症例を検討した。
課題2:1)岩手医科大学と筑波大学の医療系学生を対象としたHBワクチン初回接種後のHBs抗体陽転率調査の継続とHBs抗体自然減衰の評価。免疫記憶の有無の検討。2)母子感染予防処置例の長期予後調査。課題3:ビームゲン®とヘプタバックスⅡ®を接種したヒト血清に存在するHBs抗体と遺伝子型AおよびC由来の両方のHBs抗原蛋白との反応性を検討した。さらに、定期接種化に向けて、市販2種のHBワクチンのシリーズ内での互換性を調べた。またWHOのHBV control verificationに関して国内の整備状況を検証した。
課題2:1)岩手医科大学と筑波大学の医療系学生を対象としたHBワクチン初回接種後のHBs抗体陽転率調査の継続とHBs抗体自然減衰の評価。免疫記憶の有無の検討。2)母子感染予防処置例の長期予後調査。課題3:ビームゲン®とヘプタバックスⅡ®を接種したヒト血清に存在するHBs抗体と遺伝子型AおよびC由来の両方のHBs抗原蛋白との反応性を検討した。さらに、定期接種化に向けて、市販2種のHBワクチンのシリーズ内での互換性を調べた。またWHOのHBV control verificationに関して国内の整備状況を検証した。
結果と考察
課題1:1)茨城県では841人中HBs抗原陽性者0人、HBc抗体陽性0.36%。岩手県は3,816
名で、HBs抗原陽性0人、HBc抗体陽性0.027%。2)12府県の健康小児(0-9歳)199名でHBc抗体陽性は1.5%。3)大都市・北海道・九州地方を中心とした多施設共同研究(9都道府県11施設)を継続し、総計8,453検体中HBs抗原陽性0.047%、HBc抗体陽性0.95%が判明。明らかな地域差・年齢差は認めなかった。また1)3)のHBs抗原HBc抗体陰性者を対象にHBs抗体保有率を行ったところ、10歳では1-2歳で20-50%、5歳以降では1-10%未満で、年長児ではHBワクチン接種既往者が極めて少ないことが判明した。一方、HBワクチン未接種の一般献血者からも、一定の頻度でエスケープ変異株が検出された。課題2:1)昨年度までと合わせ993名を検討。3回接種終了後のHBs抗体価10 mIU/ml未満は4.8%。また昨年までの被験者で12か月後・24か月後のHBs抗体保有率を調査したところ、それぞれ8.1%、19.8%でHBs抗体価が陰性化していた。 2)母子感染予防処置症例の長期経過の観察が行われている2施設の調査では、いずれもHBs抗体価10-100mIU/mLを目安に追加接種を行われており、キャリア化例、肝炎発症例はいなかったが、HBc抗体陽転化例がみられ、追加接種の要否についてはさらなる検討が必要と考えられた。課題3:ビームゲンおよびヘプタバックスⅡ由来のHBs抗体は、遺伝子型A、CいずれのHBs抗原蛋白とも強く反応した。また、少数例の検討ではあるが、同一シリーズ内で異なるワクチンを使用した場合も良好にHBs抗体獲得が得られた。また、HBV定期接種化後にはWHOのHBV control verification申請も可能であることが分かった。
名で、HBs抗原陽性0人、HBc抗体陽性0.027%。2)12府県の健康小児(0-9歳)199名でHBc抗体陽性は1.5%。3)大都市・北海道・九州地方を中心とした多施設共同研究(9都道府県11施設)を継続し、総計8,453検体中HBs抗原陽性0.047%、HBc抗体陽性0.95%が判明。明らかな地域差・年齢差は認めなかった。また1)3)のHBs抗原HBc抗体陰性者を対象にHBs抗体保有率を行ったところ、10歳では1-2歳で20-50%、5歳以降では1-10%未満で、年長児ではHBワクチン接種既往者が極めて少ないことが判明した。一方、HBワクチン未接種の一般献血者からも、一定の頻度でエスケープ変異株が検出された。課題2:1)昨年度までと合わせ993名を検討。3回接種終了後のHBs抗体価10 mIU/ml未満は4.8%。また昨年までの被験者で12か月後・24か月後のHBs抗体保有率を調査したところ、それぞれ8.1%、19.8%でHBs抗体価が陰性化していた。 2)母子感染予防処置症例の長期経過の観察が行われている2施設の調査では、いずれもHBs抗体価10-100mIU/mLを目安に追加接種を行われており、キャリア化例、肝炎発症例はいなかったが、HBc抗体陽転化例がみられ、追加接種の要否についてはさらなる検討が必要と考えられた。課題3:ビームゲンおよびヘプタバックスⅡ由来のHBs抗体は、遺伝子型A、CいずれのHBs抗原蛋白とも強く反応した。また、少数例の検討ではあるが、同一シリーズ内で異なるワクチンを使用した場合も良好にHBs抗体獲得が得られた。また、HBV定期接種化後にはWHOのHBV control verification申請も可能であることが分かった。
結論
2015年1月の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会における、乳児を対象にB型肝炎定期接種化を行う方針の承認以降も検討を継続し、2016年10月から定期接種化が開始されることが決定された。定期接種化に向けて、HBV感染症およびワクチン接種の意義について正しい知識の理解・普及に努めると同時に、母子感染予防との混同防止や産科・小児科・内科医のさらなる連携の啓発を行った。また、本年度の研究により定期接種化前の健常人にワクチンエスケープ変異株やOBI症例がみられ、今後も継続調査が必要である。
公開日・更新日
公開日
2017-01-17
更新日
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