重症急性膵炎に対する蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法の有効性に関する多施設共同ランダム化比較試験

文献情報

文献番号
201436001A
報告書区分
総括
研究課題名
重症急性膵炎に対する蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法の有効性に関する多施設共同ランダム化比較試験
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
下瀬川 徹(東北大学 病院 )
研究分担者(所属機関)
  • 武田和憲(国立病院機構仙台医療センター 外科)
  • 竹山宜典(近畿大学 医学部)
  • 伊藤鉄英(九州大学 医学部)
  • 真弓俊彦(産業医科大学 医学部)
  • 廣田衛久(東北大学 病院)
  • 池田浩治(東北大学 病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療技術実用化総合研究(早期探索・国際水準研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
25,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東北大学で開発された重症急性膵炎に対する蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法(動注療法)は診療ガイドラインで取り上げられるなど、重症急性膵炎に対する公知の治療法として日本では位置付けられ、15年以上前から実施されている治療法であるにも関わらず未だに保険収載されていない。
 その原因は薬剤の動脈内投与が適応外のためである。開発企業による治験が本来行われるべきであるが、後発薬品が使用されている現状では困難である。そのため、東北大学病院を中心として医師主導治験を行うことにより、動注療法の有効性と安全性を証明し薬事承認を目指すことを本研究の目的とする。
研究方法
治験:医師主導治験
対象:急性膵炎発症から48時間以内に行われた造影CT画像にて、膵の1区域以上に造影不良所見を呈し、かつ造影CT grade 2または3(厚生労働省の重症度判定基準2008による)と診断された重症急性膵炎患者。膵造影不良は区域の平均CT値が70HU未満と定義する。
試験治療:治療は症状出現から72時間以内に開始する。動脈内注入治療群(動注群)は、ナファモスタットメシル酸塩240mgを1日量として5日間動注治療を行う。静脈内注入治療群(対照群)は、同量の治験薬を中心静脈から5日間投与する。
割付け:動注群と対照群は1:1に割付ける。
主要評価項目:治験薬投与開始から2週間後の造影CTによる膵臓の画像評価において、50%以上壊死となった区域を1つ以上認める症例の割合(膵臓を頭部、体部、尾部の3区域に分ける)
副次評価項目:
a. 治験薬投与開始から2週間後の造影CTの画像評価における、膵臓の壊死範囲(%)の比較
b. 治験薬投与開始から2週間後の造影CTによるCT severity index(CTSI)
c. Numerical rating scale (NRS)による疼痛評価
d. NRS>3またはCritical-Care Pain Observation Tool (CPOT)>2である疼痛コントロール不良患者の割合
e. Modified Marshalスコア
f. 予後因子スコア
g. CRP値
h. SIRS陽性項目数
i. 治験薬投与開始から90日後における生存率
j. 治験薬投与開始から90日後までのインターベンション治療施行率
k. 治験薬投与開始から90日後における医療費(出来高)の比較治験薬投与開始から90日後における生存率
安全性評価項目:
a. 有害事象、副作用
b. 臨床検査
c. バイタルサイン(体温、血圧、脈拍数、呼吸数)
d. 動注療法の安全性についての検証
i) 止血処置または輸血が必要な刺入部出血の有無
ii) 治療が必要な皮下血腫の有無
iii) カテーテル逸脱の有無
iv) 動脈内血栓の有無
v) 仮性動脈瘤形成の有無
vi) 動脈解離形成の有無
症例数:40例(動注群:20例、静注(対照)群:20例)
症例登録期間:1年間
観察期間:90日間
参加協力施設:20施設(予定)
結果と考察
 本研究の採択が12月であり実質3ヶ月間と限られた時間であったが、研究組織の構築を急ぎながら研究計画の概要をまとめ、平成27年2月19日にPMDAとの事前面談を行った。
1. 研究概要作成
 研究方法に提示した研究概要は、自ら治験を実施する者及びプロトコール作成委員会で作成した。
2. 研究組織の構築
a. 企業への協力要請
 開発企業である鳥居薬品に経緯を説明し、医師主導治験実施と治験後の薬事申請について協力して頂くこととなった。
 また、薬事承認申請を見据え、後発薬品企業4社に対しても説明会を行った。
b. 研究協力施設候補の選定
 症例登録をして頂く協力施設は15-20施設を見込み動注症例の多い施設を中心に説明会を実施、本年度中に10施設を終了し、4-5月で残り9施設に説明を行う予定。
3. PMDA事前面談
 平成27年2月19日PMDAの担当者と面談を行った。
 本試験の位置付けについて、PMDAからは検証研究ではなく、探索研究として行うようにという指示を頂き、それに基づいてプロトコールを修正した。
結論
 重症急性膵炎に対する蛋白分解酵素阻害薬膵局所動注療法の有効性と安全性を評価する目的で多施設共同ランダム化比較試験を医師主導治験として行うことを計画している。PMDAとの事前面談を経て、本研究期間内に探索的研究を行う方針となった。早急に計画を作成し、協力施設を確定し、平成27年度中に治験を開始する。

