文献情報
文献番号
201446021A
報告書区分
総括
研究課題名
統合失調症の認知および社会機能障害の神経生物学的マーカー開発についての研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
住吉 太幹(国立精神・神経医療研究センター 臨床研究推進部)
研究分担者(所属機関)
- 功刀 浩(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所疾病研究第三部)
- 竹田 和良(国立精神・神経医療研究センター病院 第一精神診療部)
- 吉村 玲児(産業医科大学精神医学教室)
- 野田 隆政(国立精神・神経医療研究センター病院 第一精神診療部)
- 樋口 悠子(富山大学附属病院神経精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 障害者対策総合研究開発
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,717,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
複数のモダリティーの脳機能画像や生化学的解析の結果を用いた、統合失調症患者の認知機能および社会機能を反映する神経生物学的マーカーの開発を行うことを目的とした。
研究方法
1. 認知・社会機能による就労状況の予測
統合失調症患者および健常者にMATRICS コンセンサス認知機能バッテリー(MCCB)、日常生活技能簡易評価尺度(UPSA-B)を施行した。社会機能の評価尺度としてはSocial Functioning Scale/Social Adjustment Scale-MATRICS版(SFS)を用いた。
2. 脳脊髄液(CSF)を用いたバイオマーカーの探索
統合失調症患者の脳脊髄液を用いた網羅的タンパク質解析を行ったデータについて、認知機能障害との相関がある分子を探索した。認知機能障害の評価にはMCCBの成績と相関する統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)を用いた。
3. MRIを用いたマーカーの探索と認知リハビリテーション
認知リハビリテーションを3か月間実施した。前後にBACS, UPSA-B, SFSおよびMRI撮像データを取得した。
4. Magnetic resonance spectroscopy (MRS)および血中BDNF
統合失調症初回エピソード患者に対してMRSによるN-acetylaspartate(NAA)の測定と血清中BDNF濃度の測定を行った。対照健常者にも同様の測定を行った。
5. 光トポグラフィー(NIRS)測定
NIRS計測装置を用いて、脳皮質における酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)の変化量を計測した。計測課題は言語流暢性課題(VFT)を用いた。
6. 事象関連電位を用いた検討
アット・リスク精神状態(ARMS)の診断基準を満たす者、統合失調症患者、および健常者を対象とした。持続長ミスマッチ陰性電位(MMN)などの事象関連電位(ERP)を計測した。
統合失調症患者および健常者にMATRICS コンセンサス認知機能バッテリー(MCCB)、日常生活技能簡易評価尺度(UPSA-B)を施行した。社会機能の評価尺度としてはSocial Functioning Scale/Social Adjustment Scale-MATRICS版(SFS)を用いた。
2. 脳脊髄液(CSF)を用いたバイオマーカーの探索
統合失調症患者の脳脊髄液を用いた網羅的タンパク質解析を行ったデータについて、認知機能障害との相関がある分子を探索した。認知機能障害の評価にはMCCBの成績と相関する統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)を用いた。
3. MRIを用いたマーカーの探索と認知リハビリテーション
認知リハビリテーションを3か月間実施した。前後にBACS, UPSA-B, SFSおよびMRI撮像データを取得した。
4. Magnetic resonance spectroscopy (MRS)および血中BDNF
統合失調症初回エピソード患者に対してMRSによるN-acetylaspartate(NAA)の測定と血清中BDNF濃度の測定を行った。対照健常者にも同様の測定を行った。
5. 光トポグラフィー(NIRS)測定
NIRS計測装置を用いて、脳皮質における酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)の変化量を計測した。計測課題は言語流暢性課題(VFT)を用いた。
