てんかんに対する総合的な医療の提供体制整備に関する研究

文献情報

文献番号
201446023A
報告書区分
総括
研究課題名
てんかんに対する総合的な医療の提供体制整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大槻 泰介(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 竹島 正(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健計画研究部)
  • 立森 久照(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健計画研究部)
  • 岡崎 光俊(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院 第一精神診療部)
  • 須貝 研司(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院 小児神経診療部)
  • 井上 有史(静岡てんかん・神経医療センター)
  • 久保田 英幹(静岡てんかん・神経医療センター 診療部)
  • 中里 信和(東北大学大学院医学系研究科)
  • 池田 昭夫(京都大学大学院医学研究科)
  • 永井 利三郎(大阪大学大学院 小児神経学)
  • 吉岡 伸一(鳥取大学医学部)
  • 小林 勝弘(岡山大学病院小児神経科)
  • 鈴木 由香(愛媛県立こども療育センター)
  • 三國 信啓(札幌医科大学脳神経外科)
  • 宇川 義一(福島県立医科大学 神経内科)
  • 加藤 正哉(和歌山県立医科大学 救急集中治療医学)
  • 小国 弘量(東京女子医科大学 小児科学)
  • 川合 謙介(東京医療保健大学 脳神経外科学)
  • 赤松 直樹(国際医療福祉大学福岡保健医療学部)
  • 藤井 正美(山口県周南健康福祉センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 障害者対策総合研究開発
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,680,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 鈴木由香 愛媛大学 (~平成26年3月31日)→愛媛県立こども療育センター(平成26年4月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
 現在我が国では、脳卒中、認知症、がんなど様々な疾患を対象とした地域診療連携システムが構築されつつある。一方、てんかんは、乳幼児・小児から成人・老年期に及ぶ患者数の多い疾患で、その診療にはプライマリ・ケアと専門医療の診療科の枠を超えた連携が必要とされる。今回、前研究班で作成された全国規模の診療連携システムを軸に、地域啓発、診療連携、教育を含む総合的なてんかんの医療提供体制整備のための基本計画を作成する。
研究方法
 本研究は、平成23~25年度の厚労省研究班で作成された全国規模の「てんかん診療ネットワーク」を引き継ぎ、この診療連携システムを軸に、地域啓発、医療福祉連携、教育を含む、総合的なてんかんの医療提供体制を整備するための基本計画を作成する。具体的には、1)地域住民、学校教育、患者支援職種、保健師などに対する普及啓発システム、2)救急・運転免許問題を含むてんかんの総合的な地域医療福祉連携システム、及び3)医学部教育・卒後教育・専門医教育を含む医師に対する総合的なてんかん教育システムにつき、現状の調査を踏まえ基本計画を作成する。
結果と考察
 わが国の地域のてんかん医療は、精神科、脳神経外科、神経内科、小児科などの複数の専門診療科が関わり、相互の連携が取りにくい諸外国とは異なる特殊な状況にある。また行政の側も、担当部署が明確でなく、これまで国及び自治体の保健医療施策の対象から抜け落ちていた経緯があるなど、わが国のてんかん医療は、その普及啓発活動、診療体制、及び医学教育に関わる様々な根本的な問題を抱えていた。
<てんかん医療アクションプラン2015>
てんかんの地域診療連携体制の構築
1)行政の担当部署の明確化:乳幼児から高齢者までの多様な患者層における様々な問題に対処し施策を立案するには、てんかん医療の行政における担当部署を明確にすることが必要で、その部署を中心として、地域医療連携、教育、就労、自動車運転問題など、縦割り行政では解決が困難な課題に取り組む。
2)地域保健行政における位置付けの明確化:全国の地方自治体は、地域保健医療行政の課題として、医療計画にてんかん診療の改善すべき点を具体的に記述する必要がある。また保健師などの行政専門職に、てんかん医療の充実に必要な教育・情報提供を積極的に行い、行政推進の基盤を強化する。てんかん患者を診療する機会のある診療科の医師を対象とした教育・情報提供を行う。
