文献情報
文献番号
201441015A
報告書区分
総括
研究課題名
原発性免疫不全症に対する造血幹細胞移植法の確立
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
高田 英俊(九州大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
- 野々山 恵章(防衛医科大学校 医学研究科)
- 平家 俊男(京都大学大学院医学研究科)
- 小島 勢二(名古屋大学大学院医学系研究科)
- 小林 正夫(広島大学大学院医歯薬保健学研究院)
- 有賀 正(北海道大学大学院医学研究科)
- 今井 耕輔(東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 難治性疾患等実用化研究(免疫アレルギー疾患等実用化研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,634,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
原発性免疫不全症は300種類以上の疾患が報告されており、極めてまれな疾患も含まれる。原発性免疫不全症では造血幹細胞移植が必要な場合があるが、移植方法は統一されておらず、国内での移植症例数やその成績も明確ではない。本研究は、原発性免疫不全症に対する造血幹細胞の現状を把握し、その問題点を明らかにし、最適な造血幹細胞移植法を疾患ごとに確立し、長期的な観点を含めた患者QOLを向上させることを目的とする。
研究方法
以下の2つの方法を用いて解析を行った。
(1) 原発性免疫不全症に対する造血幹細胞移植を専門的な立場で行っている施設(研究分担者所属施設)に対して、患者登録、移植データの入力を依頼し解析する方法。
(2) 日本造血細胞移植学会のデータベース(移植症例登録一元管理プログラム:TRUMP)を活用し解析する方法。
移植前処置、GVHD予防、ドナーソース、感染症コントロール、生着、キメリズム、免疫学的再構築、予後を中心に検討した。各施設で造血幹細胞移植関連のデータ解析、基礎研究を分担・協力して行った。本研究は、九州大学臨床研究倫理審査委員会の承認を得て行った。
(1) 原発性免疫不全症に対する造血幹細胞移植を専門的な立場で行っている施設(研究分担者所属施設)に対して、患者登録、移植データの入力を依頼し解析する方法。
(2) 日本造血細胞移植学会のデータベース(移植症例登録一元管理プログラム:TRUMP)を活用し解析する方法。
移植前処置、GVHD予防、ドナーソース、感染症コントロール、生着、キメリズム、免疫学的再構築、予後を中心に検討した。各施設で造血幹細胞移植関連のデータ解析、基礎研究を分担・協力して行った。本研究は、九州大学臨床研究倫理審査委員会の承認を得て行った。
結果と考察
(1) 移植データの解析
平成25年1月1日から平成26年6月30日までの期間に初回の造血幹細胞移植を受けた患者は37名であり、CGD:14例、SCID:4例等であった。移植前合併症は、CGD腸炎、皮膚膿瘍、肺アスペルギルス症、肝膿瘍、ニューモシスティス肺炎等が見られ、肺アスペルギルス症は死亡原因となっていた。移植後の死亡は、CGD:1名、SCID:1名、CMCC:2名であり、死亡要因は、肺アスペルギルス2名、生着不全1名、CYによる心筋障害1名であった。
(2) TRUMPデータベースからの解析
XLTは、WASに比べ高年齢での移植であったが(13例が6歳以上)、85.1%の長期生存率を達成していた。CD40L欠損高IgM症候群では、造血幹細胞移植を受けない患者の長期生存率は30%であり、平均生存年数は23年であった。他方、5歳までに移植を受けた14例は全例生存しており、5歳以上で移植した症例の長期生存率は71.8%と良好な成績であった。
(3) 各疾患での解析
CD3delta欠損症患者の造血幹細胞移植後の長期的な免疫能を解析した結果、この疾患では移植後の胸腺でのキメリズムを高く保つために、移植前処置が必要であることが明らかになった。SCN患者に対するFludarabineを中心とした骨髄非破壊的前処置による骨髄移植9例(10回)を解析した結果、7例で移植後完全キメラを誘導でき、1例は再移植で完全キメラを誘導できた。
CD40 ligand欠損症では、造血幹細胞移植を受けない場合、40歳での生存率が42.1%と不良であることが判明した。移植成績を検討したところ、5歳以下で移植を行った場合、全生存率は100%であり、6歳以上で移植をした群と比較して優位に良好な成績であった。XLTでは、移植を行った24例の全生存率は83.3%であった。非移植例では、75%の患者が脳内出血、脾摘後の全身感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍などを発症する。XLTでは、根治療法としての造血幹細胞移植が選択肢に入る事が示された。
