文献情報
文献番号
201516019A
報告書区分
総括
研究課題名
様々な依存症の実態把握と回復プログラム策定・推進のための研究
課題番号
H25-精神-一般-003
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
宮岡 等(北里大学 1)医学部精神科学 2)東病院)
研究分担者(所属機関)
- 樋口 進(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター)
- 松本 俊彦(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
- 小泉 典章(長野県精神保健福祉センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
11,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では1)回復プログラムの普及・均てん化が求められる薬物依存、2)実態把握や診断・治療ガイドラインが十分ではないインターネット嗜癖、3)回復プログラムの策定が求められる病的ギャンブリング、4)地域差の大きい薬物依存に対する行政機関間連携を対象に研究を行う(以下、1)~4)に沿って記す)。
研究方法
1)初年度にSMARPP(Serigaya Methamphetamine Relapse Prevention Program)の改訂、2年度にSMARPP参加患者の転帰調査、最終年度に群馬県こころの健康センターにてCRAFT(Community Reinforcement and Family Therapy)に依拠して開発された依存症家族支援プログラムGIFT(Gunma Izonsyou Family Training)の評価を行った。2)初年度に専門外来受診患者臨床特性検討、2年度に診断ガイドライン策定のためのWHO会議を開催、最終年度に若年者縦断的調査研究ベースライン調査結果解析を行った。3)初年度に家族に関する文献調査と本人・家族の語りの質的分析、2年度に家族対象面接調査、本人・家族対象アンケート調査、最終年度に家族対象アンケート調査、家族対象心理教育プログラム開発と効果検証、精神保健福祉センターにおける家族への心理教育用冊子作成、SMARPPを参考にした当事者回復プログラム試案作成、債務問題支援機関対象調査結果解析を行った。4)初年度に精神保健福祉センターと保健所の連携の基盤となる要素を検討、2年度は全国精神保健福祉センター、保健所における薬物依存への対応、連携の実態調査、最終年度は保健所職員を対象に研修を実施しその効果を検証した。
結果と考察
1)GIFTに参加した家族のK10は13.6点から9.2点へと改善し(p=0.006)、プログラム参加者の半数以上で、本人とのトラブル状況やコミュニケーション、乱用状況のいずれも改善を認め、依存症者への対応知識の習得に役立つ可能性が示唆された(p=0.086)。一方で、RSES-Jや本人の治療状況には有意な変化は認めなかった。2)都市部の中学校生を対象とし、経時的変化、リスク要因同定のための縦断調査ベースラインデータが解析された。回収率は9%だった。IAT(Internet Addiction Test)では、女子の3.5%、男子の2.2%、合計2.9%が、一方、DQ(Diagnostic Questionnaire)では、男子7.6%、女子7.9%、合計7.8%でインターネット嗜癖を疑う結果となった。ただしインターネット嗜癖を疑う者の占める率は評価尺度により差があり、回収率、横断調査ではない点等から本結果はわが国のインターネット嗜癖の有病率とは解釈されない。3)病的ギャンブラーの家族が抱える困難さ、最も利用され有用であると認識されているのが自助グループであることが明らかにされた。CRAFTをもとに作成された病的ギャンブラーの家族を対象とする心理教育プログラムの有用性が示された。当事者回復プログラム試案は作成されたがその効果検証はされていない。ギャンブル等が原因の多重債務者は、社会適応が困難な者が多く、ギャンブルに関する問題以前の生活上の課題の支援の重要さが示唆された。4)保健所職員を対象とする研修、参加者へのアンケート調査が実施され、保健所職員を対象とする研修の薬物依存回復支援における困難感や抵抗感に良好な変化を生むことが示唆された。一方、地域で薬物依存対策を実施していくのは、人的、組織構造的に様々な課題があることが見出された。
結論
1)CRAFTを参考にした依存症家族支援プログラムの有効性に関する検証を試みたものとしては国内最初の研究となった。対象数や研究デザインなどの限界からその知見は予備的なものにとどまるが、GIFTが少なくとも家族の精神状態の改善に寄与している可能性が示唆された。2)インターネット嗜癖の経時的変化、リスク要因同定のための縦断調査ベースラインデータが解析された。ただし疾病としての位置付けがまだ明確とは言えないこと、回収率等から、インターネット嗜癖を疑う者の占める率はわが国の有病率とは言えない点に注意を要すると判断された。3)病的ギャンブリング支援における家族援助の重要性、家族に対する心理教育プログラムの有用性が示された。多重債務者には社会適応が困難な者が多く、ギャンブルに関する問題以前の生活上の課題を支援する重要性が示された。4)行政機関間連携において保健所職員に対する研修の効果が示唆されるとともに、現実的な課題も浮き彫りにされた。
公開日・更新日
公開日
2016-08-08
更新日
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