文献情報
文献番号
201438002A
報告書区分
総括
研究課題名
メトホルミンによる腫瘍局所免疫疲弊解除に基づく癌免疫治療研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
鵜殿 平一郎(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 豊岡 伸一(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
- 木浦 勝行(岡山大学病院)
- 藤原 俊義(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
- 和田 淳(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
- 樋之津史郎(岡山大学病院)
- 平田 泰三(岡山大学病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
がんに対する免疫応答は患者体内で誘導されるが、腫瘍内ではその機能が発揮できない。これはCD8T 細胞が腫瘍局所で免疫チェックポイント分子PD-1,Tim-3 などを発現し、一方、腫瘍ではそれぞれのリガンドであるPD-L1,ガレクチン9 が発現し、分子間会合によりCD8T細胞が疲弊することが原因である。2 型糖尿病治療薬メトホルミンの抗腫瘍効果は、CD8T 細胞の免疫疲弊を回避し、制御性T 細胞(Treg)と骨髄由来抑制性マクロファージ(MDSC)の機能を抑制すること、が主要なメカニズムであることを証明し、さらにCD8T 細胞の免疫疲弊解除のメカニズムを細胞及び分子レベルで解明する。次に動物モデルで証明された内容が、ヒト腫瘍でも同じであることを証明し、新たな癌治療の方向性を提示する。
研究方法
担癌マウスにメトホルミンを投与すると、腫瘍は拒絶される。拒絶はSCID マウスでは起こらない。また抗CD8 抗体を投与し体内のCD8T 細胞を除去すると、拒絶はキャンセルされるためエフェクター細胞はCD8T 細胞である。TIL を回収してPD-1、Tim-3 疲弊分子の発現を調べ、さらにAnnexinV によりアポトーシスの有無を検討した。さらにCD8TIL をPMA とイオノマイシンで刺激し、その多機能性(IL-2,TNFα,IFNγの同時産生能)を観察した。
結果と考察
結果
腫瘍塊の中には、腫瘍浸潤CD8T(CD8TILs)はセントラル・メモリーT 細胞(TCM)として存在するが、メトホルミン服用によりTCM は減少し、エフェクター・メモリーT 細胞(TEM)さらにエフェクターT 細胞(Teff)が増加し、多機能生の優位な亢進が観察された。CD8TILsのアポトーシスは抑制されていた。抗原特異的CD8T 細胞の養子移入実験においても同様のことが観察された。
重要な結果は下記になる。
1. ex vivo でCD8T 細胞のメトホルミン処理時にAMPK 阻害剤compound C を加えると、一連の事象は全て消失した。
2. 移入CD8T 細胞がIRF4 を欠損していれば、メトホルミン処理効果は全て消失する。
3. 移入CD8T 細胞のメタボローム解析の結果、メトホルミン処理で旺盛なアミノ酸代謝活性が認められた。
4. 移入CD8T 細胞の網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq.)を3.と同様の条件で現在解析中である。
上記結果のうち、一部は誌上に発表した。(PNAS10;112(6):1809-14,2015)
また、腫瘍局所に浸潤したTreg及びG-MDSCの数はメトホルミン投与により、一過性に減少することがわかった。
臨床研究においては、
原発性肺癌および転移性肺腫瘍の患者15名から腫瘍組織の採取を行い、腫瘍浸潤リンパ球を分離してフローサイトメーターにて表面形質および多機能性の解析を行った。このうち3名において、腫瘍浸潤リンパ球を凍結保存し、約1週間後に解凍して表面形質の変化がないかどうか、また多機能性解析に耐えうるか否かを検討した。その結果、一度凍結保存した腫瘍浸潤リンパ球の表面形質は凍結前と比較して大きく変化していること、そして多機能性も変化していた。従って、腫瘍浸潤リンパ球は採取後に一旦凍結保存する、という当初の予定を変更することとなった。即ち、腫瘍浸潤リンパ球は採取したその日のうちに表面形質及び多機能性を解析することした。また、メトホルミンを服用した20名の健常人リンパ球を凍結保存した。
