文献情報
文献番号
201434016A
報告書区分
総括
研究課題名
皮膚ガス測定による無侵襲血糖モニタリングシステムの開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
飯塚 陽子(東京大学医学部附属病院糖尿病・代謝内科)
研究分担者(所属機関)
- 津田孝雄(有限会社ピコデバイス)
- 大桑哲男(名古屋工業大学物質工学専攻)
- 塩谷俊人(凸版印刷株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
国際糖尿病連合の調査では、2013年に世界糖尿病人口は3億8200万人で、日本を含む西太平洋地域は1億3800万人を有し、世界最大の糖尿病人口を抱えることが改めて浮き彫りになった。世界的に増加の一途を辿っている糖尿病や糖尿病合併症の発症予防・進展抑制のためには、血糖値を長期にわたり良好なコントロールが必要となり、これまでの単純な血糖値モニタリングからより質の高い血糖値を含めた包括的な在宅マネジメントサポートシステムが必要になる。これまで糖尿病および健常者の呼気ガス成分から血中グルコース濃度を推定することが可能であると数多く報告されているが、呼気は食物や口臭などの影響で精度に問題が出やすく、連続モニタリングのために、鼻や口に常時センサパッドをつけることは患者への負担が大きい。本研究は皮膚から排出される皮膚ガス測定による無侵襲血糖モニタリングシステムの開発を試みた。無侵襲で血糖値をモニタリングできれば、苦痛を伴うことなく高頻度な血糖値測定が可能になり、糖尿病の診断・治療の質の向上を目的としている。
研究方法
肥満ラットを対象に皮膚から放出される生体ガスを測定し、血中グルコースの推定を試みた。ポリエチレン素材で作成した皮膚ガス採取用バッグをラットの尻尾に装着し、皮膚ガスを採集した。ラットの尻尾から放出される5種類の皮膚ガス(一酸化窒素、アセトアルデヒド、アセトン、ヘキサナール、6-メチル-5-ヘプテン-2-オン)を測定し、有意差検定、回帰分析および重回帰分析は行い、有意水準はp<0.05とした。血糖値に関与する複数のセンサーを見出し、皮膚ガスから血糖値を測定する装置の製作を行い、試作器を用いた試験データの取得、血糖推算ソフトの製作、指プローブの製作を行った。糖負荷試験におけるヒト皮膚ガスの変化、皮膚ガスのGC/MS変化に関する統計処理を加えた皮膚ガス化合物の探索、解析から得られたマスフラグメントの寄与度情報を評価した。血糖値を連続的にモニタリングに向けて、体の一部分に固定して皮膚ガスを収集できる腹部採取用センサパッド開発のために、材料の探索、着色剤による影響・着色剤洗浄の効果に関する検討、接着剤の成分分析、固定方法・装着方法の検討、形状・大きさの検討、試作品の作成等実施した。
結果と考察
血中グルコース濃度を皮膚から放出される揮発性ガス濃度からの推定を試みた。3種類(アセトアルデヒド・アセトン・ヘキサナール)の皮膚ガス成分から重回帰分析を用い、血中グルコースを推定したところ、グルコース推定値の平均値と標準偏差は0.910±0.086と高い相関関係が得られ、これまで報告された研究とほぼ同様な結果であり、糖尿病および健常者の呼気ガス成分から血中グルコース濃度を推定することが可能であると数多く報告されているのと一致した。皮膚ガスによる血糖値評価装置を製作し、ブドウ糖負荷試験による血糖値と装置のセンサーの応答から推定した値と相関を検討した結果、良好な相関性が得られ、本研究目的が将来的に達成されるとの感触が得られた。皮膚ガスを捕集し、GC/MS測定を実施し、多変数解析を用いた血糖値と皮膚ガスの相関性に関しては、良好な関係が成立することを見出し、多変数解析により複数のプラス依存、マイナス依存物質のフラグメント数が明らかになった。形状・小型化の探索に向けて、センサパッドの形状が概ね決定したが、センサパッドを小型化するために皮膚ガスの効率的な取得方法も含め考える必要がある。素材の絞り込みに関しては、着色剤を除いたもので概ね使用可能だと判明し、接着剤の取り扱いに関しては、接着剤が皮膚ガスに影響を与えることが明らかとなり、センサパッドの皮膚ガス収集部分に接着剤が入らない構造にする必要があると考えられる。固定の工夫に関しては、身体の動きに合わせ、フィット感のあるもの、小型化に向けて、既存の文献や他の類似の機器を参考にし、小型化システムのモックアップを作製した。
結論
3種類(アセトアルデヒド・アセトン・ヘキサナール)の皮膚ガス成分から重回帰分析を用い、肥満ラットの血中グルコースを推定したところ、グルコース推定値の平均値と標準偏差はr=0.910±0.086となり、グルコースと皮膚ガスの間に高い相関関係が得られ、皮膚ガス成分から血中グルコース濃度の推定が可能であると考えられる。センサーの特定と計測方法に関する研究では、皮膚ガスと血糖値の相関性が存在することが明らかとなり、皮膚ガス中に血糖値に対応する複数の化学物質の存在が判明した。ガス・クロマトグラフィの分析結果から、ポリエチレンのプラスチック成型品に着色剤を取り除いたものを処理することにより、腹部採取用パッドとして使用可能な素材が得られることが判明し、既存の接着剤は、皮膚ガス取得の際に影響を及ぼす可能性があることが明らかになった。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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