拠点病院における地域医療情報との連携に向けた課題の整理と実効性の検証・運用維持に関する研究-地域医療情報の現状と課題、ならびに標準化作業におけるコスト評価

文献情報

文献番号
201451013A
報告書区分
総括
研究課題名
拠点病院における地域医療情報との連携に向けた課題の整理と実効性の検証・運用維持に関する研究-地域医療情報の現状と課題、ならびに標準化作業におけるコスト評価
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
藤井 進(佐賀大学附属病院 医療情報部)
研究分担者(所属機関)
  • 末岡榮三朗(佐賀大学医学部附属病院 検査部)
  • 中島直樹(九州大学病院 MIC)
  • 康 東天(九州大学病院 検査部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【委託費】 医薬品等規制調和・評価研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
33,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療情報データベース基盤整備事業(MID-NET)の拠点病院である佐賀大学病院(当院)を中心に、地域の医療情報の連結性・網羅性・標準化の実態を明らかにし、とりわけ標準化は拠点病院としての運用維持の費用問題と併せて検証し、精度や費用対効果・手法を確立することでMID-NETの充実強化に還元する。
研究方法
当院と九州大学病院(九大)での臨床検査の標準化を見直しMID-NETに参加後のコストの評価を行う。また地域の医療情報として、佐賀県の医療・検査機関の標準化に関しアンケート調査から、実施状況や意識調査を行い課題を明らかにする。地域の医療機関等がMID-NETに参画する場合の課題点や実態調査を合わせて行う。また標準化の工数削減を目指して半自動標準化ツールの開発と評価を行う。
結果と考察
当院の2014年度の検査に関する院内コードは2,142件あり、2012年度から18件の増加があった。また2013年度以降の変更は56件で、JLAC10コード(JLAC10)の付与は1,140件となった。その内、2012年度と同一の院内コードは811件あり、院内検査では142件、外注検査では293件が同一のJLAC10となった。

九大では、院内検査では281件、外注検査では245件が同一のコードであった。2011年度から残存率は院内検査で81.4%、外注検査では78.5%であった。新規発生コードが院内検査で576件、外注検査で736件となった。共通率(残存率)は、それぞれ67.2%と75%でありJLAC10付与の対象は残存率より、新規の検査コードの発生率が問題となった。

地域医療情報の実態調査は佐賀県臨床検査精度管理委員会を通じアンケート調査を行い、59施設中21施設の回答が得られた。標準化は未実施が殆どで、標準化の必要性は感じるが、時間的な理由から標準化が実施できないという回答が多く、人材不足、知識不足への懸念があった。MID-NET参画には、同意取得が問題点として挙げられ、また地域連携や疾病管理といった、地域での直接的なメリットを要求する傾向があった。

半自動標準化ツールではレセプト電算コード(レセ電)と院内独自コードを紐づけ、JLAC10を抽出した。そこから検査マスタ内にある結果名称と診療行為名称やJLAC10の分析物名称で再抽出し準標準化コードを発番した。JLAC10の17桁では1.8%、分析物と識別では18.6%の正解が含まれる発番率となった。発番の内容評価は17桁では33.4%、分析物と識別では一致率が91.7%と高い結果となった。

拠点病院での標準化の維持には、当院の院内検査だけでもJLAC10の再付与で10%の解釈や間違い、15%の追加と変更があり定期的な見直しコストが必要と考える。JLAC10は選択に主観的要素が残され、懸念される測定方法など試薬承認番号から測定方法を一意で指定できるよう、選択補助情報の提供が工数削減と精度向上に必要であろう。

九大では同一のJLAC10は81%が残存したが、一方で576件(62%)の新規発生がある。検査機器の更新や外注先の変更による、測定方法や結果識別子の変更・増加が起因した。リース等の外的要因により年単位でJLAC10が大幅に変わる可能性がある。MID-NETに参画時にはこうしたタイミング問題があり、標準化の維持は残存率だけでなく新規発生率など考慮する必要がある。

地域での標準化は進んでおらず、人材不足の懸念から標準化を行う工数補助や、知識の不足に対するスキルの均てん化が課題となる。

MID-NETに参画する問題点に個人情報保護法の観点からも同意取得があり重要な課題がある。また国策レベルで副作用等の安全対策に資することは重要であるが、地域に密着したメリットのある利活用方法を要求された。検査値の地域での共有化や地域疾病管理などの評価システムを提案して具体的な検証が必要であろう。