考察
メトホルミンによるCD8T 細胞の活性化には、AMPK 活性化、IRF4 発現、代謝亢進(解糖系と酸化的リン酸化)が必須である可能性が高い。養子移入実験は極めて有用な手段であり、compound C と同様に様々な阻害剤を用いた実験に応用可能である。従って、メトホルミンと各種阻害剤で処理したCD8T 細胞を養子移入し、浸潤後のTEMへの 分化を解析する。阻害剤としては、mTORC 阻害剤、HIF1 阻害剤(解糖系阻害)、酸化的リン酸化阻害剤、オートファジー阻害剤(3MA)などを使用することが考えられる。また、臨床研究のを進めるための試行錯誤の予備検討ではあったが、ヒト腫瘍浸潤リンパ球は既に疲弊しているため、回収・凍結保存後の生存率が悪く、機能解析に向かないと考えられた。
腫瘍塊の中には、腫瘍浸潤CD8T(CD8TILs)はセントラル・メモリーT 細胞(TCM)として存在するが、メトホルミン服用によりTCM は減少し、エフェクター・メモリーT 細胞(TEM)さらにエフェクターT 細胞(Teff)が増加し、多機能生の優位な亢進が観察された。CD8TILsのアポトーシスは抑制されていた。抗原特異的CD8T 細胞の養子移入実験においても同様のことが観察された。
重要な結果は下記になる。
1. ex vivo でCD8T 細胞のメトホルミン処理時にAMPK 阻害剤compound C を加えると、一連の事象は全て消失した。
2. 移入CD8T 細胞がIRF4 を欠損していれば、メトホルミン処理効果は全て消失する。
3. 移入CD8T 細胞のメタボローム解析の結果、メトホルミン処理で旺盛なアミノ酸代謝活性が認められた。
4. 移入CD8T 細胞の網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq.)を3.と同様の条件で現在解析中である。
上記結果のうち、一部は誌上に発表した。(PNAS10;112(6):1809-14,2015)
また、腫瘍局所に浸潤したTreg及びG-MDSCの数はメトホルミン投与により、一過性に減少することがわかった。
臨床研究においては、
原発性肺癌および転移性肺腫瘍の患者15名から腫瘍組織の採取を行い、腫瘍浸潤リンパ球を分離してフローサイトメーターにて表面形質および多機能性の解析を行った。このうち3名において、腫瘍浸潤リンパ球を凍結保存し、約1週間後に解凍して表面形質の変化がないかどうか、また多機能性解析に耐えうるか否かを検討した。その結果、一度凍結保存した腫瘍浸潤リンパ球の表面形質は凍結前と比較して大きく変化していること、そして多機能性も変化していた。従って、腫瘍浸潤リンパ球は採取後に一旦凍結保存する、という当初の予定を変更することとなった。即ち、腫瘍浸潤リンパ球は採取したその日のうちに表面形質及び多機能性を解析することした。また、メトホルミンを服用した20名の健常人リンパ球を凍結保存した。
考察
メトホルミンによるCD8T 細胞の活性化には、AMPK 活性化、IRF4 発現、代謝亢進(解糖系と酸化的リン酸化)が必須である可能性が高い。養子移入実験は極めて有用な手段であり、compound C と同様に様々な阻害剤を用いた実験に応用可能である。従って、メトホルミンと各種阻害剤で処理したCD8T 細胞を養子移入し、浸潤後のTEMへの 分化を解析する。阻害剤としては、mTORC 阻害剤、HIF1 阻害剤(解糖系阻害)、酸化的リン酸化阻害剤、オートファジー阻害剤(3MA)などを使用することが考えられる。また、臨床研究のを進めるための試行錯誤の予備検討ではあったが、ヒト腫瘍浸潤リンパ球は既に疲弊しているため、回収・凍結保存後の生存率が悪く、機能解析に向かないと考えられた。
結論
メトホルミンによる免疫疲弊解除の分子メカニズムは、IRF4 及びAMPK 依存性であり、少なくとも解糖系の活性化が必要と考えられる。さらに踏み込んだ分子解明が必要である。
公開日・更新日
公開日
2015-09-11
更新日
-