小児白血病におけるバイオマーカーによる早期診断技術の確立と実用化に関する研究

文献情報

文献番号
201438062A
報告書区分
総括
研究課題名
小児白血病におけるバイオマーカーによる早期診断技術の確立と実用化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 健一(京都大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 清河信敬(国立成育医療研究センター)
  • 今村俊彦(京都府立医科大学医学部)
  • 滝 智彦(京都府立医科大学医学部)
  • 嶋田 明(岡山大学医学部)
  • 加藤元博(東京大学医学部附属病院)
  • 平松英文(京都大学医学研究科)
  • 柴 徳生(群馬大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,760,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者の真田昌が研究機関を移動したため、2014年10月~2015年3月まで吉田健一(京都大学医学研究科・助教)が研究代表を担当した。

研究報告書(概要版)

研究目的
小児白血病の治療成績は、過去40年間で著しい改善を遂げたが、約20%は再発し、造血幹細胞移植による救済が困難な症例も少なくない。一方で、生命予後の改善により二次がんを含む晩発性の治療合併症も問題視され、現行の予後予測因子による層別化では、治療成績の更なる改善と副作用の軽減という、相反する2つの大きな課題を解決することは不可能である。そこで、本研究では日本小児がん研究グループJCCGの白血病研究の一環として、日本小児白血病リンパ腫研究グループJPLSGおよび傘下のグループに属する豊富な臨床検体と臨床情報データベースを活用し、最新の研究成果をもとに協調をして、次世代のバイオマーカーを用いた早期診断技術の確立を目指す。
研究方法
有用性が既に確立されている、もしくは期待されるバイオマーカーを用いた分子診断の実用化へ向けた検討を推進するとともに、既存のマーカーでは層別化不能な症例における新規分子マーカーの網羅的な探索と再発危険群を早期に捕捉可能な診断技術の確立を目指した研究を進めている。
①実用化を目指した分子診断技術の確立:白血病診療において、染色体分析結果は重要な予後指標であるが、標準法であるG分染法の検出感度や評価の問題が指摘されており、ゲノムアレイなどを用いて、より精度の高い診断法の確立を目指した検討を行った(滝)。治療経過中における微小残存病変(MRD)の評価は有用な予後指標であると認識され、治療反応性の評価に基づく治療選択等に活用されているが、次世代シーケンス技術を使用した測定方法について、基礎検討を行った(加藤)。血中microRNA測定は低侵襲性に継時的な評価が可能なバイオマーカーとして注目をされているが、白血病細胞特異的な発現があるmicroRNAを用いたMRD評価の有用性について、基礎検討を行った(平松)。遺伝子発現プロファイルに基づき、様々なチロシンキナーゼ関連融合遺伝子を高頻度に観察される小児ALLを亜分類されるが、簡便かつ迅速な、実用的な診断技術を確立する目的に、遺伝子発現解析ならびにFACS解析による検討を行った(清河)。近年、白血病細胞にしばしば観察される体細胞変異遺伝子が明らかとなり、予後との関連が示されつつある。既知の変異遺伝子などを対象に分子診断用白血病パネルを作成し、臨床検体を用いた解析を行った(嶋田)。チロシンキナーゼ関連融合遺伝子の検出は、有用な予後予測マーカーであるとともに、分子標的薬剤の適応を考える上で重要な指標となる。そこで、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)が有効と考えられるPDGFRB, ABL1, JAK2再構成を検出可能なFISH法の検討を行った(今村)。
②網羅的な分子診断マーカーの探索:明らかな予後不良マーカーを有さない再発例で、経時的な検体採取されている症例を対象に、全エクソンならびに変異遺伝子のdeep sequenceによるvaliant allele頻度解析を行い、クローンの経時的推移を詳細に解析した(真田)。RNAシーケンスによるAML例の網羅的な融合遺伝子の探索・同定を行った(柴・真田)。
結果と考察
標準的な治療に抵抗性、かつTKIの有効性が期待される症例の絞り込みを行う目的にPDGFRB, ABL1, JAK2再構成陽性例を検出するFISH法を用いたスクリーニング系を確立した。スクリーニングを有効かつ効率的に進める目的で、この亜群を特徴づける遺伝子変化を特定した。次世代シーケンス技術を活用した1塩基変異によるMRDによる治療反応性評価方法を検討し、10^4の残存病変までは高い定量性をもって検出可能であり、10^6までの定性的な検出も可能であった。次世代シーケンサーによるターゲットシーケンスを小児白血病検体に対して行い、比較的簡便かつ正確に、限られた時間内に検出・評価が可能であり、実用性が期待できる変異解析方法と考えられた。高精度の染色体診断法開発に向け、造血器腫瘍細胞株8株におけるSKY法とゲノムアレイ法の比較検討を行った。
探索的な検討では、小児AML47例のRNAシーケンスを行い、染色体分析では同定されなかった多数の融合遺伝子候補が同定され、現在、評価中である。明らかな予後不良因子を有さないにも関わらず再発を認めたB-ALL症例において、継時的に採取された検体の全エクソン解析を行い、再発に至る腫瘍クローンの推移を明らかにした。
結論
小児白血病診療における実用性の高いバイオマーカー診断技術の確立を目指して、既知のバイオマーカーの実用化へ向けた検討と網羅的な解析による新規バイオマーカーの探索研究を進めた。特に既存の分子標的薬剤の有用性が高い予後不良症例を早期に捕捉することは、短期的に診療成績を向上させることが期待できる診断技術であり、次年度以降、重点的に進めていく。

公開日・更新日

公開日
2015-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438062C

成果

専門的・学術的観点からの成果
様々な遺伝子解析技術を駆使し、小児白血病における診療上有用なバイオマーカーの探索ならびに診断技術としての確立を進めている。
臨床的観点からの成果
チロシンキナーゼ阻害薬の適応となるABL1, PDGFRB再構成の検出のためのFISHの系を確立し、再発および寛解導入不能小児B前駆細胞型ALL(BCP-ALL)のスクリーニングを開始した。JAK2阻害薬の適応となるJAK2再構成陽性 BCP-ALLのFISH法を用いたスクリーニング系を確立した。
ガイドライン等の開発
ガイドラインとして記載される臨床上の有用性と質を担保した分子診断技術の確立を目指しているが、現時点ではガイドラインとなっている成果はない。
その他行政的観点からの成果
既存の分子標的薬剤への有用性が期待できる症例をスクリーニングすることにより、難治例の診療成績の改善のみならず、同薬剤の適応拡大ならびに適正使用にも貢献できると考える。
その他のインパクト
特記すべきことなし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
23件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-09-14
更新日
-

収支報告書

文献番号
201438062Z