ゲノム網羅的解析によるB型肝炎ウイルス感染の病態関連遺伝子の同定と新規診断法の開発

文献情報

文献番号
201449004A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム網羅的解析によるB型肝炎ウイルス感染の病態関連遺伝子の同定と新規診断法の開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
徳永 勝士(東京大学 大学院医学系研究科 人類遺伝学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 前仲 勝実(北海道大学薬学研究院・構造生物学)
  • 本多 政夫(金沢大学医薬保健研究域保健学系)
  • 脇田 隆字(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 西田 奈央(国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
  • 宮寺 浩子(国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
  • 松田 浩一(東京大学医科学研究所・シークエンス技術開発分野)
  • 横須賀 收(千葉大学大学院医学研究院・消化器)
  • 黒崎 雅之(武蔵野赤十字病院・ 消化器科)
  • 八橋 弘(国立病院機構長崎医療センター・ 臨床 研究センター)
  • 松本 晶博(信州大学医学部付属病院・肝疾患診療 相談センター)
  • 日野 啓輔(川崎医科大学・肝胆膵内科学)
  • 須磨崎 亮(筑波大学医学医療系 小児科学分野)
  • 楠本 茂(名古屋市立大学大学院医学研究科 血液・腫瘍内科学)
  • 持田 智(埼玉医科大学 消化器内科・肝臓内科)
  • 夏井坂 光輝(北海道大学大学院医学研究科・消化器内科)
  • 小池 和彦(東京大学医学部附属病院 消化器内科)
  • 武冨 紹信(北海道大学大学院医学研究科・消化器外科学分野Ⅰ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
60,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HBV持続感染、HBV線維化進展およびHBV関連肝癌に関連する宿主遺伝因子を網羅的に探索し、新規診断法の開発に応用する。
研究方法
1. 検体・臨床情報収集:全国の研究協力施設が検体(DNAおよび血清)および臨床情報を収集し、順次、昨年度までに整備した集中管理システムに登録、保管している。また、アジア各国との共同研究体制を整えた。
2. ゲノム解析:(1)AXIOM Genome-Wide ASI Arrayを用い、収集された検体についてゲノムワイドSNPタイピングを行い、病態別にゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施した。(2)日本人、韓国人、香港人、タイ人のHBV患者群および健常者群の約3,200検体についてHLA-DPA1およびHLA-DPB1のHLAタイピングを行い、関連解析を実施した。(3)ウイルス因子解析:持続感染および癌化に抵抗性を示すHLA-DPB1*02:01アリルを持つ患者群についてNGSを用いたウイルス配列決定を行い、各病態に特有のアミノ酸配列を抽出した。
3. 機能解析:B型肝炎慢性化に感受性・抵抗性および中立性アリルの組換えHLA-DPタンパク質の発現系を構築し、さらにウイルス抗原ペプチドとの結合測定を実施した。また、化合物スクリーニング手法を検討した。
結果と考察
1. 各病態の臨床情報・検体収集体制を確立し、日本人については全国より約4,000検体を収集し、その大部分に簡易臨床情報の付加を完了した。海外についても約3,000検体(韓国、香港、タイ、台湾)を収集した。
2. (1)1,356検体を対象としてゲノムワイドSNPタイピングを実施した。このデータを基に、肝炎慢性化、線維化進展、および肝癌進展の3つの病態についてGWASを実施し、それぞれ58個、59個、110個の病態関連候補SNPを検出した。独立の日本人集団およびアジア人集団の検体を用いてreplication studyを実施し、癌化に関連する新規の遺伝要因を同定した。(2)HLA-DPについて、日本人、韓国人、香港人、タイ人約3,200検体の遺伝子タイピングを実施し、新たな慢性肝炎関連アリルおよび癌化抵抗性アリルを同定した。またアリルの組合せについて、感受性・抵抗性をホモで有するよりヘテロで有する方がより強い関連を示すことを見出した。(3)ウイルス因子解析の手法を確立した。
