大規模化する食中毒原因菌の疫学的指標としてのDNA型別、ファージ 型別等の応用と新しい迅速型別の開発に関する研究

文献情報

文献番号
199800482A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模化する食中毒原因菌の疫学的指標としてのDNA型別、ファージ 型別等の応用と新しい迅速型別の開発に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
田村 和満(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺治雄(国立感染症研究所)
  • 竹田多恵(国立小児病院研究所)
  • 保科定頼(慈恵医大学医学部)
  • 宮本秀樹(静岡県環境衛生研究所)
  • 山井志朗(神奈川県衛生研究所)
  • 寺島 淳(国立感染症研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 新興・再興感染症研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
22,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年のサルモネラ、腸炎ビブリオおよび腸管出血性大腸菌等による食中毒は大規模化と同時にグロウバル化してきている。とくに平成10年度は広域な食中毒事件の発生があり、その疫学的解析に遺伝学的およびファージ型別等が用いられた。
研究方法
研究方法および結果=本研究事業は2年目で、各研究者の研究テーマはつぎのような課題で進められた。
1)腸管出血性大腸菌(O157以外の血清型)およびサルモネラの生化学的および血清型別による疫学的研究ー田村和満:S.Enteritidisの感染事例はその推定原因食品がタマゴおよびその加工食品が主でその発生は平成10年度も一位であったが、その中で硫化水素陰性のS.Enteritidisの集団事例が4件発生した。サルモネラの選択分離培地は
硫化水素産生性が指標になるので、このような例外性状をもつS.Enteritidisは現場の菌分離を困難にするため、第72回日本細菌学会総会で忠告をした。また、S.Typhimurium DT104について過去の保存菌株より、その存在を確認した。
2)サルモネラの分子疫学的研究ー渡辺治雄:SEのファージ型別では集団食中毒由来株において、PT1およびPT4の合計が77%に達していることがわかった。さらに、PT1のDNA型は比較的多様であるのに対しPT4は全て極めて近縁なDNA型であったことが再確認された。
3)腸管出血性大腸菌、S.Enteritidis(SE)のファージ型別およびDNA型別を用いての疫学的研究ー寺島淳:O157については、イクラの醤油漬けによる事例のように複数の都府県にまたがる同時多発型の発生が明らかになっている。DNA型でみると、O157は1997年における1412株のヒト由来株でも数百種類以上におよびその多様性が明らかになった。
4)フィンガープリント法を用いての各種食中毒原因菌の型別ー保科定頼:供試菌株はS.Enteritidis 49株、S.Typhimurium 32株を用いた。DNAフィンガープリント領域は、米国コロンビア大学の微生物研究室との共同研究が進んでいる。すなわち、グラム陰性桿菌にはpromiscuous(雑多な)プラスミドが存在するが、Inc P αプラスミド内のRK2,RP1,RP4,R68は菌種間に伝達され、宿主のDNA複製などを調節している。特に広域宿主のRK2プラスミドのkil Cフランキング領域であって、Oriを含めdna A結合配列をはさむアイテロン(繰り返し配列)をPCRプライマーとしてTTT CAT TGA
CAC TTG AGG GGCを選び出した。
5)病院由来株の腸管出血性大腸菌の解析ー竹田多恵:患者の重症化の予防及び、汚染源の拡散の防止を目的として、病院から分離される腸管出血性大腸菌(EHEC)について疫学的研究を行う。平成10年4月1日~11月17日に全国の病院から送られたEHEC 感染が疑われる23症例 (151便検体:101血清)を調べた。ELISA による患者血清中の抗LPS抗体価は、国内で分離されている LPS10種を固相として測定した。検体中の志賀毒素(Stx)検出にはオーソVT1/VT2 検出キットを用いた。臨床症状は、下痢10例、血便10例、HUS2例、不明1例であった。便検体から分離された株(21例)の血清型は、O157が15例、O26、O111、O164 が各1例であった。EHEC による下痢症は6月から8月の間に14例と夏期に多発する傾向があった(O157は10例)。罹患年齢は1歳9ヶ月から11歳6ヶ月までで、4歳以下の小児が全体の60.9%を占めていた。年齢別の臨床症状は、下痢は1歳~11 歳までほぼ全年齢に均一に見られたが、血便は4歳以下が80%を占めていた。HUSは2歳と5歳に各1例であった。
6)静岡県内の食中毒・感染症の疫学的調査と解析ー宮本 秀樹:平成10年(1~12月)の県内の食中毒発生事例は47 件、患者1,520人であった。その内訳は次の通りである。(1)腸炎ビブリオ(18件,75%、患者615人,37%)は10年ぶりに夏期(7月半ば~10月初め)に集中多発し、新しく O3:K6 型菌が10件, 56% も占めた。(2)SRSV(7件,21%、765人,46%)は冬期(1~3月)に多発し、その大型集団食中毒(2月14 日、天竜一円、患者 644人、国内歴代 5位)が発生した。 (3)ウエルシュ菌(計3件、118人)は最近増加傾向にある。(4)その他の食中毒ではサルモネラ(S.E,1件)、VTEC感染症も18 件、20人(O157 ,17人、O114:H7, 2人、O26:H11 ,1人)と昨年より半減した。
7)神奈川県内の食中毒・感染症の疫学的調査と解析ー山井志朗:今年度の流域下水道水の調査結果から、一部地域でSEによる潜在的患者発生もしくは汚染源の存在が推測され、本菌流行の継続が裏付けられた。今後、調査対象に市町村単独下水道終末処理施設を加えることにより、地域の絞り込みと詳細な潜在的汚染源の解明が可能となり、感染症の早期発見、拡大防止の基礎資料とすることができる。



結果と考察
結論

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