制御性T細胞治療による臨床肝移植における免疫寛容誘導法の多施設共同研究

文献情報

文献番号
201441012A
報告書区分
総括
研究課題名
制御性T細胞治療による臨床肝移植における免疫寛容誘導法の多施設共同研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
藤堂 省(聖マリア学院大学大学院 大学院看護学研究科移植医療研究講座)
研究分担者(所属機関)
  • 山下 健一郎(北海道大学医学(系)研究科)
  • 大段 秀樹(広島大学 医歯薬保健学研究院)
  • 垣生 園子(順天堂大学 医学部)
  • 場集田 寿(順天堂大学 医学部)
  • 奥村 康(順天堂大学 医学部)
  • 江川 裕人(東京女子医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 難治性疾患等実用化研究(免疫アレルギー疾患等実用化研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,918,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝臓移植は末期肝不全患者に対する究極の治療法として広く普及してきた。これら患者は拒絶反応制御の為、免疫抑制剤を生涯服用しなければならず、感染症・発癌・薬剤による副作用等の回避のために、免疫寛容の誘導が必須である。
平成22年からの3年間で10例の成人肝移植患者に、ドナー抗原特異的な制御性T細胞を用いた細胞治療による免疫寛容誘導法の臨床研究を行った。その結果、7例で12か月以上、内4例は24か月以上、免疫抑制剤を中止しても正常な肝機能と組織像を維持することが出来た。自己免疫肝疾患の3例は、減量中に軽い拒絶反応を生じ、現在少量の免疫抑制剤を投与している。
本多施設共同研究は多くの症例の集積と分析を通じて免疫寛容誘導法の確立と臨床上の諸問題を解決することを目的とする。

