データ信頼性を確保した質の高い研究者主導臨床研究実現のための臨床データ管理システム(CDMS)標準仕様の作成

文献情報

文献番号
201435010A
報告書区分
総括
研究課題名
データ信頼性を確保した質の高い研究者主導臨床研究実現のための臨床データ管理システム(CDMS)標準仕様の作成
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
石塚 直樹(公益財団法人がん研究会有明病院)
研究分担者(所属機関)
  • 手良向 聡(京都府立医科大学)
  • 飯室 聡(帝京大学)
  • 山中 竹春(横浜市立大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療技術実用化総合研究(臨床研究・治験推進研究事業)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,995,000円
研究者交替、所属機関変更
申請時には所属が国立がん研究センターであった横浜市大山中竹春教授が加わった。

研究報告書(概要版)

研究目的
ディオバン関連の試験はGCP準拠ではないが臨床試験登録も行い、結果は一流誌に論文掲載となったが、データ管理面で大問題を抱えていた。一般の医療機関でCDMSとして手が届くのはMS-AccessやFileMakerくらいであるが、これらは監査証跡という点でGCP対応の運用が困難である。ところで、EU clinical directiveの施行後も英、仏、独の3カ国はその後も創薬品目は日本より多い。そこで開発目的に試験を実施しているAROへの訪問調査を行う。高額システムでなくても試験が実施できる体制を、米英仏独の知恵と経験から非中核病院標準のCDMSとその運用を提案する。
研究方法
先ず、基本要件をICH-GCPに求めた。次いで、2008年に研究者主導臨床試験のためのCDMS標準仕様を策定した英プロジェクトから、最小限の必要不可欠な要素まで絞りこんだ。さらに以下の手順で妥当性を検討した。
①国内臨床研究の成功事例として平成24年から3年間に我が国で承認された医薬品、医療機器の審査報告書から、医師主導治験の実施体制を調べた。
②海外訪問調査として米、英、仏、独、スウェーデンの研究機関を訪問して、上記の最小限の必要不可欠な要素にいての妥当性について意見交換した。
③低予算200 万円程度で実現可能なプロトタイプ作成により実証した。
結果と考察
①国内文献調査からは平成24年から3年間に医師主導治験が実施され、承認された医薬品、医療機器は427件中17件あった。しかし、外部委託でデータ管理業務は行われており、特定機能病院における成功事例は唯一京都大学のみであった。高度なCDMSを用いずMS-ExcelをGCP準拠として実施して承認を得ていた。
②データの入力、取り込み、モニタリング、CDMSおよび臨床試験管理システム(CTMS)、その費用は財源、体制に関わらず国境を越えた関心事であった。
 AROにおける臨床試験と企業治験とのデータ管理上の違いが、無いとする立場とあるとする立場の両方があった。医師主導治験を実施していない場合にはGCPの原則であり、英政府の公文書からそのように読み取れるということをUKCRCの複数施設の臨床試験ユニットの管理者が証言した。英以外でも、ICH-GCP完全準拠(仏、スウェーデン)と、GCPの原則(独)に分かれた。
 電子署名は、英国ではUK MRC CTU以外は気にしていなかった。米国でも企業と契約して医師主導治験を実施しているヴァンダービルト大学は電子署名を含めて製薬企業とデータ管理で実施している業務に差異は無いと言われたが、大学発のシーズで医師主導治験を実施しているダナ・ファーバーがん研究所では、電子カルテとの一致性が担保されているので電子署名は行っておらず、FDAも承知していると言っていた。
 米では研究費に応じて使用するシステムをプロジェクトによって使い分け、同一機関でRave を使いながらMS-Excel によるデータ管理も行われ、SOPと多量のペーパーワークが必要と認識していた。スタンフォード大学ではMS-Excel の使用を止めるキャンペーンが数年前に行われ、REDcap の利用が進んでいた。
 英では公的研究の成果をInferMed という企業がMACRO という商品で市販化し、老舗のMRC CTU も含めてUKCRC がMACRO を採用していた。さらに、独マインツ大学もMACROを採用しており、ビジネスになっていた。米は2011 年4 月からNCI主導で、ライセンス料を支払いがん多施設共同研究グループで独占的にRave が使われていた。
 いずれも施設においてもセキュア、監査証跡はCDMS の最小限の必須要件であることに異論はなかった。現在の商業CDMS は明らかにオーバースペックで、システムにかかる費用はインフレしていることも同意が得られた。
③プロトタイプ・システムは特定の商用ソフトを使わずに、指定されたものだけがID、パスワードを入力すれば、データ入力が可能、かつ修正でき、かつ修正履歴が残るという機能を持ち、安価に実現することが出来た。
結論
高価なシステムを採用している施設でも基本的に求められる仕様に違いのなく、
・ セキュアであること
・ 監査証跡が残せること
・ データ管理のSOPを保持すること
・ バリデーション記録・バック
アップを定期的に残すことであることに異論はなかった。
ところで、欧米でもスキャンダルが契機になって臨床研究の制度や体制が変わっていた。CDMSの仕様を定めてシステムを導入だけで、主旨の理解なしに臨床研究を実施してはスキャンダルから学ぶことができない。ディオバン問題から学ぶべき点は、「監査証跡の機能」が欠如しては拙いということではなかったのか?

公開日・更新日

公開日
2015-06-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201435010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
欧米で実施される臨床試験がすべてICH-GCPによる国際水準であると想定していたが、実際には多様であった。特に出版目的の場合にはGCPの原則と述べるにとどまり、企業治験と異なるモニタリング・データマネージメントのスタイルで研究を実施していた。それでも、ICH-GCPのデータマネージメントのシステムに関わる要件としてセキュアなシステム、ならびに監査証跡については必須であり、我が国の統合指針との違いがあった。ただし、システムの要件は単純だが、臨床試験支援システムとして高度化していた。
臨床的観点からの成果
臨床研究の質は有名雑誌の載ることではなく、第Ⅰ相試験で専門雑誌に掲載されて承認申請に耐えうるものである。それを臨床家が関わるような体制ではなく、データ管理、統計解析を行う専門家の集団が必要であることが明白になった。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
アメリカ、イギリスが単に研究者に研究費を提供するのではなく、データマネージメントシステムについて国主導でインフラとして提供されていた。研究行政を見直す機会と思われる。
その他のインパクト
電子署名も含めて予想以上に企業とは異なって自由な発想で、しかるべく研究のデータの質の担保を考えていた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
2015年度統計関連学会連合大会企画セッション:日本計量生物学会シンポジウム「適正な医学研究の推進と発信に向けて」
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
2016年度日本臨床試験学会:教育セミナー「臨床研究データマネージメント・フォーラム」

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2017-05-30

収支報告書

文献番号
201435010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,995,000円
(2)補助金確定額
9,995,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 356,351円
人件費・謝金 0円
旅費 6,448,547円
その他 3,190,102円
間接経費 0円
合計 9,995,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-