Chemical Virologyを基盤とした肝炎ウイルス感染増殖規定宿主因子の同定および新規抗ウイルス剤開発

文献情報

文献番号
201449011A
報告書区分
総括
研究課題名
Chemical Virologyを基盤とした肝炎ウイルス感染増殖規定宿主因子の同定および新規抗ウイルス剤開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
渡士 幸一(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 C型肝炎ウイルス(HCV)に対しては近年、ウイルス性因子を直接標的とするdirect acting antivirals (DAAs)が開発され、これにより治療成績の向上が認められている。しかしながらこれらの治療薬は高価であるためさらに安価かつ効果の高い抗HCV治療の達成が望まれている。一方B型肝炎ウイルス(HBV) に対する抗ウイルス剤としてはインターフェロン類および核酸アナログのみであり、新たな系統の抗HBV剤が求められる。そこで本研究では低分子化合物をプラットフォームとしたHBV, HCV生活環分子機序の解明およびこれを標的とした抗ウイルス剤開発を目的とする。
研究方法
 HBV感染にはHep38.7-Tet細胞の培養上清を約200倍濃縮した培養液を感染源として用い、これをHepG2-hNTCP-C4細胞に処理した。感染後培地に放出されるHBs抗原量をHBV感染の指標とした。一方HBV複製評価としては、Hep38.7-Tet細胞をテトラサイクリン除去培地下で培養することでHBV発現を誘導し、細胞内HBV DNAをリアルタイムPCRで定量した。感染性HCV粒子産生は、HCV JFH1をHuh-7.5.1細胞に感染させた後の培養上清を回収し、この培養上清中HCVの感染力価をフォーカス形成アッセイで定量することにより主に評価した。HCVゲノム複製活性はHCV遺伝子型2aのJFH1および遺伝子型1bのNN株をコードするサブゲノムレプリコンを用いて測定した。脂肪滴はBODIPY493/503で染色した。転写因子の活性は、ルシフェラーゼ遺伝子の上流にそれぞれの転写因子の結合エレメントを2-5回有するレポーターコンストラクトを用いたレポーターアッセイにより評価した。
結果と考察
 すでに我々が樹立したHepG2-hNTCP-C4細胞を用いて、HBV吸着・侵入阻害剤スクリーニング系を構築した。またすでに我々が樹立した高効率HBV複製細胞株Hep38.7-Tet細胞を用いて感度の良いHBV複製阻害剤評価系を構築した。また複製スクリーニング系を用いて得られたnocodazoleの抗HBV作用解析をおこない、これはHBV複製培養系だけではなくHBV感染系においても強い抗HBV効果を有することを見出した。一方で感染性HCV粒子産生を抑制する化合物flutamideおよびneoechinulin Bの作用機序の解析において、flutamideは脂肪滴におけるHCV粒子形成を阻害し、neoechinulin BはHCVゲノム複製過程を阻害することが明らかとなった。Flutamideは肝細胞におけるHCV粒子形成の場となることが知られている脂肪滴の形成を、HCV感染/非感染に関わらず減少させた。一方neoechinulin Bはliver X receptor (LXR)の転写活性を抑制し、脂質代謝、ホルモン代謝、薬物代謝に関わる遺伝子群の発現を低下させることが示唆された。
 以上のように今回、HBV吸着・侵入阻害剤および複製阻害剤を同定できるスクリーニング系を構築し、これらを利用してnocodazoleがHBV複製を阻害することを明らかとした。またHCV産生を阻害する化合物として同定されたflutamide、NeoBはHCV生活環中の異なるステップを阻害しており、これらはともに宿主因子を標的として細胞機能を修飾することによりHCV粒子形成あるいはHCVゲノム複製過程を阻害すると考えられた。
結論
 以上のように本研究では、ウイルス生活環中の異なるステップを阻害する抗HBV化合物および抗HCV化合物を同定した。今後さらにこれらの分子機序を詳細に解析することにより、宿主によるウイルス生活環制御機構が明らかになると期待される。またこれらの知見は新規創薬標的の同定および新たな標的を有する抗ウイルス剤の創出に貢献できると期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201449011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
C型肝炎ウイルス(HCV)産生を阻害する低分子化合物を同定し、これらを用いた解析により宿主の芳香族炭化水素受容体、肝臓X受容体がHCV産生の異なる段階を制御することを明らかにした。肝臓X受容体はHCVゲノム複製、芳香族炭化水素受容体はHCV粒子産生を制御しており、これらの阻害はそれぞれHCVゲノムRNAおよび感染性HCV粒子産生を低下させることが明らかとなった。一方でB型肝炎ウイルス(HBV)複製機構の一端も解析した。
臨床的観点からの成果
感染性HCV産生を阻害する低分子化合物を複数同定した。また重要なこととして、これらはそれぞれHCV生活環の中で異なったステップを阻害することから、これらどうし、あるいは既存の抗HCV剤と併用することによりさらに強い抗HCV効果を誘導できる点である。またHBV複製機序を解析したが、これにより新たな創薬標的が明らかになると期待される。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
本研究で明らかになった低分子化合物を用いて抗ウイルス剤を創出できれば、肝硬変、肝がんなどの大きな公衆衛生上の問題を解決できる可能性がある。また新薬によって著効率が上昇すれば医療費を大きく削減することが可能となる。
その他のインパクト
