文献情報
文献番号
201445001A
報告書区分
総括
研究課題名
オミックス解析による認知症の原因究明と予防開発のための大規模コホート研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
田原 康玄(京都大学大学院医学研究科ゲノム医学センター)
研究分担者(所属機関)
- 松田 文彦(京都大学大学院医学研究科ゲノム医学センター )
- 荒井 秀典(国立長寿医療研究センター)
- 木下 彩栄(京都大学大学院医学研究科在宅医療看護学)
- 荒川 芳輝(京都大学医学研究科脳神経外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 認知症研究開発
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
37,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国では、認知症の有病率が急速に高まりつつある。認知症は、予防のみが有効な疾病対策であることから、そのリスクを早期に精度良く判定できる指標の開発が急がれている。そこで本事業では、滋賀県長浜市民1万人を対象としたコホート研究「ながはま0次コホート」において、ゲノム、水溶性低分子化合物、脂質、ペプチド、末梢血RNA発現等の網羅的オミックス解析を行うことで、認知機能の低下に関連する分子を同定し、認知症・MCIの原因究明と予防方法の開発につなげることを目的とした。
研究方法
ながはま0次コホートに登録した一般地域住民1万人を対象とする。平成19〜23年の第1期事業で10,082名をリクルートし、平成24年度からの第2期事業では同じ1万人を対象にフォローアップ調査を行っている。認知症は第2期事業の主たる研究テーマである。60歳以上を対象に認知症・MCIのスクリーニングを行うとともに、頭部MRI/MRAも施行している。本研究では、フォローアップ調査を通じて収集した生理・生化学的データ等と、収集した試料のオミックス情報との関連解析から、認知症/MCIの低下に関連する分子の同定を進める。
結果と考察
【結果】
フォローアップ調査を年間49日実施し、総計で3,763名(81.3%)のデータを得た。60歳以上の受診者2,045名のうち、1,962名が認知機能検査(長谷川式認知機能スケール、MCIscreen)を受けた。MCIscreenでMCIと判定された例は580名(29.6%)であった。対象者の基本的特徴のうち、加齢、男性、短い教育歴が認知症と強く関連した。
頭部MRI/MRA検査は、1,336名が受診あるいは予約した(平成27年2月末時点)。これまでに脳外科医による読影を終えた326名分のデータでは、脳萎縮、軽度脳萎縮と判断されたのは、それぞれ22名(6.7%)、56名(17.2%)であり、脳萎縮、軽度脳萎縮群は有意に高齢であった。
脳萎縮が認められる例では、MCIの頻度が有意に高値であった。古典的な血液マーカーとの関連解析では、糖代謝、脂質代謝、腎機能とMCIに有意な関連は認められなかった。
今年度のフォローアップ調査で収集した血液検体のうち、これまでに1,114例で水溶性低分子化合物の分析を終えた。このうち、いくつかの化合物が脳萎縮と有意に関連した。
アストロサイトから放出されるサイトカインのうち、IGFBP-3がニューロン傷害性に働き、アルツハイマー病の病理学的特徴である神経原線維変化生成につながるタウタンパク質のリン酸化に影響を与えることを明らかにした。コホート研究で成果の検証を進める。
【考察】
本年度のフォローアップ調査で、約3,800名分の臨床情報と生体試料とを収集することができた。このうち、約2,000例で認知症/MCIの検査を行っており、従来の同種のコホート研究に比して十分なサンプルサイズを確保できた。次年度以降、分子レベルで認知症の分子マーカーを解析する基盤が整った。
MCIsceenでの評価の結果、60%以上高齢者の約60%がMCIと判定された。糖代謝、脂質代謝、腎機能などを反映する一般的なマーカーはMCIとは関連せず、その一方で、質量分析計で測定した低分子化合物は、脳萎縮と比較的良く関連した。加えて基礎研究から認知症との関連が強く期待される候補分子も同定している。これらの成果は、オミックス解析技術を駆使した従来にない精緻な分析によって、あらたな分子マーカーが見つかる可能性を裏付ける。HDLコレステロールの亜分画やsmall dense LDLコレステロールなど、近年になって様々な病態との関連が示唆されているマーカーも含め、次年度以降、認知機能との関連を包括的に検討してく計画である。
