新興・再興感染症の発生に備えた感染症サーベイランスの強化とリスクアセスメント

文献情報

文献番号
201517017A
報告書区分
総括
研究課題名
新興・再興感染症の発生に備えた感染症サーベイランスの強化とリスクアセスメント
課題番号
H27-新興行政-指定-001
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
松井 珠乃(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 永井 正規(埼玉医科大学 医学部公衆衛生学)
  • 齋藤 玲子(新潟大学大学院 医歯学総合研究科 国際保健学分野)
  • 石黒 信久(北海道大学病院 感染制御部)
  • 谷口 清州(国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 中野 貴司(川崎医科大学 小児科学)
  • 中村 廣志(神奈川県衛生研究所  企画情報部)
  • 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 西藤 成雄(西藤小児科こどもの呼吸器・アレルギークリニック)
  • 岸本 剛(埼玉県衛生研究所)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 島田 智恵(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 有馬 雄三(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
12,996,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
・感染症発生動向調査の評価と改善法の提案:疫学的・統計学的な観点からの評価とともに、ステークホルダーの合意のもとにシステムを継続的に評価し、改善のための方策を立案する。
・感染症発生動向調査の利用の促進:定点サーベイランス・全数サーベイランスともに、病原体サーベイランス情報と連動した運用の支援と、感染症発生動向調査にその他の情報源(例:地域の医療機関におけるパイロットサーベイランス)を合わせて解釈する方法について検討を行う。
・新興・再興感染症発生への準備:急性健康危機事例の探知とリスクアセスメント、地方衛生研究所における体制整備、病原体診断の手法の開発、医療機関と公衆衛生分野の連携について検討する。
研究方法
「感染症発生動向調査の評価と改善法の提案」、「感染症発生動向調査の利用の促進」、「新興・再興感染症発生への準備」の3つの主テーマについて、中央感染症情報センター(国立感染症研究所)、地方感染症情報センター、地方衛生研究所、医療機関等に所属する分担研究者・協力研究者によって、エビデンスベースの対応を促進するための検討、リスクアセスメントの手法についての検討、サーベイランスシステム評価の指針作り等の研究活動を行った。
結果と考察
1)感染症発生動向調査の評価と改善法の提案
平成28年4月に施行された病原体情報収集の法制度化にあたり、本研究班において地方衛生研究所を持たない自治体(中核市など)についての感染症発生動向調査システム運用における課題を抽出した。また、特に季節性インフルエンザの病原体検査に関して取り扱う情報が増えることが予測されることから、感染症発生動向調査システム上の改変について種々の提案を行った。
感染症発生動向調査における定点疾患については、水痘の警報・注意報発生の基準値を変更すること、都道府県警報を感染症発生動向調査システムに組み込むこと、インフルエンザ、小児科定点対象疾患について補助変量を用いた罹患数推計を感染症発生動向調査システムに導入することを提案した。また、RSウイルス感染症については、他の定点サーベイランス対象疾患の様に、報告定点当たり報告数で調整した数字を公表することを提案した。
 サーベイランスのシステム評価の優先付けの手法についての検討を今年度初めて実施した。この優先度に基づきシステム評価を行いながら、この手法自体についての有用性についても検討したい。 
2)感染症発生動向調査の利用の促進
今年度、「感染症発生動向調査事業における届出の質向上のためのガイドライン」を改訂の上、全国自治体の感染症対策部局に配布し、これにより現場でのデータ利用促進が期待される。
季節性インフルエンザの流行レベル閾値設定法については、感染症発生動向調査の患者情報のみを用いた解析によって一定の有用性を確認することができたが、本研究班関連で収集している別の情報源からの情報も合わせてこの手法についての有用性を評価したい。季節性インフルエンザ以外の急性呼吸器感染症については、現行では包括的な病原体サーベイランスが行われておらず、本研究班で開発を進めている検査系への期待は高い。
季節性インフルエンザの実地診療家をネットワークしたオンラインサーベイランス、静岡県における病院小児科をネットワークした細菌性髄膜炎のサーベイランス、薬剤耐性マイコプラズマ感染症などのユニークなサーベイランスが運用されている。これらの情報源から得られる情報を感染症発生動向調査で得られる情報と合わせて評価する仕組みを作ることにより、感染症発生動向調査を補完し、公衆衛生対応の向上に資することが期待される。
3)新興・再興感染症発生への準備
 本研究班において、急性健康危機事例に対するリスク評価について、感染研感染症疫学センターにおいて日々行っていることを標準手順書としてまとめた。伊勢志摩サミットはこのリスク評価の手順を試行して、地方での強化サーベイランスの運用の中でその有用性を評価するよい機会となることが想定されている。 
結論
・感染症発生動向調査を適切に運用すること、また、複数の情報源を合わせ多面的な解釈を行うことに より、感染症発生動向調査の結果をより適切に対策に結び付けることができる。
・感染症発生動向調査を補完できる情報を収集するフレキシブルなシステムの運用を継続することによ り、必要時の他地域・他疾患への転用も選択肢とすることができる。
・急性健康危機事例のリスクアセスメントは、定性的な手法を用いることが多く、様々な事例を通して 、関係者が経験を積むとともに、プロセスについて関係者のコンセンサスを得ておくことが重要であ る。

公開日・更新日

公開日
2016-06-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201517017Z