3)てんかん地域診療連携コーディネーターの育成:行政は、補助金事業等での支援を通じ、各地域の診療連携拠点病院において、てんかん地域診療連携コーディネーターの育成を図る。具体的には、てんかんの専門的知識を有し、地域のリソースを熟知する医療ソーシャルワーカーを育成し、患者と医師、医療機関同士、医療機関と患者支援機関、患者支援機関間および他の地域ネットワークとの連携を図り、てんかんの地域診療連携システムの構築を推進する。
4) 診療報酬を基盤とする地域医療連携システムの構築:
a. 各地域において、地域の医師による1次診療、てんかんの診断と治療を行う神経学専門医による2次診療、外科治療を含む包括的な診断・治療が可能な3次診療てんかんセンターの間を患者が循環する連携モデルを構築し、地域単位のてんかん診療連携パスを作成する。
b. この診療連携モデルを推進するために、施設基準を定め、紹介料加算や専門診断料、拠点施設加算などの医学管理料、及び長期脳波ビデオ同時記録検査や脳波検査などの検査料に関する診療報酬を設定し、てんかんの診療連携パスに参加するインセンティブの維持を図る。
5)脳卒中、認知症医療との連携:脳卒中及び認知症医療との連携を図る。
C) てんかんの医学教育の充実
 大学医学部教育、各専門医学会におけるてんかん教育、救急隊員・救急医への教育、一般医の教育、看護福祉職種・患者支援職種・看護師・保健師の教育を推進する。
結論
 てんかんは患者数の多いcommon diseaseであり、てんかん医療の充実は、小児では発達障害や学習障害の予防、成人では就労と生活の自立につながり、社会経済学的に重要な医療分野である。また高齢者のてんかん有病率は人口の約1%と高く、高齢者人口の増加するわが国では、認知症と共に重要性をます医療分野である。
 今回、我々が提示したアクションプランは、行政の関与と地域診療連携体制の構築の2点が基軸となる。今後、組織的なてんかん医療の地域診療連携体制の充実が図られる事で、患者・家族及びかかりつけ医にとって、てんかんの専門医療施設が明らかとなり、外科治療で完治可能なてんかんの早期診断・早期治療が推進され、また不要な薬剤投与の是正も可能となる。更に、発作に関わる事故、就学、就労等てんかんの社会的側面に関する問題への対応も容易になることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-12-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201446023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
現在のわが国の地域のてんかん医療体制が抱える根源的な問題が掘り起こされ、今後の問題解決に向けたアクションプランが提示された。わが国の地域のてんかん医療は、精神科、脳神経外科、神経内科、小児科などの複数の専門診療科が関わり、相互の連携が取りにくい諸外国とは異なる特殊な状況にある。また行政の側も担当部署が不明確でその普及啓発活動、診療体制、及び医学教育に関わる様々な根本的な問題を抱えている。てんかんの地域診療連携システムの構築を軸とした総合的な対策が提示された。
臨床的観点からの成果
本研究により、てんかんの地域診療連携モデルが提案され、地域における診療連携パスの基本的枠組みが提示された。今後のてんかんの地域診療連携体制構築に活用されるものと思われる。
ガイドライン等の開発
てんかん医療アクションプラン2015(Epilepsy Action Plan Japan 2015)が作成された。これは、今後10年間における社会啓発活動の推進、てんかん医療連携体制の充実、学校教育への対応、医学教育の充実、地域保健行政における対応を軸とした総合的な行動計画である。
その他行政的観点からの成果
この研究成果を基に、2015年度より地域のてんかん診療拠点施設の形成を目的としたてんかん地域診療連携体制整備事業が開始された。
その他のインパクト
この研究成果は、2015年5月にWHO総会で採択された各国政府に向けたてんかん医療推進の勧告に対応する施策を立案する上で、今後活用されるものと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
25件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
16件
その他論文(英文等)
30件
学会発表(国内学会)
67件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-12-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
201446023Z