半自動標準化ツールは、レセ電と検査結果名称からJLAC10との突合率は低いが、分析物と識別の組合せは91.7%の正解率がある。一方で検査マスタ上では分析物と識別が指定されれば、代表材料と結果識別子は特定され、JLAC10の分類が可能となる。測定法も1つで試薬から特定可能となる。つまりJLAC10の17桁を事実上発番できる可能性があり、今後の課題に院内検査マスタ側の整理や試薬情報、検査実績を利用した材料の補正があるが有用性が示唆された。
結論
標準化の維持は残存率だけでなく新規発生率など考慮したコスト対策が必要である。地域での標準化はされておらず、人材育成とその工数が課題となった。MID-NET参画には地域に密着した利活用方法が必要である。標準化工数削減ツールは検査マスタ側の整理や試薬情報、検査実績を利用し補正を加えれば有用性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201451013C

成果

専門的・学術的観点からの成果
①臨床検査の標準化はJLAC10コードと各施設特有のコードをマッピングすることにある。自動マッピングツールでは、判定が難しい測定方法を除けば86%の正解率となり、標準化における精度維持とコスト削減への有用性が示唆された。②匿名下での個人の名寄せでは、1つでは個人を特定しないが、複数を連結しIDを発行する方式で、個人を特定させることに成功した。実証実験では佐賀大学と同じ医療圏にある病院とで17,000人が名寄せされ、急性期と慢性期のデータ連結の可能性が示唆された。
臨床的観点からの成果
同じ医療圏のK病院、S検査センターにて標準化マッピングを完了した。新規導入であったことから、経験のある専任の研究員でも1施設当たり60時間相当が必要であり、導入時のコストは十分に確保する必要性があることが示唆された。また臨床検査標準化勉強会を開催し、標準化の精度管理には人材育成の必要性を確認したとともに、臨床検査の基準範囲などの精度管理につながり、標準化の有効性が確認された。地域の医療機関がMID-NETに参画する上で、標準化は実施事項であり、地域のインセンティブになり得ると示唆された。
ガイドライン等の開発
JLAC10(臨床検査値)のデータベース化や2次利用における問題点を明らかにし、JLAC11への改訂に反映された。JLAC10においては、試薬からJLAC10を特定するマッピングデータベースを作成し、3000件以上の試薬承認番号からJLAC10コードへの変換を可能とした。標準化の手引書、並びにガバナンス手引書を作成した。また自動マッピングツールを利用した標準化手引書を作成した。さらに地域医療情報の集積の為の提言書を作成した。
その他行政的観点からの成果
MID-NETでは急性期医療のデータに偏る可能性が高く、拠点病院の医療圏にある他の医療機関の医療情報を収集・統合・分析できる環境を構築し連結する必要がある。佐賀大学と同じ医療圏の医療機関で標準化を実施し、匿名化でシステム的に個人を名寄せ可能なことを実証した。また標準化が検査精度の向上に寄与し地域でのメリットとなった。これら環境が揃ったことは、急性期に偏るMID-NETの是正モデルの条件が整ったと言える。本技術を発展させる研究が日本学術会議の大型研究プランに認定された。
その他のインパクト
臨床的視点に近いが、日本医療情報学会や糖尿病学会らと推進する、糖尿病、高血圧、高脂血症、CKDのいわゆる疾病管理セットにおける検査項目に対して、どの程度の標準化が必要かを検証した。佐賀大学とK病院、S検査センターにおいてはJLAC10レベルでのコード違いはシスタチンCのみであった。しかしながら、基準範囲が違うことが判明し利活用において検査値の数値的な判断が課題となった。一方で基準範囲の共用化に課題があることが可視化され、標準化を行う1つの意義が明確になった。学会、JAHISにて成果報告を実施した

発表件数

原著論文(和文)
3件
項目コード(JLAC10)を用いた多施設間検査情報共有のための取り組みと問題点
原著論文(英文等)
1件
データ解析による利便性を立証した論文
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
31件
日本臨床検査医学会学術集会 シンポジウム 日本医療情報学会 その他
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
JAHIS、佐賀県での臨床検査標準化勉強会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Susumu Fujii,Sayuri Nonaka,Kazuma Fujimoto, al.
Infectious disease during hospitalization is the major causative factor for prolonged hospitalization: multivariate analysis of diagnosis procedure combination (DPC)data of 20,876 cases in Japan
Journal of Clinical Biochemistry and Nutrition , vol59 (No1) , 49-52  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
2018-06-21

収支報告書

文献番号
201451013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
33,210,000円
(2)補助金確定額
33,210,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 654,762円
人件費・謝金 5,915,060円
旅費 2,085,430円
その他 16,890,902円
間接経費 7,663,846円
合計 33,210,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
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