低出生体重児消化管機能障害の疾患概念確立にむけた疫学調査研究

文献情報

文献番号
201510008A
報告書区分
総括
研究課題名
低出生体重児消化管機能障害の疾患概念確立にむけた疫学調査研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-010
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
奥山 宏臣(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 早川 昌弘(名古屋大学医学部附属病院周産母子センター新生児学)
  • 漆原 直人(静岡県立こども病院 小児外科)
  • 望月 響子(神奈川県立こども医療センター 外科)
  • 横井 暁子(兵庫県立こども病院 小児外科)
  • 白石 淳(大阪府立母子保健総合医療センター新生児科)
  • 藤永 英志(国立成育医療センター新生児科)
  • 大橋 研介(日本大学医学部小児外科)
  • 永田 公二(九州大学大学院医学研究院小児外科学分野小児外科)
  • 大藤 さとこ(大阪市立大学大学院医学研究科 公衆衛生学)
  • 天江 新太郎(宮城県立こども病院外科)
  • 古川 泰三(京都府立医科大学小児外科)
  • 矢内 俊裕(茨城県立こども病院 小児外科)
  • 田附 裕子(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 )
  • 皆川 京子(兵庫医科大学小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
1,030,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
周産期医療の進歩により、低出生体重児の救命率は改善傾向にあるが、出生体重1500g未満の極低出生体重児においては、種々の臓器の未熟性に起因する合併症が周産期医療における大きな課題となっている。なかでも消化管機能障害は、極低出生体重児によくみられる重篤な合併症であり、生命予後だけでなく長期予後を左右する重要な因子である。しかし、これらの消化管機能障害の発症原因は明らかではなく、有効な予防法や治療法が確立されていない。そこで本研究では極低出生体重児にみられる壊死性腸炎、特発性腸穿孔、胎便関連性腸閉塞といった消化管機能障害の疾患概念を確立して、診療ガイドラインを作成することを目的とした。
研究方法
全国規模の多施設共同症例対照研究を行い、各疾患の発症関連要因・予防要因調査を実施し、特発性腸穿孔ならびに胎便関連性腸閉塞の発症頻度は壊死性腸炎と同程度であること、その背景因子はそれぞれの疾患毎に異なっていること、消化管機能障害例の予後は対照群に比べて不良なこと、中でも壊死性腸炎の予後が最も不良なことを報告してきた。これらの結果に基づき、壊死性腸炎、特発性腸穿孔、胎便関連性腸閉塞の診療ガイドラインを作成する。MINDsによる「診療ガイドライン作成の手引き2014」に準拠し、極低出生体重児の消化管機能障害診療ガイドラインを作成する。まずClinical Question、PICOを作成後に、データベース(Pubmed, Cochrane,医学中央雑誌、National Guideline Cleaninghouse, International Guideline Library)をもとに文献検索を行う。1、2次スクリーニング後に、システマティックレビューを行い、エビデンス総体を評価する。最後に推奨文、ガイドライン草案を作成し、パブリックコメント募集、外部評価を行い、ガイドラインの最終化を行う。
結果と考察
2015年5月 CQ、PICO作成、SRチーム作成
2015年6月 文献検索(Pubmed, Cochrane,医中誌、National Guideline Cleaninghouse, International Guideline Library)
2015年7月~8月 1、2次スクリーニング完了
2015年9月~11月 システマティックレビュー、エビデンス総体の評価
2015年12月 推奨文作成、ガイドライン草案作成
2015年2月 パブリックコメント
2015年3月 AGREEⅡによる外部評価は Rate the overall quality of this guideline 5/7 で、recommendation可 の結果であった。
壊死性腸炎、特発性腸穿孔、胎便関連性腸閉塞についての文献検索を行ったが、壊死性腸炎以外は十分なエビデンスが得られなかった。今後は、特発性腸穿孔ならびに胎便関連性腸閉塞の疾患概念の確立とともに、これらに関するエビデンスレベルの高い臨床研究の必要性が示された。
結論
本ガイドライン統括委員会の代表は大阪大学大学院医学系研究科外科学講座小児成育外科学とする.
大阪大学大学院医学系研究科外科学講座小児成育外科学のホームページにて本ガイドラインを公開する.
本ガイドラインの改訂を5年後に予定し,改訂グループの組織体制構築に関しては,大阪大学大学院医学系研究科外科学講座小児成育外科学が中心となり,新たにガイドライン改訂グループを組織する.推奨文を大幅に変更する必要があると委員会が判断した場合には,ガイドライン作成グループを招集し,協議の後に,本ガイドラインの使用の一時中止もしくは改訂をウェブサイトで勧告し,全面改訂を実施する予定である.ガイドライン失効に関する協議は,ガイドライン作成事務局,ガイドライン作成グループとともに協議する.

