慢性疼痛のトランスレーショナルリサーチ -精神心理学的・神経免疫学的側面からの病態解明と評価法開発-

文献情報

文献番号
201443001A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性疼痛のトランスレーショナルリサーチ -精神心理学的・神経免疫学的側面からの病態解明と評価法開発-
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
細井 昌子(九州大学病院 心療内科)
研究分担者(所属機関)
  • 津田 誠(九州大学大学院 薬学研究院 創薬科学部門 ライフイノベーション分野)
  • 橋本 亮太(大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学連合 小児発達学研究科)
  • 加藤 隆弘(九州大学 先端融合医療レドックスナビ研究拠点 九州大学病院 精神科神経科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 慢性の痛み解明研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性疼痛の患者は年々増加しており、様々な診療科を受診するが、その病態の客観的な評価法および診断法は未だ存在せず、標準的な治療法も確立していないのが現状である。慢性疼痛患者の増加とそれによる医療経済上の負担を考慮すると、病態を客観的に鑑別し、重症度を評価できる診断評価ツールの開発は厚生労働行政上急務である。そこで、今回の研究では精神心理社会的側面に関するこれまでの臨床的な知見に加えて、疼痛のミクログリア仮説にのっとり、末梢血単球由来ミクログリア様細胞を用いた神経免疫学的解析の開発を開始し、臨床的に有用な慢性疼痛の客観的診断システムを開発する。
研究方法
この研究では、慢性疼痛の動物モデルにおけるミクログリア異常、慢性疼痛臨床における心身医学的モデルをもとに、ミクログリア異常を含む生物心理社会的因子の同定につながる臨床的評価法の開発、および精神疾患と疼痛症状の合併に関与するミクログリア異常について注目し、慢性疼痛の病態基盤としての中枢ミクログリア異常に関するトランスレーショナルリサーチを展開する。とくに、分担研究者の加藤らが開発してきたヒト血液から二週間で直接誘導システムによりミクログリア様細胞(iMG細胞)をin vitroで作製する技術(2014年1月特許出願済)は、ミクログリア病と知られているNasu-Hakola病で異常を来すことが知られてきたが、九州大学病院心療内科を受診した慢性疼痛患者の末梢血からのiMG細胞で、疾患特異的なミクログリアの異常があるかどうかを検討した。また、基礎研究として、幼少期に母子分離を起こした隔離マウスは前部帯状回のミクログリアの形態異常が知られているが、成年後に神経障害性疼痛モデルを作成し、その侵害受容行動を調べた。臨床研究では、心療内科および精神科における痛みと精神心理症状について調査した。
結果と考察
1) 動物モデル研究(津田・井上)では、神経障害性疼痛モデルマウスで、隔離マウスは集団マウスと比べて神経障害後初期にみられる逃避閾値の低下が有意に促進しており、痛みをより強く感じていることが示唆された。
2) 心療内科慢性疼痛患者における末梢血の単球由来の誘導ミクログリア様細胞(iMG)を使った診断システムの開発(加藤・神庭&細井・須藤)については、測定系が確立し、臨床サンプルにおいて 自記式の主観的評価法とともに、自律神経機能検査などの重症度に関与する因子を分析する測定様式が確立した。そのシステムでパイロット研究として、3人の線維筋痛症患者と3人の健常人を検討したところ、疼痛患者由来iMGでは、ATP刺激において、特に1時間後にTNF-αの活性化亢進傾向を認めた。
3) 線維筋痛症患者の精神医学的病態評価(橋本)について蓄積されたデータを解析したところ、347名中330名(94.6%)が精神医学的診断を有すると評価され、平均1.46の精神医学的診断名を有し精神医学的異常の合併が高頻度であることが明らかになった。
結論
動物モデル研究では、慢性疼痛臨床で示唆されてきた心理社会的因子のひとつである養育因子(母子愛情遮断)と成年後の神経障害性疼痛モデルでの疼痛閾値の低下から、成年後の痛覚系異常の準備因子として、幼少期のミクログリア異常をきたすプライミング効果が示唆された。また、心療内科を受診した慢性疼痛患者の心理社会的因子に関する臨床評価の質問紙では健常人と有意な差が判明し、その差のバイオマーカーのひとつとしてiMGを使った診断システムの開発が始動し、ATP刺激1時間後のTNF-αの活性化亢進傾向などの差が検出され、今後の解析を進めていく。また、線維筋痛症患者における精神症状が大多数で観察されていることも判明し、ミクログリア関連異常についての検証を進めていく必要が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201443001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
動物モデル研究では、慢性疼痛臨床で示唆されてきた心理社会的因子のひとつである養育因子(母子愛情遮断)と成年後の神経障害性疼痛モデルでの疼痛閾値の低下が検討され、成年後の痛覚系異常の準備因子として、幼少期のミクログリア異常をきたす母子愛情遮断のプライミング効果が示唆された。
臨床的観点からの成果
心療内科を受診した慢性疼痛患者の心理社会的因子に関する臨床評価の質問紙では、慢性疼痛患者群では失感情症や失体感傾向が高く、情緒的孤独感を覚えやすく、身体症状・強迫傾向・敵意に関するスコアが高いなどの健常人と有意な差が判明した。その差のバイオマーカーのひとつとして誘導ミクログリア細胞(iMG)を使った診断システムの開発が始動し、ATP刺激1時間後のTNF-αの活性化亢進傾向などの差が検出され、今後の解析を進めていく。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
慢性の痛みの発症因子となる心身の刺激を受ける以前の慢性の心理社会的ストレスが準備因子となる生物学的システムに、ミクログリアのプライミングという近年注目されてきた脳科学的知見が関与していることは、HPVワクチン問題などの未解明の病態を検討する情報となる。
その他のインパクト
第2回サイコグリア研究会(2015年5月30日福岡)で、iMG解析システムについて分担研究者の加藤らのグループ(扇谷ほか)が発表した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス 2015 Vol.46 No.10:674-80
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tashima R, Mikuriya S, Tomiyama D et al.
Bone marrow-derived cells in the population of spinal microglia after peripheral nerve injury.
Scientific reports , 6 , 1-8  (2016)
10.1038/srep23701

公開日・更新日

公開日
2015-06-25
更新日
2019-07-08

収支報告書

文献番号
201443001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,970,000円
(2)補助金確定額
8,970,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 5,266,134円
人件費・謝金 574,973円
旅費 306,420円
その他 747,388円
間接経費 2,070,000円
合計 8,964,915円

備考

備考
実支出額にて研究計画通り業務が遂行されたため。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-