文献情報
文献番号
201448002A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の根治に向けた基盤的研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
明里 宏文(京都大学 霊長類研究所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 エイズ対策実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
27,205,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
多彩な抗HIV薬の併用によるART療法が画期的に進展を遂げた結果、HIV感染症は慢性疾患の一つとなった。しかしHIV感染者は生涯にわたる抗HIV薬の服用が必須であり、再活性化と隣り合わせであること、さらに抗HIV薬の副作用、社会的・精神的な不利益やストレス、加齢化の進行など、数多なリスクを常に抱えている。これらの解決には、HIV感染症からの根治を目指した革新的技術の開発が求められている。この対象となる長期未発症者(LTNP)やエリートコントローラー(EC)へ根治のための医療介入を行うためには、病態解明のための適切な評価システムの構築、治療標的となるHIV潜伏感染細胞の把握、優れたモデル動物による新規治療法の安全性や有効性の検証が不可欠である。このような背景を踏まえ、本研究では、新たなHIV制御法確立およびその前臨床評価のための病態解析を総合的に推進することにより、HIV感染症の根治を目指した実現可能な対HIV戦略を創出する。
研究方法
本研究では申請者らが開発したHIV-1感染霊長類モデルを応用して、新たなHIV制御法の確立およびその前臨床評価のための病態解析システムの構築を行う。本研究班はその目標達成に向け、以下の2チームから構成される。まずHIV制御研究チームでは、進展が著しいiPS細胞およびゲノム編集技術を駆使したHIV制御技術の開発と霊長類モデルを使ったその前臨床試験研究を行う。他方、病態解析チームではAC/ECに相当するHIV-1感染霊長類モデルを用いて、プロウイルス量やそのクローナリティ解析、獲得免疫応答、病態関連宿主・ウイルス因子の各側面からHIV-1潜伏感染の実態を明らかにする。さらに、根治に向けた重要なターゲットであるウイルスリザーバーについて、その定量や動態などヒトでは解析困難な疑問を明らかにする。
結果と考察
(HIV制御研究チーム)
サル個体からiPS細胞を樹立するとともに、そのRNA発現様式や細胞マーカー等よりiPS細胞としての機能的特性を確認出来た。さらに、このiPS細胞よりCD34陽性造血幹細胞やマクロファージ様細胞へと分化誘導可能であることを明らかにした。CRISPR/Cas9システムおよびTALEN法によるHIV-1 LTRを標的とするゲノム編集技術を用いることにより、細胞染色体中にインテグレートしているプロウイルスDNAを排除することが可能であることを明らかにした。
(病態解析チーム)
R5-tropismを付与したサル指向性HIV-1(HIV-1mt)をサル個体間で継代することにより、ウイルス増殖能の向上が見られた。この馴化ウイルスゲノムを次世代シークエンサーにより解析を行ったところ、Vif, Nef, MA, p6, RT, Tatにおいて特徴的なアミノ酸置換変異が認められた。これらの変異アミノ酸を持つクローンは、継代とともに主要な集団へと個体内進化したこと、またこれらの変異を有するウイルスは優れた増殖能を示した。この馴化ウイルスは感染初期にHIV感染者とほぼ同程度の高いviral loadを示すが、その後3-4ヶ月で獲得免疫応答により制御され潜伏感染状態へと移行する。すなわちECに極めて類似したHIV感染霊長類モデルであることが明らかになった。EC状態にあるHIV-1mt感染ザルにおいて、深部リンパ節や脾臓におけるプロウイルス量が末梢血リンパ球と比較して多く検出され、これらの部位におけるウイルスリザーバーの存在が示唆された。また各臓器において100箇所以上のウイルス組込部位を特定出来たことから、クローナリティの時系列解析が今後可能となった。上述のEC状態にあるHIV-1mt感染ザルについて、HIV-1特異的細胞障害性Tリンパ球および中和抗体価の経時的な比較検討を現在実施した。
サル個体からiPS細胞を樹立するとともに、そのRNA発現様式や細胞マーカー等よりiPS細胞としての機能的特性を確認出来た。さらに、このiPS細胞よりCD34陽性造血幹細胞やマクロファージ様細胞へと分化誘導可能であることを明らかにした。CRISPR/Cas9システムおよびTALEN法によるHIV-1 LTRを標的とするゲノム編集技術を用いることにより、細胞染色体中にインテグレートしているプロウイルスDNAを排除することが可能であることを明らかにした。
(病態解析チーム)
R5-tropismを付与したサル指向性HIV-1(HIV-1mt)をサル個体間で継代することにより、ウイルス増殖能の向上が見られた。この馴化ウイルスゲノムを次世代シークエンサーにより解析を行ったところ、Vif, Nef, MA, p6, RT, Tatにおいて特徴的なアミノ酸置換変異が認められた。これらの変異アミノ酸を持つクローンは、継代とともに主要な集団へと個体内進化したこと、またこれらの変異を有するウイルスは優れた増殖能を示した。この馴化ウイルスは感染初期にHIV感染者とほぼ同程度の高いviral loadを示すが、その後3-4ヶ月で獲得免疫応答により制御され潜伏感染状態へと移行する。すなわちECに極めて類似したHIV感染霊長類モデルであることが明らかになった。EC状態にあるHIV-1mt感染ザルにおいて、深部リンパ節や脾臓におけるプロウイルス量が末梢血リンパ球と比較して多く検出され、これらの部位におけるウイルスリザーバーの存在が示唆された。また各臓器において100箇所以上のウイルス組込部位を特定出来たことから、クローナリティの時系列解析が今後可能となった。上述のEC状態にあるHIV-1mt感染ザルについて、HIV-1特異的細胞障害性Tリンパ球および中和抗体価の経時的な比較検討を現在実施した。
結論
LTNP /ECにおけるウイルス制御機構の解明、リザーバー同定や経時的動態解明、根治に向けたHIV制御技術の開発評価研究において当該霊長類モデルは非常に有望である。さらに、本研究班はこの霊長類モデルを活用した多角的側面からの解析および開発研究が進められて多くの新知見が得られており、来年度以降への大きな進展が期待出来る。
公開日・更新日
公開日
2015-07-03
更新日
-