縦断的レセプトデータを用いた医療・介護サービス利用状況の地域間比較

文献情報

文献番号
201501029A
報告書区分
総括
研究課題名
縦断的レセプトデータを用いた医療・介護サービス利用状況の地域間比較
課題番号
H25-政策-若手-014
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
成瀬 昂(東京大学 大学院医学系研究科(地域看護学分野))
研究分担者(所属機関)
  • 辻哲夫(東京大学高齢社会総合研究機構)
  • 飯島勝矢(東京大学高齢社会総合研究機構)
  • 永田智子(東京大学 大学院医学系研究科(地域看護学分野) )
  • 蔭山正子(東京大学 大学院医学系研究科(地域看護学分野) )
  • 岩本康志(東京大学経済学研究科)
  • 両角良子(富山大学経済学部)
  • 湯田道生(中京大学経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
2,739,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本では、在宅医療の体制構築が急務となっている。住民は、健康保険による医療サービス、介護保険による介護サービス等を組み合わせて生活しており、各人にかかわるサービス間で適切な協働・連携体制が組まれるようにすることが、より質の高い在宅医療の提供体制の構築につながると解釈される。
ここで、サービスの利用が地域特性によって影響される可能性に注目する。地域特性としては、医療・介護・福祉サービスの所在・分布・人口や高齢者人口あたりの充足状況に着目し、これらの指標が異なる地域間(都市部と山間部等)で、住民のサービス利用状況を比較することで、より必要性の高いサービス資源を提示することができると考える。
本研究は、ある県全域で、住民の医療・介護サービスの利用状況を縦断的に調査し、住民の対象像ごとにサービス利用状況を地域特性によって比較すること、を目的とする。
研究方法
3年間で、A県全域の住民を対象に、平成23年4月~平成26年3月の各月のデータ(国民健康保険の医療レセプトデータ、国民健康保険の特定健診データ、後期高齢者医療制度の医療レセプトデータ、国民健康保険加入者の介護保険給付データ)を取得し、保険の個人番号を用いて可能な限り個人単位で接合した。接合したデータを用いて、要介護度・年齢・性別、および既往歴(過去6か月内の任意疾患のレセプト発行がある場合既往あり)、から、住民を対象者像で層化した。対象者層のうち、データの個人単位の接合が十分可能で、医療・介護サービス利用者数が十分な群として、主に75歳以上・要介護高齢者を主な解析対象とした。
平成26年度、75歳以上・要介護高齢者のサービス利用状況に影響する地域特性として、行政・医療の専門家28名へのヒアリングと、地理情報システムを活用した地域特定変数(サービスアクセシビリティ指標)を開発した。本年度は、さらに他サービス(訪問介護、通所介護、通所リハビリ、在宅療養支援診療所)のアクセシビリティ指標を算出し、サービス利用・および入院日数との関連を検討した。
結果と考察
マルチレベル分析の結果、市町のサービスアクセシビリティ指標とサービス利用に有意な正の関連が見られたのは、要介護1-3高齢者では通所リハビリ、要介護4-5高齢者で訪問看護のみであった。特定の対象・サービス種でのみ有意な関連が見られたことから、現在の10分圏内アクセシビリティ指標は、「サービスのアクセスしやすさ」を表すことは間違いない一方で、事業所過密地域の事業所間の競合や、過疎地域での他サービスとの代替・補完による利用控えの影響を考慮できていないことが考えられた。さらにマルチレベル分析の結果、市町の在宅療養支援診療所のアクセシビリティ指標が高いことと、入院日数が短いことが、入院日数を10日以上/未満、25日以上/未満の2通りの従属変数を用いた2つのモデルの双方で確認された。
「サービスのアクセスしやすさ」を表すアクセシビリティ指標を算出するために用いる、web上で操作できるプログラムを開発した。これは、自治体職員が、自地域の「小地区(町丁単位)」単位の人口データ(対象の年齢は任意)、関心種類の事業所の住所情報(もしくは緯度・経度情報)を入力するだけで、簡単に該当市町のアクセシビリティ指標が算出される。事業所の住所が詳しくわからない場合は、地図上で空間を指定することでポイントされるため、文字・数値情報が少ない場合にも活用しやすいよう工夫した。
結論
本研究の結果、各市町の医療・介護サービスの提供体制の重要な変数として、資源配置の適切性を表す「アクセシビリティ指標」が開発された。さらに、この指標を市町村職員が簡便・任意に算出できるようにするためのwebシステムを作成した。平成27年度以降、在宅医療・介護連携推進事業として、市町村は地域内の医療・介護資源の地理的配置の適切性を評価し、改善に務めるよう求められている。本研究で開発したwebシステムを使うことによって、医療・介護資源の地理的配置の適切性を数値化することが可能となる。この指標は、実態評価、および計画策定の目標値として活用可能である。また、webシステムは、医療・介護資源を追加配置した場合のシミュレーションを行うことも可能とするため、具体的な新規事業所誘致計画を作成する際にも活用できる。

