若年乳がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する心理支援体制の構築

文献情報

文献番号
201507016A
報告書区分
総括
研究課題名
若年乳がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する心理支援体制の構築
課題番号
H26-がん政策-一般-017
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 直(聖マリアンナ医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 大須賀 穣(東京大学 医学部)
  • 小泉 智恵(独立行政法人国立成育医療研究センター・研究所副所長室付)
  • 津川 浩一郎(聖マリアンナ医科大学 医学部)
  • 杉本 公平(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 野木 裕子(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 川井 清考(高木 清考)(医療法人鉄蕉会亀田総合病院 不妊生殖科)
  • 福間 英祐(医療法人鉄蕉会亀田総合病院 乳腺科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
5,690,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究1:臨床試験(O!PEACE試験)によりエビデンスを検討する事(研究1)、若年乳がん患者の心理支援法を開発することを目的としている。研究2:若年乳がん患者に心理社会的ケアを提供するための組織体制を構築するための需要と問題点を把握し、臨床試験(O!PEACE試験)の結果を踏まえて、がん・生殖医療専門臨床心理士の育成を謀ることがその目的となる。
研究方法
研究1:前年度作成に至った臨床試験(O!PEACE: Oncofertility! Psycho-Education And Couple Enrichment therapy試験)を研究参加施設の倫理審査に提出し、承認を得た後に臨床試験を開始する。
研究2:最終年度の課題である心理支援体制の構築に向けて、第1に、欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)、米国生殖医学会(ASRM)、Oncofertility Consortium (米国Northwestern大学)を視察。第2に、全国のがん診療連携拠点病院または生殖補助医療登録施設などの臨床心理士または心理支援担当者を対象として、我々研究班の研究成果を活用してがん患者の妊孕性温存に関する医学的知識と心理士が提供する心理支援を包括的に研修する目的で、日本対がん協会助成金を賜り「若年がん患者の妊孕性温存に関する心理支援セミナー」を平成27年10月12日に国立成育医療研究センター講堂にて開催。
結果と考察
研究1:臨床試験の実施 前年度に研究計画を行い、研究主幹である聖マリアンナ医科大学の倫理審査で平成27年2月に承認を得た(承認番号2874号)。本臨床試験では、訓練された臨床心理士による2回完結の心理療法を実施し、通常診療に比べてO!PEACEが、改善効果があるか否かを、無作為化比較対象試験(対照群:通常診療に加えてO!PEACEによる介入を受ける群、統制群:医療情報の冊子を渡すのみの通常診療を受ける群)を実施して検討する。がん診断時に妊孕性喪失可能性というショックな出来事が重なって、抑うつ、不安、PTSDといった精神症状が多くなるときに、心理教育プログラムで介入をすると妊孕性温存診療に対する理解が進み、不安などストレス対処の方法を習得して精神症状が軽減し、夫婦参加することによって夫婦の相互理解のあるコミュニケーションになるといった効果が見込まれる。
研究2:心理支援体制の構築に向けた取り組み 最終年度の課題である心理支援体制の構築に向けて、第1に、欧州ヒト生殖医学会(ESHRE)、米国生殖医学会(ASRM)、Oncofertility Consortium (米国Northwestern大学)を視察した。その結果、がん患者の妊孕性温存における心理支援体制を確立しているのはNorthwestern大学のみで、ESHREはがん患者に限らず不妊患者に対する心理支援のガイドラインを作成していて、FertiPROTEKT、ASRMは組織としての心理支援は行っておらず、原則として心理支援は各施設に任せている状態であることが明らかになった。第2に、全国のがん診療連携拠点病院または生殖補助医療登録施設などの臨床心理士または心理支援担当者を対象として、我々研究班の研究成果を活用してがん患者の妊孕性温存に関する医学的知識と心理士が提供する心理支援を包括的に研修する目的で、日本対がん協会助成金を賜り「若年がん患者の妊孕性温存に関する心理支援セミナー」を平成27年10月12日に国立成育医療研究センター講堂にて開催した。
結論
当研究班が関与している日本がん・生殖医療研究会サイコソーシャル小委員会の先行研究から、「がんとわかって妊孕性の相談をしたときにPTSD症状がカットオフ以上の者は、カットオフ未満の者に比べて妊孕性温存の診療を受けた割合が有意に少なかった。」という予備調査の結果がある。先行研究から考察すると、がん患者の精神症状を低減することは妊孕性温存診療に関して落ち着いて考えて冷静に判断して意思決定をすることに繋がり、結果として、若年がん患者の妊孕性温存治療に関する自己決定(温存の可否)のサポートが可能となるものと推測している。我々の研究班によって開発されたO!PEACEと、構築された心理支援体制は一時的なものでなく、今後のより良い診療に活用されるように実際の診療に適用していく。さらに、本研究成果を乳がん以外の他のAYA世代がん患者のサバイバーシップ向上を志向した妊孕性温存に関する心理支援体制の構築を目指していく。

公開日・更新日

公開日
2016-06-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201507016Z