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

文献情報

文献番号
201510008B
報告書区分
総合
研究課題名
低出生体重児消化管機能障害の疾患概念確立にむけた疫学調査研究
課題番号
H26-難治等(難)-一般-010
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
奥山 宏臣(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 早川 昌弘(名古屋大学医学部附属病院周産母子センター新生児学)
  • 漆原 直人(静岡県立こども病院 小児外科)
  • 望月 響子(神奈川県立こども医療センター 外科)
  • 横井 暁子(兵庫県立こども病院 小児外科)
  • 白石 淳(大阪府立母子保健総合医療センター新生児科)
  • 藤永 英志(国立成育医療センター新生児科)
  • 大橋 研介(日本大学医学部小児外科)
  • 永田 公二(九州大学大学院医学研究院小児外科学分野小児外科)
  • 大藤 さとこ(大阪市立大学大学院医学研究科 公衆衛生学)
  • 天江 新太郎(宮城県立こども病院外科)
  • 古川 泰三(京都府立医科大学小児外科)
  • 矢内 俊裕(茨城県立こども病院 小児外科)
  • 田附 裕子(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科 )
  • 皆川 京子(兵庫医科大学小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(難治性疾患政策研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
周産期医療の進歩により、低出生体重児の救命率は改善傾向にあるが、出生体重1500g未満の極低出生体重児においては、種々の臓器の未熟性に起因する合併症が周産期医療における大きな課題となっている。なかでも消化管機能障害は、極低出生体重児によくみられる重篤な合併症であり、生命予後だけでなく長期予後を左右する重要な因子である。しかし、これらの消化管機能障害の発症原因は明らかではなく、有効な予防法や治療法が確立されていない。そこで本研究では極低出生体重児にみられる壊死性腸炎(NEC)、特発性腸穿孔(FIP)、胎便関連性腸閉塞(MRI)といった消化管機能障害の疾患概念を確立して、診療ガイドラインを作成することを目的とした。
研究方法
2003年1月から2012年12月までの期間に、消化管機能障害(NEC、FIP、MRI、MP、その他)に対して開腹手術を受けた極低出生体重児(出生体重≦1500g)を対象として、多施設共同症例対照研究を行い、各疾患の発症関連要因・予防要因調査ならびに生命予後調査を実施した。対照は、各症例に対して、在胎期間と出生体重が対応する2例の患者(消化管機能障害非手術例)を選定した。症例と対照の診療録より収集した項目は、母体の背景因子、児の発症前背景因子などである。データ解析では、症例と対照の特性比較で差を認めた因子、および過去の研究から疾患との関連が疑われる因子について、conditional logistic regression modelによりオッズ比(OR)、95%信頼区間を算出した。次にMINDsによる「診療ガイドライン作成の手引き2014」に準拠し、3疾患(壊死性腸炎、特発性腸穿孔、胎便関連性腸閉塞)の診療ガイドラインを作成した。
結果と考察
症例187例、対照367例を解析対象とした。疾患全体の発症関連因子として、双胎以上(OR=2.39)、母体ステロイド投与(OR=0.38)、男児(OR=1.69)、サーファクタント投与(OR=2.96)、動脈管開存症(OR=1.71)、インダシン投与(OR=2.16)、母乳による経腸栄養(OR=0.30)、を認めた。疾患別では、NECで双胎、男児、インダシン投与によるOR上昇、母体ステロイド投与によるOR低下、FIPで動脈管開存症によるOR上昇、母体ステロイド投与や経腸栄養(母乳)によるOR低下、MRIで双胎、サーファクタント投与によるOR上昇、母体ステロイド投与や経腸栄養(母乳)によるOR低下、を認めた。1年生存率は、NEC 61%、FIP 86%、MRI 79%、対照群92%であった。NECで有意に生存率が低かった。MRIは消化管穿孔を伴わない症例が多く含まれたが、消化管穿孔の有無による生命予後の差は認めなかった。NECは母体年齢(31才以上)が、FIPは出生体重(650g以下)が、MRIは男児であることと発症時の嘔吐が、それぞれ予後不良と関連した因子であることが明らかとなった。
以上の結果を基に診療ガイドラインを作成した。NEC、FIP、MRI 毎にClinical Question、PICOを作成した。文献検索はPubmed, Cochrane,医学中央雑誌、National Guideline Cleaninghouse, International Guideline Libraryのデータベーを用いて行い、さらに1、2次スクリーニングを行った。2次スクリーニングで残った文献をもとに各CQ毎にシステマティックレビューを行った。最後に推奨文、ガイドライン草案を作成し、パブリックコメント募集、外部評価を行い、ガイドラインを最終化した。
結論
消化管機能障害の発症に関連がみられた母体の因子は、双胎↑、母体ステロイド投与↓、児の因子では、男児↑、サーファクタント投与↑、動脈管開存症↑、インダシン投与↑、経腸栄養(母乳)↓、であった。また、疾患の病態に関連する因子として、院外出生↑、入院時日齢(出生日の翌日以降)↑、胎便排泄遅延↑、グリセリン浣腸↓、ガストロ注腸↑、消化管出血↑、を認めた。本結果は、診療ガイドラインの作成に有用な基礎資料となった。
ガイドラインに対するAGREEⅡによる外部評価は、Rate the overall quality of this guideline 5/7であった。本ガイドライン統括委員会の代表は大阪大学大学院医学系研究科外科学講座小児成育外科学として、大阪大学大学院医学系研究科外科学講座小児成育外科学のホームページにて本ガイドラインを公開予定である。本ガイドラインの改訂を5年後に行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2016-07-19