すでに我々が樹立したHepG2-hNTCP-C4細胞を用いて、HBV吸着・侵入阻害剤スクリーニング系の構築をおこなった。またすでに我々が樹立した高効率HBV複製細胞株Hep38.7-Tet細胞を用いたHBV複製阻害剤スクリーニング系の構築をおこなった。これらの実験系は国内外60施設以上に提供し、さまざまな研究に利用されていることから、本研究で得られた成果は当該研究コミュニティに大きな貢献をしている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
42件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
6件
学会発表(国内学会)
58件
学会発表(国際学会等)
32件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Daito T, Watashi K, Sluder A, et al.
Cyclophilin inhibitors reduce phosphorylation of RNA-dependent protein kinase to restore expression of IFN-stimulated genes in HCV-infected cells
Gastroenterology , 147 (2) , 463-472  (2014)
10.1053/j.gastro.2014.04.035
原著論文2
Kaneko M, Futamura Y, Tsukuda S, et al.
Chemical array system, a platform to identify novel hepatitis B virus entry inhibitors targeting sodium taurocholate cotransporting polypeptide
Sci Rep , 8 , 2769-2769  (2018)
10.1038/s41598-018-20987-w
原著論文3
Ogura N, Watashi K, Noguchi T, et al.
Formation of covalently closed circular DNA in Hep38.7-Tet cells, a tetracycline inducible hepatitis B virus expression cell line
Biochem Biophys Res Commun , 452 (3) , 315-321  (2014)
10.1016/j.bbrc.2014.08.029
原著論文4
Shimura S, Watashi K, Fukano K, et al.
Cyclosporin derivatives inhibit hepatitis B virus entry without interfering the NTCP transporter
J Hepatol , 66 (4) , 685-692  (2017)
10.1016/j.jhep.2016.11.009
原著論文5
Tsukuda S, Watashi K, Iwamoto M, et al.
Dysregulation of Retinoic Acid Receptor Diminishes Hepatocyte Permissiveness to Hepatitis B Virus Infection through Modulation of NTCP Expression
J Biol Chem , 290 (9) , 5673-5684  (2015)
10.1074/jbc.M114.602540
原著論文6
Ohashi H, Koizumi Y, Fukano K, et al.
Hepatitis C virus entry inhibitors for optimally boosting direct-acting antiviral-based treatments
Proc Natl Acad Sci USA , 114 (23) , E4527-E4529  (2017)
10.1073/pnas. 1705234114
原著論文7
Sato S, Li K, Kameyama T, et al.
The RNA Sensor RIG-I Dually Functions as an Innate Sensor and Direct Antiviral Factor for Hepatitis B Virus
Immunity , 42 (1) , 123-132  (2015)
10.1016/j.immuni.2014.12.016
原著論文8
Matsunaga H, Kamisuki S, Kaneko M, et al.
Isolation and structure of vanitaracin A, a novel anti-hepatitis B virus compound from Talaromyces sp.
Bioorg Med Chem Lett , 25 (19) , 4325-4328  (2015)
10.1016/j.bmcl.2015.07.067
原著論文9
Tasaka-Fujita M, Sugiyama N, Kang W, et al.
Amino Acid Polymorphisms in Hepatitis C Virus Core Affect Infectious Virus Production and Major Histocompatibility Complex Class I Molecule Expression
Sci Rep , 5 , 13994-13994  (2015)
10.1038/srep13994
原著論文10