6. 事象関連電位を用いた検討
アット・リスク精神状態(ARMS)の診断基準を満たす者、統合失調症患者、および健常者を対象とした。持続長ミスマッチ陰性電位(MMN)などの事象関連電位(ERP)を計測した。
結果と考察
1. MCCBから”遂行機能”および”学習/感情統制”、SFSから”社交性”および”自立/職業機能”の各因子が主成分分析より得られた。これら4因子およびUPSA-Bの2因子を独立変数とする多重ロジスティック回帰分析を、統合失調症患者データに対し行った。その結果、記憶/感情統制ならびに自立/職業機能が有意な因子として、就労状況(就労時間>80時間/3ヵ月)を77.8%の精度で予測した。以上より、新しい情報の獲得や感情の制御が就労の持続に重要であることを示唆された。
2. BACSの各項目と強く相関する分子を合計28個見出した。さらに既存薬が作用する分子も2個含まれていた。第一は、ペプチドホルモンの一種で、特に言語記憶と正の相関がみられた。第二はマトリックスメタロプロテアーゼの一種で、遂行機能と負の相関がみられた。
3. BACSの各下位項目においてリハビリ前後に改善傾向を示し、総合得点において有意な機能改善が認められた。以上より、安静時脳活動及び白質繊維の健全性パラメータの変化との関連から、予後を予測する指標を抽出できると思われた。
4.左基底核において、統合失調症初回エピソード群と健常者群間でNAA濃度の差が認められた。また、前頭葉のNAA濃度と血清BDNF濃度に正の相関がみられ、前頭葉の神経活動の変化が血清BDNFより予測可能であることが示唆された。さらに、陰性症状と血清BDNFには負の相関が認められ、血清BDNF濃度は社会機能障害の重症度も反映すると推定された。
5. 統合失調症患者の前頭極や背外側前頭前野に対応する部位において、GAF得点が高いほどVFT施行中のoxy-Hb濃度の増加が大きかった。また、BACSの要約得点、語流暢性、注意機能は、それぞれ背外側前頭前野、前頭極、眼窩前頭前野におけるoxy-Hb濃度変化の大きさと相関を示した。以上より、NIRSは精神疾患における社会機能や認知機能の障害のバイオマーカーとなりうる。
6. ARMS群のMMN振幅は健常者より小さく、統合失調症患者より大きかった。ARMSを、後に統合失調症を発症した者(Conv.)、発症しなかった者(Non-C.)に分けて検討した結果、Conv.における振幅がベースラインで有意に小さかった。さらに、MMNに引き続くreorienting negativity振幅の病期間の有意差が認められ、Conv.とNon-C.間で有意傾向がみられた。以上より、これらERP振幅低下は統合失調症のバイオマーカーとなりうる。
2. BACSの各項目と強く相関する分子を合計28個見出した。さらに既存薬が作用する分子も2個含まれていた。第一は、ペプチドホルモンの一種で、特に言語記憶と正の相関がみられた。第二はマトリックスメタロプロテアーゼの一種で、遂行機能と負の相関がみられた。
3. BACSの各下位項目においてリハビリ前後に改善傾向を示し、総合得点において有意な機能改善が認められた。以上より、安静時脳活動及び白質繊維の健全性パラメータの変化との関連から、予後を予測する指標を抽出できると思われた。
4.左基底核において、統合失調症初回エピソード群と健常者群間でNAA濃度の差が認められた。また、前頭葉のNAA濃度と血清BDNF濃度に正の相関がみられ、前頭葉の神経活動の変化が血清BDNFより予測可能であることが示唆された。さらに、陰性症状と血清BDNFには負の相関が認められ、血清BDNF濃度は社会機能障害の重症度も反映すると推定された。
5. 統合失調症患者の前頭極や背外側前頭前野に対応する部位において、GAF得点が高いほどVFT施行中のoxy-Hb濃度の増加が大きかった。また、BACSの要約得点、語流暢性、注意機能は、それぞれ背外側前頭前野、前頭極、眼窩前頭前野におけるoxy-Hb濃度変化の大きさと相関を示した。以上より、NIRSは精神疾患における社会機能や認知機能の障害のバイオマーカーとなりうる。
6. ARMS群のMMN振幅は健常者より小さく、統合失調症患者より大きかった。ARMSを、後に統合失調症を発症した者(Conv.)、発症しなかった者(Non-C.)に分けて検討した結果、Conv.における振幅がベースラインで有意に小さかった。さらに、MMNに引き続くreorienting negativity振幅の病期間の有意差が認められ、Conv.とNon-C.間で有意傾向がみられた。以上より、これらERP振幅低下は統合失調症のバイオマーカーとなりうる。
結論
いくつかの生体分子や脳機能変化が、統合失調症の社会機能や認知機能の障害のバイオマーカーの候補として示唆された。
公開日・更新日
公開日
2015-09-17
更新日
-