公開日・更新日

公開日
2016-11-11
更新日
-

文献情報

文献番号
201501029B
報告書区分
総合
研究課題名
縦断的レセプトデータを用いた医療・介護サービス利用状況の地域間比較
課題番号
H25-政策-若手-014
研究年度
平成27(2015)年度
研究代表者(所属機関)
成瀬 昂(東京大学 大学院医学系研究科(地域看護学分野))
研究分担者(所属機関)
  • 辻哲夫(東京大学高齢社会総合研究機構)
  • 飯島勝矢(東京大学高齢社会総合研究機構)
  • 永田智子(東京大学 大学院医学系研究科(地域看護学分野) )
  • 蔭山正子(東京大学 大学院医学系研究科(地域看護学分野) )
  • 岩本康志(東京大学経済学研究科)
  • 両角良子(富山大学経済学部)
  • 湯田道生(中京大学経済学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本では、在宅医療の体制構築が急務となっている。住民は、健康保険による医療サービス、介護保険による介護サービス等を組み合わせて生活しており、各人にかかわるサービス間で適切な協働・連携体制が組まれるようにすることが、より質の高い在宅医療の提供体制の構築につながると解釈される。
ここで、サービスの利用が地域特性によって影響される可能性に注目する。地域特性としては、医療・介護・福祉サービスの所在・分布・人口や高齢者人口あたりの充足状況に着目し、これらの指標が異なる地域間(都市部と山間部等)で、住民のサービス利用状況を比較することで、より必要性の高いサービス資源を提示することができると考える。
本研究は、ある県全域で、住民の医療・介護サービスの利用状況を縦断的に調査し、住民の対象像ごとにサービス利用状況を地域特性によって比較すること、を目的とする。
研究方法
3年間で、A県全域の住民を対象に、平成23年4月~平成26年3月の各月のデータ(国民健康保険の医療レセプトデータ、国民健康保険の特定健診データ、後期高齢者医療制度の医療レセプトデータ、国民健康保険加入者の介護保険給付データ)を取得し、保険の個人番号を用いて可能な限り個人単位で接合した。まず、要介護高齢者の新規発生(要介護認定を受けていない者がその後12か月間に要介護認定を受けること)件数とその背景疾患に焦点をあて、福井県内17市町の発生率を比較した。その後、要介護度・年齢・性別、および既往歴(過去6か月内の任意疾患のレセプト発行がある場合既往あり)、から、住民を対象者像で層化した。対象者層のうち、データの個人単位の接合が十分可能で、医療・介護サービス利用者数が十分な群として、主に75歳以上・要介護高齢者を主な解析対象とした。
平成26年度、75歳以上・要介護高齢者のサービス利用状況に影響する地域特性として、行政・医療の専門家28名へのヒアリングと、地理情報システムを活用した地域特定変数(サービスアクセシビリティ指標)を開発し、医療・介護サービス利用、および入院日数との関連を検討した。
結果と考察
新規要介護認定を受けた高齢者が認定前6か月間に受けた医療レセプトの疾患コードを集計した。男性では脳梗塞・脳出血で受療した者が16.9%、女性では、骨折(11.4%)が多かった。各市町によって、新規に発生する要介護者の状態像と原因に差があるため、各市町で発生件数の多い要介護度とその背景疾患を集計し、市町の要介護者発生リスクの様態にあわせた対策を講じる必要があると考えられた。
75歳以上・要介護高齢者を解析対象としたマルチレベル分析の結果、市町のサービスアクセシビリティ指標とサービス利用に有意な正の関連が見られたのは、要介護1-3高齢者では通所リハビリ、要介護4-5高齢者で訪問看護のみであった。特定の対象・サービス種でのみ有意な関連が見られたことから、現在の10分圏内アクセシビリティ指標は、「サービスのアクセスしやすさ」を表すことは間違いない一方で、事業所過密地域の事業所間の競合や、過疎地域での他サービスとの代替・補完による利用控えの影響を考慮できていないことが考えられた。さらにマルチレベル分析の結果、市町の在宅療養支援診療所のアクセシビリティ指標が高いことと、入院日数が短いことが、入院日数を10日以上/未満、25日以上/未満の2通りの従属変数を用いた2つのモデルの双方で確認された。さらにアクセシビリティ指標を算出するために用いる、web上で操作できるプログラムを開発した。
結論
要介護高齢者の新規認定の前に、脳梗塞等の疾患が発生しており、こうした生活習慣病の発生率の差が市町間の要介護高齢者の発生率の差を生み出していると考えられた。介護予防事業に、早期からの生活朱化病予防を取り入れることが重要である。
また、本研究の結果、各市町の医療・介護サービスの提供体制の重要な変数として、資源配置の適切性を表す「アクセシビリティ指標」が開発された。さらに、この指標を市町村職員が簡便・任意に算出できるようにするためのwebシステムを作成した。平成27年度以降、在宅医療・介護連携推進事業として、市町村は地域内の医療・介護資源の地理的配置の適切性を評価し、改善に務めるよう求められている。本研究で開発したwebシステムを使うことによって、医療・介護資源の地理的配置の適切性を数値化することが可能となる。この指標は、実態評価、および計画策定の目標値として活用可能である。また、webシステムは、医療・介護資源を追加配置した場合のシミュレーションを行うことも可能とするため、具体的な新規事業所誘致計画を作成する際にも活用できる。

公開日・更新日

公開日
2016-11-11
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201501029C

収支報告書

文献番号
201501029Z