3. 手法を確立したHLA-ペプチド結合測定系を用いて、HBV表面抗原(HBs)、コア抗原(HBc)のペプチドライブラリ(63種類)についてHLA-ペプチド結合解析を実施した。その結果、慢性化の抵抗性アリルHLA-DPB1*04:02に特異的に結合するペプチド3種、感受性アリル*09:01、中立性アリル*03:01に弱く結合するペプチド1種を見出した。
<考察> 本研究で収集された検体は日本、韓国、香港、タイ、台湾から約7,000検体にのぼり、共同研究グループが約1,300検体を保有することから、今後より大規模なGWASや検証により新規の遺伝要因の同定が期待される。また、HLA-DPアリルを詳細に検討する事で、病態の解明およびリスク予測遺伝子検査法の開発に役立つであろう。HLA-DP組換えタンパクの調製も確立し、網羅的なウイルス由来ペプチドとの結合測定が可能となった。また病態毎に取得した遺伝子発現ネットワーク解析の結果や、ウイルスゲノム解析結果を、宿主ゲノム多型解析結果と組み合わせた分析も期待される。
結論
本研究を4つの組織から構成して研究を実施した。(1) 各病態の臨床情報・検体収集体制を確立し、日本人、韓国人、香港人、タイ人、台湾人約7,000検体を収集した。(2) ゲノム解析では、慢性化・繊維化進展・癌化に関連する宿主遺伝要因を網羅的に探索し、各病態について関連候補SNPを検出した。また癌化については新規遺伝要因を同定した。日本を含む東アジア集団サンプル約3,200検体について大規模HLAタイピングを実施し、慢性化及び病態進展に関与するHLA-DPB1アリルを同定し、ホモとヘテロの効果についても検討した。ウイルス因子の同定では、HBs抗原領域のアミノ酸配列の変異と病態間で違いのあるアミノ酸部位を抽出した。(3)機能解析では、慢性B型肝炎感受性及び抵抗性に関連するHLA-DPアリル産物を対象として、HLA-DP結合抗原ペプチドをHBs, HBc抗原ペプチドライブラリーから探索し、慢性B型肝炎抵抗性HLA-DP分子特異的に結合するウイルス抗原領域を見出した。今後も各チームの活動、研究から多くの相乗的成果が期待される。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201449004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
B型肝炎ウイルス感染の病態で特に慢性化、線維化、癌化に関して、本研究で構築した臨床情報・検体収集システムを利用して、ゲノムワイド関連解析、HLA遺伝子多型解析・機能解析、ウイルスゲノム解析を実施した。各病態に関連する複数のHLA-DPアリルが特定されるとともに、複数の新規遺伝要因候補が同定された。またHLA-DP分子と結合するウイルス抗原ペプチドの同定も進んでおり、新規診断法の開発および病態の分子機序の解明に近づいた。
臨床的観点からの成果
国内には100-150万人のB型肝炎ウイルス持続感染者がいるが、肝癌まで進行するのはたかだか10%程度である。しかし現在、全患者に対して同等の治療が行われており莫大な医療費を要している。本研究で特定されたHLA-DPアリルは病態進展リスク検査に適用しうる。さらに、GWAS等で同定された新規遺伝要因やウイルス要因等を組み合わせることにより、病態進展群をより確実に特定できる可能性が高まった。すなわち、集中的な治療を要する患者群の囲い込みによる医療費の削減が期待される。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
国立国際医療研究センター(2014年6月9日、東京)、医療薬学フォーラム2014・第22回クリニカルファーマシーシンポジウム(2014年6月28日、東京)、韓国国立がんセンター(2014年7月18日、韓国)、生命医薬情報学連合大会・セッション(2014年10月3日)、日本生化学会大会・シンポジウム(2014年10月16日、京都)、眼科DNAチップ研究会(2014年11月13日、神戸)、医療講演会(2015年2月20日、姫路)などで講演した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
56件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
40件
学会発表(国際学会等)
18件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
B型肝炎の慢性化の素因の検出方法
詳細情報
分類:
特許番号: PYC/JP2014/072649
発明者名: 徳永勝士、澤井裕美、溝上雅史、西田奈央
権利者名: 東京大学、国立国際医療研究センター
出願年月日: 20140828
国内外の別: 国外(WIPO)