Kaneko M, Watashi K, Kamisuki S, et al.
A Novel Tricyclic Polyketide, Vanitaracin A, Specifically Inhibits the Entry of Hepatitis B and D Viruses by Targeting Sodium Taurocholate Cotransporting Polypeptide
J Virol , 89 (23) , 11945-11953  (2015)
10.1128/JVI.01855-15
原著論文11
Nakajima S, Watashi K, Ohashi H, et al.
Fungus-derived neoechinulin B as a novel antagonist of liver X receptor, identified by chemical genetics using a hepatitis C virus cell culture system
J Virol , 90 (20) , 9058-9074  (2016)
10.1128/JVI.00856-16
原著論文12
Okuyama-Dobashi K, Kasai H, Tanaka T, et al.
Hepatitis B virus efficiently infects non-adherent hepatoma cells via human sodium taurocholate cotransporting polypeptide
Sci Rep , 5 , 17047-17047  (2015)
10.1038/srep17047
原著論文13
Iwamoto M, Cai D, Sugiyama M, et al.
Functional association of cellular microtubules with viral capsid assembly supports efficient hepatitis B virus replication
Sci Rep , 7 (1) , 10620-10620  (2017)
10.1038/s41598-017-11015-4
原著論文14
Kong L, Fujimoto A, Nakamura M, et al.
Prolactin Regulatory Element Binding Protein Is Involved in Hepatitis C Virus Replication by Interaction with NS4B
J Virol , 90 (6) , 3093-3111  (2016)
10.1128/JVI.01540-15
原著論文15
Kouwaki T, Okamoto T, Ito A, et al.
Hepatocyte Factor JMJD5 Regulates Hepatitis B Virus Replication through Interaction with HBx
J Virol , 90 (7) , 3530-3542  (2016)
10.1128/JVI.02776-15
原著論文16
Nishikori S, Takemoto K, Kamisuki S, et al.
Anti-hepatitis C Virus Natural Product from a Fungus, Penicillium herquei
J Nat Prod , 79 (2) , 442-446  (2016)
10.1021/acs.jnatprod.5b00555
原著論文17
Suzuki R, Saito K, Matsuda M, et al.
Single-domain intrabodies against hepatitis C virus core inhibit viral propagation and core-induced NFκB activation
J Gen Virol , 97 (4) , 887-892  (2016)
10.1099/jgv.0.000423
原著論文18
Tsukuda S, Watashi K, Hojima T, et al.
A new class of hepatitis B and D virus entry inhibitors, proanthocyanidin and its analogs, that directly act on the viral large surface proteins
Hepatology , 65 (4) , 1104-1116  (2017)
10.1002/hep.28952
原著論文19
Okamura H, Nio Y, Akahori Y, et al.
Fatty acid biosynthesis is involved in the production of hepatitis B virus particles
Biochem Biophys Res Commun , 475 (1) , 87-92  (2016)
10.1016/j.bbrc.2016.05.043
原著論文20
Koizumi Y, Ohashi H, Nakajima S, et al.
Quantifying antiviral activity optimizes drug combinations against hepatitis C virus infection
Proc Natl Acad Sci USA , 114 (8) , 1922-1927  (2017)
10.1073/pnas. 1610197114

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
2019-09-27

収支報告書

文献番号
201449011Z