我が国における、自閉症児に対する「応用行動分析による療育」の検証に関する研究

文献情報

文献番号
201446004A
報告書区分
総括
研究課題名
我が国における、自閉症児に対する「応用行動分析による療育」の検証に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
神尾 陽子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上雅彦(鳥取大学医学系研究科)
  • 野呂文行(筑波大学人間系)
  • 渡部匡隆(横浜国立大学教育人間科学部)
  • 平岩幹男(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 児童・思春期精神保健研究部 )
  • 立花良之(独立行政法人 国立成育医療研究センターこころの診療部乳幼児メンタルヘルス診療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 障害者対策総合研究開発
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,724,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自閉症の支援はできるだけ早期から開始されることが望ましいとされ、わが国でも早期発見がすすめられているところである。続く早期支援の量・質については標準化されておらず、地域格差が大きいのが現状である。
本研究は、就学前の自閉症児に対して安全で有効な行動的治療である療育がどこの地域でも提供できるためのエビデンスを提供することを目的とする。諸外国で有効性が報告されている応用行動分析(Applied Behavior Analysis: 以下ABA)による療育とわが国の地域で提供されている自閉症プログラムによる療育の効果を子どもと親の変化を包括的に評価することで、比較し、それぞれの効果の特徴や関連要因について明らかにする。
最終的には、わが国の標準的な療育についてのガイドラインおよび療育者向けの研修ツールを作成する。
研究方法
本年度は、予備的研究として、国内の自閉症幼児の療育に関する研究のシステマティック・レビュー、わが国初となる、民間機関による自閉症児に対するABAに基づく療育サービスの全国実態調査を行い、国内の自閉症児療育の動向を整理した。さらに、クリニック・ケースを対象に、長期予後および予後判定指標に関して、予備的検討を行った。ABA療育については言語に焦点を当てた予備的実験を行った。また近年、増加している自閉症幼児に対する療育効果についての無作為化比較対照試験を対象とするメタアナリシスを実施し、IQや言語に及ぼす影響と関連する理論的背景を検証した。
結果と考察
療育効果検証の予備的研究、家族支援の研究、ABA療育の実施、メタアナリシス研究は予定通り終了し、国内外の自閉症児療育の動向、そして実世界での療育の実態を明らかにすることができた。その詳細な成果については、現在、論文執筆中または投稿中である。
研究結果からは、療育の効果は必ずしも背景にある理論を反映しておらず、標的行動も重複していることが明らかとなった。これより、来年度実施する研究においては、療育の質を評価する際に、○○プログラムといったプログラムのブランド名や伝統的な分類ではなく、多様化し、複合的に発展している今日の療育内容を詳細に検討し、実際に用いられているプログラムを要素別に定義することで、より精度の高い効果検証が可能となることが示唆された。
また、今回、我が国初の全国の民間機関によるABA療育に関する実態把握調査からは、機関によっては親の経済的負担はきわめて大きいことが示された。そのために療育時間や質を十分に確保できていない事例もあると推定される。
結論
親の経済力にかかわらず子どもたちが必要な療育サービスを受けられるような全国的な地域整備を推進するためには、療育効果の個人差に関するさまざまな要因についてのエビデンスが必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201446004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
関連領域のレビューおよびメタアナリシスを行うことにより、今後の自閉症児の療育研究の方向性を明らかにすることができた。
臨床的観点からの成果
自閉症児の多様性から、個々の自閉症児の療育計画の際には、包括的評価にもとづく必要が明らかになった。また現在、民間が行う療育の実態について、初めての全国調査を行い、明らかにできた。
ガイドライン等の開発
検討中である。
その他行政的観点からの成果
現在、療育は行政的に明確に定義されていない。また、国内の療育の実践において、その効果を実証するのに欠かせない標準的なアセスメントがなされていないことが明らかになった。最適な療育を地域に均てん化させるための、エビデンスのある療育の定義づけと、一定の質の療育を提供するための人材育成の必要性について、提言できた。
その他のインパクト
国際学会誌に掲載された論文は、highly accessedとなり、国内外の多数の読者の読むところとなり、療育の在り方の議論に新しい視点を提供することができた。

発表件数

原著論文(和文)
19件
原著論文(英文等)
13件
国際児童青年精神医学会の学会誌に掲載され、オンライン発表後14日以内に367ダウンロードされたため、highly accessedというタグが付けられた。
その他論文(和文)
25件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
48件
学会発表(国際学会等)
19件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kamio Y, Haraguchi H, Miyake A, et al.
Brief report: Large individual variation in outcomes of autistic children receiving low-intensity behavioral interventions in community settings
Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health , 9 , 6-  (2015)
doi:10.1186/s13034-015-0039-6
原著論文2
Hiraiwa M
Japanese Trend in Childhood Treatment for Autism Spectrum Disorder
Austin Journal of Autism & Related Disabilities , 2 (4) , 1027-  (2016)
原著論文3
Matsuo, R., Inoue, M., & Maegaki, Y.
A Comparative Evaluation of Parent Training for Parents of Adolescents with Developmental Disorders.
Yonago Acta medica , 58 (3) , 109-114  (2015)
原著論文4
荻野和雄・原口英之・石飛信・神尾陽子.
自閉スペクトラム症の早期介入の長期効果
精神科治療学 , 31 (7) , 873-879  (2016)
原著論文5
平野礼子・佐々木銀河・野呂文行.
自閉スペクトラム症児に対するPECS使用に伴う音声表出に及ぼす影響の検討:通常のPECS指導と時間遅延・モーラリズムタッピングを併用した指導の比較
障害科学研究 , 40 , 15-28  (2016)
原著論文6
11) Tachibana Y, Miyazaki C, Ota E, Mori R, Hwang Y, Kobayashi E, Terasaka A, Tang J, Kamio Y
Meta-analyses of individual versus group interventions for pre-school children with autism spectrum disorder (ASD)
PLOS ONE , 13 (5) , e0196272-  (2018)
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0196272
原著論文7
14) Tachibana Y, Miyazaki C, Ota E, Mori R, Hwang Y, Kobayashi E, Terasaka A, Tang J, Kamio Y
A systematic review and meta-analysis of comprehensive interventions for pre-school children with autism spectrum disorder (ASD)
PLOS ONE , 12 (12) , e0186502-  (2017)
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0186502

公開日・更新日

公開日
2015-09-17
更新日
2017-06-02

収支報告書

文献番号
201446004Z