本事業では、認知機能の評価と同時に頭部MRI/MRAを施行していることが大きな強みである。認知機能低下には脳萎縮や無症候性脳血管障害など、脳の器質的障害が潜在する可能性は極めて高い。本事業では、これら潜在的リスク因子の交絡の影響を除外して認知機能と分子マーカーとの関連を検討できる点で、他の同種の研究にない強みを持つ。また、脳萎縮など器質的障害と関連する分子マーカーを探索することで、認知機能の低下を先行して評価しうるマーカーの探索につながるかもしれない。
フォローアップ調査を年間49日実施し、総計で3,763名(81.3%)のデータを得た。60歳以上の受診者2,045名のうち、1,962名が認知機能検査(長谷川式認知機能スケール、MCIscreen)を受けた。MCIscreenでMCIと判定された例は580名(29.6%)であった。対象者の基本的特徴のうち、加齢、男性、短い教育歴が認知症と強く関連した。
頭部MRI/MRA検査は、1,336名が受診あるいは予約した(平成27年2月末時点)。これまでに脳外科医による読影を終えた326名分のデータでは、脳萎縮、軽度脳萎縮と判断されたのは、それぞれ22名(6.7%)、56名(17.2%)であり、脳萎縮、軽度脳萎縮群は有意に高齢であった。
脳萎縮が認められる例では、MCIの頻度が有意に高値であった。古典的な血液マーカーとの関連解析では、糖代謝、脂質代謝、腎機能とMCIに有意な関連は認められなかった。
今年度のフォローアップ調査で収集した血液検体のうち、これまでに1,114例で水溶性低分子化合物の分析を終えた。このうち、いくつかの化合物が脳萎縮と有意に関連した。
アストロサイトから放出されるサイトカインのうち、IGFBP-3がニューロン傷害性に働き、アルツハイマー病の病理学的特徴である神経原線維変化生成につながるタウタンパク質のリン酸化に影響を与えることを明らかにした。コホート研究で成果の検証を進める。
【考察】
本年度のフォローアップ調査で、約3,800名分の臨床情報と生体試料とを収集することができた。このうち、約2,000例で認知症/MCIの検査を行っており、従来の同種のコホート研究に比して十分なサンプルサイズを確保できた。次年度以降、分子レベルで認知症の分子マーカーを解析する基盤が整った。
MCIsceenでの評価の結果、60%以上高齢者の約60%がMCIと判定された。糖代謝、脂質代謝、腎機能などを反映する一般的なマーカーはMCIとは関連せず、その一方で、質量分析計で測定した低分子化合物は、脳萎縮と比較的良く関連した。加えて基礎研究から認知症との関連が強く期待される候補分子も同定している。これらの成果は、オミックス解析技術を駆使した従来にない精緻な分析によって、あらたな分子マーカーが見つかる可能性を裏付ける。HDLコレステロールの亜分画やsmall dense LDLコレステロールなど、近年になって様々な病態との関連が示唆されているマーカーも含め、次年度以降、認知機能との関連を包括的に検討してく計画である。
本事業では、認知機能の評価と同時に頭部MRI/MRAを施行していることが大きな強みである。認知機能低下には脳萎縮や無症候性脳血管障害など、脳の器質的障害が潜在する可能性は極めて高い。本事業では、これら潜在的リスク因子の交絡の影響を除外して認知機能と分子マーカーとの関連を検討できる点で、他の同種の研究にない強みを持つ。また、脳萎縮など器質的障害と関連する分子マーカーを探索することで、認知機能の低下を先行して評価しうるマーカーの探索につながるかもしれない。
結論
研究班員の緊密な連携の下、計画通りに事業を進めた。フォローアップ調査で約3,700名分のデータを収集するとともに、脳萎縮や認知機能低下に関連しうる候補分子を複数得た。来年度以降、収集した生体資料の分析と、それらを統合したオミックス解析から、脳萎縮/認知機能に関連する分子マーカーを探索するための基盤が整った。
公開日・更新日
公開日
2015-06-08
更新日
-