文献情報
文献番号
201510086A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期心筋症の心電図学的抽出基準、心臓超音波学的診断基準の作成と遺伝学的検査を反映した診療ガイドラインの作成に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H27-難治等(難)-一般-019
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
吉永 正夫(国立病院機構鹿児島医療センター 小児科)
研究分担者(所属機関)
- 堀米 仁志(筑波大学医学医療系 小児科)
- 大野 聖子(滋賀医科大学アジア疫学研究センター)
- 市田 蕗子(富山大学大学院医学薬学研究部)
- 住友 直方(埼玉医科大学国際医療センター)
- 長嶋 正實(愛知県済生会リハビリテーション病院)
- 緒方 裕光(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター )
- 堀江 稔(滋賀大学呼吸循環器内科)
- 蒔田 直昌(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科内臓機能生理学・分子生理学)
- 牛ノ濱 大也(福岡こども病院感染症センター 循環器科)
- 田内 宣生(大垣市民病院 小児科)
- 佐藤 誠一(新潟市民病院 小児科総合周産期母子医療センター)
- 高橋 秀人(福島県立医科大学 医学部放射線医学県民健康管理センター情報管理統計室・統計学)
- 岩本 眞理(済生会横浜市東部病院こどもセンター)
- 太田 邦雄(金沢大学医薬保健研究域医学系・血管発生発達病態学)
- 立野 滋(千葉県循環器センター 小児科)
- 泉田 直己(医療法人社団永泉会曙町クリニック)
- 畑 忠善(藤田保健衛生大学大学院保健学研究科)
- 小垣 滋豊(大阪大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
7,516,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
健常児48,401名の心電図データ、1,500名の心臓超音波データと、心筋症患児 {肥大型心筋症200名、拡張型心筋症100名、左室心筋緻密化障害100名、うち半数は学校心臓検診(心検)抽出例}のデータから、現在まで存在しなかった小児期心筋症の抽出基準/診断基準を作成し、遺伝学的検査を含めた患児情報から診療ガイドラインを作成する。拘束型心筋症、催不整脈性右室心筋症患児データも収集し、暫定案を作成することを目的とした。
研究方法
1. 小児の心電図基準値作成に関する研究;2006年から2009年までにK市心検を受診した総計65,571名の心電図について、1枚の心電図を2人の小児循環器医がdouble checkし、洞調律の心電図のみを抽出した。心疾患の既往のある小児の心電図、不整脈や左側胸部誘導でST低下/逆転T波を認めるものは除外した。2. 小児期心筋症の心電図学的抽出基準の検討;初年度は肥大型心筋症 (HCM) の早期抽出基準に関する検討を行った。中学生以降に診断されたHCM患児で、小学1年の心電図で診断可能か検討した。[2-1] 抽出基準の検討;小学1年男子8408名のECGを用いて検討した。心検時のHCMの抽出頻度は数万人に1人と推測されており、5000人に1人の抽出基準を検討した。肥大基準として7項目(従来用いられている4項目、新規の3項目)を検討した。[2-2] HCM患児の心電図所見;中学1年以降に診断された9例 (全例男児) の小学1年心検時のECGを入手し検討した。3. 健常小児の心臓超音波所見の基準値作成に関する研究;3年間で健常小児1500名 (小、中、高の1年生男女別250名ずつ) を対象に、統一された記録手順で前方視的に収集する。体格値 (身長・体重)、血圧、運動量と心筋厚との関係を検討する。12誘導心電図も記録し、心臓超音波所見との比較検討も行う。初年度はKセンターで行った61名の心臓超音波所見について検討した。4. 心筋症患児情報の収集と抽出基準・診断基準の作成に関する研究;小児期心筋症患児の心電図、心臓超音波所見を含めた患児情報を収集する。承諾が得られたら心筋症の責任遺伝子を解明する。初年度は小児期心筋症患児の一次調査を行った。Kセンター患児の遺伝学的検査も開始した。(倫理面への配慮)本研究で行われる研究は、すべて各研究施設の倫理委員会で許可を得た場合のみ行い、「倫理指針」を遵守して行った。
結果と考察
1. 全波形での平均値 (心拍数、RR間隔、PQ間隔、QRS幅、電気軸、心室興奮時間)、12誘導全ての誘導でのP波、QRS波、ST部分、T波について、平均値、標準偏差、最大値、最小値を作成した。疾患の頻度が予測される場合にどの値で抽出すればいいかを示すために、パーセンタイル値と予測される頻度も示した。2. 新規に検討した項目、V3誘導でのR波とS波の加算値 (RV3+SV3≧5.3 mV) により、9名中3名は小学1年時に抽出可能と考えられた。抽出可能な3例は、思春期に著明な心筋肥大出現1例、院外心停止1例、突然死1例の3例であった。早期の生活指導、治療介入によって院外心停止予防対策についての検討が可能と考えられた。3.初年度は各施設の倫理委員会の承認を得る必要があり全施設を含め初回実施日が平成28年2月7日であった。全国7施設において2か月弱で149名実施できており、平成28年度以降は単年度500名以上の実施は可能である。Kセンターで行われた61例という小数例の検討において、心室筋厚には学年別、性別に有意差を認めた。4. 一次調査で全国16施設から心筋症患児449例の報告があった。内訳はHCM 159例、拡張型心筋症 137例、心筋緻密化障害 104例、拘束型心筋症 34例、催不整脈性右室心筋症 15例であった。5. その他の研究;T大学における小児期心筋症の臨床像と予後に関する研究、学校災害共済給付制度に報告された心事故例のうち原因がHCM と判断された例の検討、次世代シーケンサーを用いた心筋緻密化障害の臨床遺伝学的検討、催不整脈性右室心筋症のコピー数多型に関する研究、進行性心臓伝導障害の新規疾患遺伝子に関する研究成果も得た。
結論
健常児48,401名の心電図データを用いることにより、数万人に1人という希少疾患である心筋症の抽出基準を作成することが可能と考えられた。心臓超音波データの収集も今後3年間で1500例の収集と年齢・性別の心臓超音波学的診断基準作成が可能と考えられた。小児期心筋症の一次調査において計449例の報告があり、今後二次調査により各心筋症の臨床的特徴および遺伝学的背景の解明が可能と考えられた。
公開日・更新日
公開日
2017-03-31
更新日
-