公開日・更新日

公開日
2015-05-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201436001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 重症急性膵炎に対する動注療法の有効性について、国内からは後ろ向き試験の報告があるのみである。ポーランドから比較的質の低いランダム化比較試験が報告されており、動注療法による致命率低下などの有用性が示された。しかし、最近日本の多数例のDPCデータを用いたプロペンシティー解析では動注群は非動注群と比較して致命率で有意差がなく、逆に入院期間が有意に長く、医療費が有意に高額であったと報告された。このように、本試験で動注療法の有用性に関して質の高いエビデンスを得ることは学術的観点から重要である。
臨床的観点からの成果
 膵壊死形成は急性膵炎重症化と相関があり、死因となる早期の炎症・臓器不全および晩期の感染症の発症と関係する。急性膵炎発症早期の膵虚血が膵壊死へと進行するが、この進行を阻止する効果が期待できるのが、発症から72時間以内に行われる蛋白分解酵素阻害薬の膵局所動注療法であり、適格症例に本治療を行うことで救命率の改善が期待できる。本治療法が実際に臨床現場で使用できるように、蛋白分解酵素阻害薬の動脈内投与の承認を得て、保険収載を目指すことは臨床的に大きな意義がある。
ガイドライン等の開発
 急性膵炎診療ガイドライン2010では、「動注療法は急性壊死性膵炎の死亡率および感染性膵合併症の頻度を低下させる可能性がある」とされ、推奨度C1であったが、急性膵炎診療ガイドライン2015では、「重症急性膵炎または急性壊死性膵炎の膵感染率低下、死亡率低下において有効性を示す報告があるが有用性は確立していない。なお、保険適用がないため動注療法は臨床研究として実施することが望ましい」とされ、推奨度は記載されなかった。本研究の成果で、将来のガイドラインの記載を変えることが期待できる。
その他行政的観点からの成果
 現在では最も良い適応と考えられる、急性膵炎発症早期に造影CT Grade 3となった症例に対しても1/3程度にしか動注療法は行われていない。保険収載されることで動注療法を行われる症例が増加することが期待できる。動注療法の効果として、致命率改善のほか、壊死形成を減少させることにより、晩期合併症の膵壊死感染率を低下させる効果が期待できる。入院期間を短縮し、インターベンション治療率を低下させることで医療費の削減が期待される。
その他のインパクト
 医師主導治験で適応外薬の薬事承認を得、保険収載を実現する前例を作ることで、難病・希少疾患におけるその他の適応外薬の問題解決へ向けた道筋をつけることは、今後の日本の医療の中で大きな意味がある。また、重症急性膵炎に対する動注療法は日本で開発され、日本でしか行われていない治療法である。薬剤のナファモスタットメシル酸塩は日本で開発された薬剤であり欧米で販売されていない。質の高いエビデンスを発信することは、本治療法の海外への普及という面においても大きなインパクトを持つ。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
第52回日本腹部救急医学会総会ワークショプ「急性膵炎診療ガイドラインの検証」、革新的医療技術創出プロジェクト プロジェクト連携シンポジウム、第102回日本消化器病学会総会電子ポスター、他
学会発表(国際学会等)
2件
2nd ARO-Japan and NRPB-Taiwan workshop 口演, 第20回国際膵臓学会/第47回日本膵臓学会/第6回アジアオセアニア膵臓学会合同学会 ポスター
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2017-06-19

収支報告書

文献番号
201436001Z