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201510008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
極低出生体重児の消化管機能障害の手術症例を対象として、全国規模の多施設共同症例対照研究を行い、壊死性腸炎、特発性腸穿孔、胎便関連性腸閉塞の発症関連要因・予防要因調査を実施した。その結果、3疾患の発症頻度は同程度であること、背景因子はそれぞれの疾患毎に異なっていること、消化管機能障害例の予後は対照群に比べて不良なことが明らかとなった。これらの結果に基づき、極低出生体重児の消化管機能障害の診療ガイドラインを作成した。これまでこれら3疾患別の診療ガイドラインは存在せず、新しい試みとなった。
臨床的観点からの成果
周産期医療の進歩により、低出生体重児の救命率は改善傾向にあるが、出生体重1500g未満の極低出生体重児においては、種々の臓器の未熟性に起因する合併症が周産期医療における大きな課題となっている。なかでも消化管機能障害は、極低出生体重児によくみられる重篤な合併症であり、生命予後だけでなく長期予後を左右する重要な因子である。今回の研究結果ならびにそれに基づいた診療ガイドラインは、極低出生体重児の消化管機能障害の予後の改善に貢献できるものと考えられる。
ガイドライン等の開発
MINDsによる「診療ガイドライン作成の手引き2014」に準拠し、極低出生体重児の消化管機能障害診療ガイドラインを作成した。まず壊死性腸炎、特発性腸穿孔、胎便関連性腸閉塞の疾患ごとにClinical Questionを作成後に、データベース(Pubmed, Cochrane,医学中央雑誌など)をもとに文献検索を行った。1、2次スクリーニング後に、システマティックレビューを行い、パブリックコメント募集、外部評価を行った。AGREEⅡによる外部評価は、5点(7点満点中)であった。
その他行政的観点からの成果
出生数の減少とは対照的に、早産率の上昇に伴い低出生体重児の出生数は増加傾向にある。従って低出生体重児の救命率ならびに長期予後を改善する取り組みは、一時的な医療費の抑制という効果ばかりでなく、極端な少子高齢社会へと移行しつつあるわが国の将来像を描いて行く上でも極めて重要な課題と考えられる。また研究成果を難病情報センターならびに関連学会のホームページにおいて公開することにより、対象疾患に関する情報や研究成果を患者および国民に広く普及させることができる。
その他のインパクト
第24回アジア小児外科学会 (2016.4.23-26) にてKeynote Lecture(タイトル:Risk factors for surgical intestinal complications in very low birth weight infants)を行った。
第51回日本周産期新生児医学会学術集会(2015.7.10-12)にてシンポジウム:SGA児の長期予後改善にむけた周産期管理において『SGA児の消化管機能障害』を主題に発表した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
5件
2019NEC symposium@ann arbor
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
国際学会でのkeynote lecture、国内学会でのシンポジウムで研究成果を発表し、極低出生体重児の消化管機能障害の疾患概念の普及に努めた。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
1. Hiroomi Okuyama, Satoko Ohfuji, Masahiro Hayakawa, et al
Risk factors for surgical intestinal disorders in very low birth weight infants: A multicenter case-control study
Pediatric international , 58 , 34-39  (2016)
10.1111/ped.12815
原著論文2
2. Masahiro Hayakawa, Tomoaki Taguchi, Naoto Urusihara, et al
Outcomes in VLBW infants with surgical intestinal disorders at 18 months of corrected age.
Pediatric international , 57 , 633-638  (2015)
10.1111/ped.12594
原著論文3
3. 奥山宏臣、低出生体重児消化管機能障害の疾患概念確立にむけた疫学調査研究班
SGA 児の長期予後改善にむけた周産期管理 SGA児の消化管機能障害ー胎便関連性腸閉
日本周産期新生児医学会雑誌 , 51 (5) , 21-23  (2016)
原著論文4
4. Kyoko Mochizuki, Masahiro Hayakawa, Naoto Urushihara et al.
Timing and outcome of stoma closure in very low birth weight infants with surgical intestinal disorders
Surgery today  (2017)
10.1007/s00595-017-1498-6
原著論文5
5. 奥山宏臣
低出生体重児の消化管機能障害―疾患概念と病態―
日本周産期新生児医学会雑誌 , 52 (4) , 1009-1017  (2016)

公開日・更新日

公開日
2017-05-25
更新日
2019-06-06

収支報告書

文献番号
201510008Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,038,000円
(2)補助金確定額
3,038,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 413,042円
人件費・謝金 0円
旅費 1,162,308円
その他 762,761円
間接経費 700,000円
合計 3,038,111円

備考

備考
利息22円+自己資金89円=111円の差異となりました。

公開日・更新日

公開日
2018-06-13
更新日
-