(4) 移植療法改善に向けた研究
ATGを含む前処置で、移植後4週の時点でATG血中濃度の低値(<6.2μg/ml)とグレードⅡ~ⅣのGVHDに有意な相関が認められたが(p = 0.003)、EBVの有意な再活性化は認められなかった。一定以上のATG血中濃度を目指すことで合併症を増やすことなく、より高い治療効果が得られる可能性が考えられた。
CMV感染を契機として生後1か月時で発症したFHL3型の男児に対して非血縁臍帯血移植を行い、定期的な血中モニタリングと予防的治療を行っていたにも関わらずサイトメガロウイルス(CMV)による網膜炎を発症し、永続的な障害を残した事が報告され、血中モニタリングだけを指標にしたCMV合併症予防には限界がある事が示された。
(5) 新たな造血幹細胞移植法ガイドラインの作成
毛細血管拡張性小脳失調症は、適応を十分考慮した上で、造血幹細胞移植が必要と判断された場合、2つの移植前処置が適応可能であることが提案された。今後、DNA修復障害をともなう免疫不全症の移植症例があれば、その詳細を解析していく方針である。
(6) 造血幹細胞移植に関連する基礎研究の展開
BTK遺伝子異常を対象として遺伝子修復研究を行っている。
平成25年1月1日から平成26年6月30日までの期間に初回の造血幹細胞移植を受けた患者は37名であり、CGD:14例、SCID:4例等であった。移植前合併症は、CGD腸炎、皮膚膿瘍、肺アスペルギルス症、肝膿瘍、ニューモシスティス肺炎等が見られ、肺アスペルギルス症は死亡原因となっていた。移植後の死亡は、CGD:1名、SCID:1名、CMCC:2名であり、死亡要因は、肺アスペルギルス2名、生着不全1名、CYによる心筋障害1名であった。
(2) TRUMPデータベースからの解析
XLTは、WASに比べ高年齢での移植であったが(13例が6歳以上)、85.1%の長期生存率を達成していた。CD40L欠損高IgM症候群では、造血幹細胞移植を受けない患者の長期生存率は30%であり、平均生存年数は23年であった。他方、5歳までに移植を受けた14例は全例生存しており、5歳以上で移植した症例の長期生存率は71.8%と良好な成績であった。
(3) 各疾患での解析
CD3delta欠損症患者の造血幹細胞移植後の長期的な免疫能を解析した結果、この疾患では移植後の胸腺でのキメリズムを高く保つために、移植前処置が必要であることが明らかになった。SCN患者に対するFludarabineを中心とした骨髄非破壊的前処置による骨髄移植9例(10回)を解析した結果、7例で移植後完全キメラを誘導でき、1例は再移植で完全キメラを誘導できた。
CD40 ligand欠損症では、造血幹細胞移植を受けない場合、40歳での生存率が42.1%と不良であることが判明した。移植成績を検討したところ、5歳以下で移植を行った場合、全生存率は100%であり、6歳以上で移植をした群と比較して優位に良好な成績であった。XLTでは、移植を行った24例の全生存率は83.3%であった。非移植例では、75%の患者が脳内出血、脾摘後の全身感染症、自己免疫疾患、悪性腫瘍などを発症する。XLTでは、根治療法としての造血幹細胞移植が選択肢に入る事が示された。
(4) 移植療法改善に向けた研究
ATGを含む前処置で、移植後4週の時点でATG血中濃度の低値(<6.2μg/ml)とグレードⅡ~ⅣのGVHDに有意な相関が認められたが(p = 0.003)、EBVの有意な再活性化は認められなかった。一定以上のATG血中濃度を目指すことで合併症を増やすことなく、より高い治療効果が得られる可能性が考えられた。
CMV感染を契機として生後1か月時で発症したFHL3型の男児に対して非血縁臍帯血移植を行い、定期的な血中モニタリングと予防的治療を行っていたにも関わらずサイトメガロウイルス(CMV)による網膜炎を発症し、永続的な障害を残した事が報告され、血中モニタリングだけを指標にしたCMV合併症予防には限界がある事が示された。
(5) 新たな造血幹細胞移植法ガイドラインの作成
毛細血管拡張性小脳失調症は、適応を十分考慮した上で、造血幹細胞移植が必要と判断された場合、2つの移植前処置が適応可能であることが提案された。今後、DNA修復障害をともなう免疫不全症の移植症例があれば、その詳細を解析していく方針である。
(6) 造血幹細胞移植に関連する基礎研究の展開
BTK遺伝子異常を対象として遺伝子修復研究を行っている。
結論
原発性免疫不全症に対する造血幹細胞移植に関して、多くの情報を収集解析し、最適な移植法確立のための有意義な結果を得る事ができた。
公開日・更新日
公開日
2015-06-12
更新日
-