研究方法
1. 対象患者
北海道大学病院、東京女子医大学病院、広島大学病院、および、久留米大学病院と聖マリア病院の混成チームに入院中の末期肝不全患者を対象とする。
2. 研究の方法
(1)研究の種類・デザイン
非対照、非盲検による探索的臨床試験(第2相臨床試験)
(2)試験のアウトライン
患者およびドナーリンパ球を所定量で採取し、抗CD80抗体、抗CD86抗体存在下で14日間培養し、制御性T細胞を誘導・増殖させ、患者に投与する。免疫抑制療法を規定に従って投与・漸減・中止し、免疫寛容状態が得られたかを評価する。
(3)生体肝移植の実施方法
各施設にて行っている標準的肝移植術および術後管理法に準じる。
(4)免疫抑制療法
 本研究での免疫抑制療法
各施設の標準的免疫抑制剤は以下の通りである。①プログラフ、②セルセプト、③ステロイド④サイクロフォスファマイド⑤培養リンパ球(制御性T細胞)
(5)免疫抑制剤からの離脱
血液生化学検査や免疫学的検査から、免疫抑制剤を段階的に減量する。
(8)拒絶反応の診断と治療
T-Bil/AST/ALT/γ-GTPなどのいずれかが基準値の2倍以上に上昇した場合、拒絶反応を疑い、直ちに肝生検を行い、通常の治療を行う。
結果と考察
結果:10例の肝移植症例における培養総リンパ球数は2週間後に減少したが、CD4+CD25+Foxp3+、CD4+CD25+CTLA4+およびCD4+CD127loFoxp3+細胞制御性T細胞は増加した。また、誘導された制御性T細胞はドナー抗原に対し細胞数依存性的に抑制した。他方、第三者抗原に対する抑制はドナー抗原に比べ弱く、培養制御性T細胞は抗原特異性が比較的高い細胞であることが示唆された。各症例の結果は以下の通りである。(症例1):39歳、男性。C型肝硬変。免疫抑制剤中止から26ヶ月経過。(症例2):63歳、男性。アルコール性肝硬変。免疫抑制剤中止から25ヶ月。(症例3):56歳、男性。NASH肝硬変。免疫抑制剤中止から約24ヶ月経過。(症例4);59歳、男性。B型肝硬変・肝細胞癌。免疫抑制中止から24月経過。(症例5):59歳、男性。PBC。減量中の拒絶のためtreatment failure。(症例6):55歳、女性。PSC。減量中の拒絶のためtreatment failure。(症例7):59歳、女性。NASH+HCC。現在中止後21ヶ月。(症例8):52歳、男性。アルコール性肝硬変。術後17ヶ月で肝機能は安定。(症例9):58歳、女性。PBC。術後9ヶ月目の肝生検にてmild ACRの診断。treatment failure。(症例10):55歳、男性。NASH肝硬変+ HCC (Milan基準内)。中止後15ヶ月で正常な肝機能。
考察; 制御性T細胞を用いた細胞治療は、欧米において骨髄移植患者で臨床試験中であるが、これらは抗原非特異的なT細胞用いた治療であり、本研究の如く、ドナー抗原に対し特異性な制御性T細胞を用いた臨床試験は未だ行われていない。本研究の成果は第1に移植患者の免疫抑制剤服用量を軽減もしくは中止できること。第2に医療経済的見地から、高額医療の多くを占める免疫抑制療法と合併症治療にかかる医療経費を軽減できることである。本細胞治療の結果を検証するために、「再生医療等の安全確保法」に基き、国内の多施設共同試験として、現在より多くの症例を集積中である。
結論
生体肝移植症例計10例において、制御性T細胞を用いた新しい免疫抑制療法の臨床試験を施行した。患者の末梢単核球細胞を抗CD80抗体および抗CD86抗体存在下に2週間共培養することで、制御性T細胞が高率に誘導され、細胞治療を受けた生体肝移植10症例中、7症例で免疫抑制剤の減量・中止に成功した。残り3症例は薬剤減量中に拒絶反応を来したが、免疫抑制剤維持により肝機能は正常化した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201441012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
制御性T細胞を用いた細胞治療は、欧米において骨髄移植患者のGVH反応抑制目的で臨床試験中であり、一定の成果が報告されている。しかし、これらは第三者由来の抗原非特異的な所謂naturally occuring regulatory T細胞用いた治療である。本研究の如く、ドナー抗原に対し特異性の高い制御性T細胞を誘導し細胞治療を行う臨床試験は未だ行われておらず、本研究の成果は学術的のみならず国際的にも意義は大きい。
臨床的観点からの成果
肝臓移植は末期肝不全患者に対する究極の治療法として広く普及してきた。これら患者は拒絶反応制御の為、免疫抑制剤を生涯服用しなければならず、感染症・発癌・薬剤による副作用等の回避のために、免疫寛容の誘導が必須である。平成22年からの3年間で10例の成人肝移植患者に、ドナー抗原特異的な制御性T細胞を用いた細胞治療による免疫寛容誘導法の臨床研究を行った。その結果、7例で12か月以上、内4例は24か月以上、免疫抑制剤を中止しても正常な肝機能と組織像を維持することが出来た。
ガイドライン等の開発
治療プロトコールは、患者およびドナーリンパ球を所定量で採取し、抗CD80抗体、抗CD86抗体存在下で14日間培養し、制御性T細胞を誘導・増殖させ、患者に投与する。①プログラフ、②セルセプト、③ステロイド④サイクロフォスファマイド⑤培養リンパ球(制御性T細胞)による免疫抑制療法を行い、、術後6か月より3か月ごとに投与量を漸減し、18か月目に中止する。その後に定期的に肝機能、肝生検を行い、寛容状態を確認する。
その他行政的観点からの成果
肝臓移植は手術そのものに多額な費用を必要とするのみならず、年間に150から200万円の免疫抑制剤の費用を終生負担しなければならない。しかも、これら薬剤は、感染症、がん、腎機能不全、糖尿病などの合併症を生じる危険性が高く、検査、治療に要する医療費も高額に上る。本治療法は、患者を健康で正常な生活を営ませるのみならず、医療経済学的にも、また、行政的観点からも高く評価されるものである。
その他のインパクト
読売新聞;移植法改正3年(2)免疫抑制剤使わず治療(2013年6月20日)
日本経済新聞;移植医療、九州で先駆ける (2013年9月14)
日本経済新聞;臓器移植拒絶反応防ぐ (2015年1月19日)

発表件数

原著論文(和文)
5件
藤堂(3編)、山下(1編)、江川(1編)
原著論文(英文等)
77件
藤堂(10編)、山下(4編)、奥村(15編)、大段(40編)、江川(8編)
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
第114回日本外科学会定期学術集会(4演題):京都、2014年4月3−5日 第50回日本移植学会総会(2演題):2014年9月10−12日
学会発表(国際学会等)
4件
ILTS(2演題):London, UK, June 4-7, 2014 WTC (2演題): CA, USA, July 26-31, 2014.
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
9件
1.講演(4回)、2.Invited Speaker(3回)、3.特別講演(2回)

特許

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分類:

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
201441012Z