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tokunaga K.
Lessons from Genome-Wide Search for Disease-Related Genes with Special Reference to HLA-Disease Associations.
Genes , 5 (1) , 84-96  (2014)
10.3390/genes5010084.
原著論文2
Miyadera H, Ohashi J,Lernmark A, et al.
Cell surface MHC density profiling revealsinstability of autoimmunity-associated HLA.
J. Clin. Invest. , 125 (1) , 275-291  (2015)
10.1172/JCI74961.
原著論文3
Y. Yamamoto, M. Miyamoto,D. Tatsuda,etal.
A rare polymorphic variant of NBS1 reducesDNA repair activity and elevates chromosomal instability.
Cancer Res. , 74 (14) , 3707-3715  (2014)
10.1158/0008-5472.CAN-13-3037.
原著論文4
Nishida N, Sawai H, Kashiwase K, et al.
New susceptibility and resistance HLA-DP alleles to HBV-related diseases identified by a trans-ethnic association study in Asia.
PLoS One , 9 (2) , e86449-  (2014)
10.1371/journal.pone.0086449.
原著論文5
Ito K, Yotsuyanagi H, Yatsuhashi H, et al.
Risk factors for long-term persistence of serum hepatitis B surface antigen following acute hepatitis B virus infection in Japanese adults
PLoS One , 59 (1) , 89-97  (2014)
10.1002/hep.26635.
原著論文6
Orito E, Hasebe C, Kurosaki M,et al.
Risk of hepatocellular carcinoma in cirrhotic hepatitis B virus patients during nucleoside/nucleotide analog therapy.
Hepatol Res. , 45 (5) , 872-879  (2015)
10.1111/hepr.12427
原著論文7
Kamijo N, Matsumoto A, Umemura T, et al.
Mutations of pre-core and basal core promoter before and after hepatitis B e antigen seroconversion.
World J Gastroenterology , 21 (2) , 541-548  (2015)
10.3748/wjg.v21.i2.541.
原著論文8
Harigai M, Mochida S, Mimura T, et al.
A proposal for management of rheumatic disease patients with hepatitis B virus infection receiving immunosuppressive therapy.
Mod Rheumatol. , 24 (1) , 1-7  (2014)
10.3109/14397595.2013.852834
原著論文9
Minami T,Tateishi R, Shiina S, et al.
Comparison of improved prognosis between hepatitis B- and hepatitis C- related hepatocellular carcinoma.
Hepatol Res. , 45 (10) , E99-E107  (2015)
10.1111/hepr.12468.
原著論文10
Ohno M, Otsuka M, Kishikawa T, et al.
Specific delivery of microRNA93 into HBV-replicating hepatocytes downregulates protein expression of liver cancer susceptible gene MICA.
Oncotarget. , 5 (14) , 5581-5590  (2014)
原著論文11
Tsukuda S, Watashi K, Iwamoto M, et al.
Dysregulation of Retinoic Acid Receptor Diminishes Hepatocyte Permissiveness to Hepatitis B Virus Infection through Modulation of NTCP Expression.
J Biol Chem. , 290 (9) , 5673-5684  (2015)
10.1074/jbc.M114.602540
原著論文12
Watashi K, Sluder A, Daito T,et al.
Cyclosporin A and its analogs inhibit hepatitis B virus entry into cultured hepatocytes through targeting a membrane transporter NTCP.
Hepatology. , 59 (5) , 1726-1737  (2014)
10.1002/hep.26982.
原著論文13
Chuma M, Sakamoto N, Nakai A, et al.
Heat shock factor 1 accelerates hepatocellular carcinoma development by activating nuclear factor-κB/mitogen-activated protein kinase.
Carcinogenesis. , 35 (2) , 272-281  (2014)
10.1093/carcin/bgt343
原著論文14
Iio E, Matsuura K, Nishida N,et al.
Genome-wide association study identifies a PSMD3 variant associated with neutropenia in interferon-based therapy for chronic hepatitis C.
Hum Genet. , 134 (3) , 279-289  (2015)
10.1007/s00439-014-1520-7.
原著論文15
Hino K, Hara Y, Nishina S
Mitochondrial reactive oxygen species as a mystery voice in hepatitis C.
Hepatol Res. , 44 (2) , 123-132  (2014)
10.1111/hepr.12247
原著論文16
Ogura N, Watashi K, Noguchi T,et al.
Formation of covalently closed circular DNA in Hep38.7-Tet cells, a tetracycline inducible hepatitis B virus expression cell line.
Biochem Biophys Res Commun. , 452 (3) , 315-321  (2014)
10.1016/j.bbrc.2014.08.029.

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
2019-09-27

収支報告書

文献番号
201449004Z