文献情報
文献番号
201447018A
報告書区分
総括
研究課題名
乳幼児に適用可能な安全性と有効性の高いSF-10アジュバントによるインフルエンザ・RSV感染防御免疫誘導
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木戸 博(徳島大学 疾患酵素学研究センター(全国共同利用・共同研究 酵素学研究拠点))
研究分担者(所属機関)
- 高橋 悦久(徳島大学 疾患酵素学研究センター(全国共同利用・共同研究 酵素学研究拠点) )
- 亀村 典生(徳島大学 疾患酵素学研究センター(全国共同利用・共同研究 酵素学研究拠点) )
- 遠藤 淳(第一三共株式会社 ワクチン事業本部)
- 篠田 香織(第一三共株式会社 ワクチン事業本部)
- 井上 和恵(第一三共株式会社 ワクチン事業本部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
34,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
2歳以下の乳幼児はインフルエンザ、RSウイルス感染の死亡率が特に高く、「2歳以下の乳幼児に適用可能な安全で予防効果の強い粘膜ワクチン開発」が要望されている。徳島大学では、新生児の呼吸窮迫症候群の特効薬として過去25年間、副作用なく安全に使用されてきた肺の界面活性生物製剤、肺サーファクタントに、極めて効果的な粘膜アジュバント活性を発見して報告してきた。この発見を契機に、工業生産可能な「ヒト肺サーファクタント成分からなる人工合成粘膜アジュバントSF-10」 が完成した。本プロジェクトでは、2歳以下の乳幼児への適用を視野に、SF-10について下記の4項目、① SF-10アジュバントの作用機序の解析、② SF-10アジュバントの安全性の検討、③ SF-10アジュバントの抗体誘導臓器の調査、④ SF-10アジュバントが適用可能な抗原、を明らかにする。
研究方法
① SF-10アジュバントの作用機序の解析:樹状細胞への抗原の取り込み促進機序の解析、樹状細胞に取り込まれた抗原シグナルによるT細胞の活性化とB細胞のクラススイッチの促進機序を解析する。② SF-10アジュバントの安全性の検討:鼻腔の解剖学的特殊性から、ウイルス抗原が嗅神経を介して大脳の神経細胞にまで到達する可能性は否定できないため、SF-10存在下に、嗅神経細胞へのインフルエンザウイルス抗原の取り込みの可能性を検証する。③ SF-10アジュバントの抗体誘導臓器の調査:SF-10アジュバントの接種ルート(経鼻、経口、舌下)と抗体誘導臓器との関係を検討する。同時に誘導されたIgA、IgG抗体の交叉免疫性も明らかにする。④ SF-10アジュバントが適用可能抗原の解明:SF-10の脂質膜に結合する抗原でなくてはアジュバント効果を示さないため、SF-10アジュバント結合抗原をスクリーニングする。
結果と考察
SF-10アジュバントは、肺サーファクタントに類似した人工合成アジュバント(SSF)と増粘剤のCarboxy vinyl polymerから成り、抗原はSF-10アジュバントに結合後、樹状細胞に運搬され、取り込まれて抗原提示が始まる。SF-10アジュバントの製造工程各ステップのパラメーターが検討され、再現性の良い製造結果が得られた。SF-10アジュバントの免疫増強作用機序の解析では、SF-10はマクロピノサイトーシスによる樹状細胞への抗原の取り込みを促進した。取り込まれた抗原は、細胞内で速やかにペプチドに分解され、おそらくリソゾーム経由でMHC class IIと、TAP1-小胞体経由でMHC class Iの両方に抗原提示されることが明らかになった。さらに、MHC class IからCD8+ T細胞を介して細胞障害性T細胞に抗原情報の伝達が、MHC class IIからCD4+ T細胞を介する抗原情報伝達が明らかになった。粘膜局所のT細胞非依存性抗原シグナル伝達経路においては、SF-10はBAFFの転写を促進し、B細胞のIgAクラススイッチを亢進した。抗体誘導臓器の検討では、経鼻接種した気道粘膜と血液での抗体産生以外に、腸管免疫、膣免疫を著しく亢進させ、抗体を大量に誘導していることが判明した。SF-10アジュバント適用抗原の検索では、食物アレルギーワクチンを視野に入れたovalbuminや、気道感染症でのRSウイルス抗原で抗体誘導が確かめられていたが、新たに検討した肺炎球菌ではSF-10アジュバントへの結合が確かめられた。
結論
安全で有効な生体成分粘膜アジュバントSF-10の作用機序の一端が明らかになってきた。今後さらなる詳細な解析を通じて、SF-10の安全性が代謝回転の速さ以外にもあるのか、強力な抗体誘導効果が、何に由来するかをさらに絞り込んで解析を進める。自然感染ルートの経鼻接種は、気道以外の全身の粘膜で多量の抗体を産生することが明らかになり、腸管や膣等の各種感染症、さらにはアレルギーワクチン等への応用を示唆している。
公開日・更新日
公開日
2015-06-10
更新日
-